16.誘われたのは
「え? 夜会ですか?」
「そう。今夜なんだけど。出てみる?」
一夜明け、明日の夜には帰ろうと決めた私は、早朝から机に向かい私がいなくなっても大丈夫なように計画書の作成や次の録音の準備など真剣に取り組みいつの間にかお昼になっていた。
食べる時間もおしくてペン片手にパンを咥えていたら、キャルさんの登場。
そして冒頭に戻る。今までそういう話はあったけれど、場違いな自分はと断っていた。
「ダンス教わっていたのでしょう? まぁ、正直楽しいかと言われると面倒のが多いけれど」
では何で誘ってきたのか?
つい首を傾げればそれだけで通じたようで。
美味しいご飯やドレスでも着たら気分転換になるのではと言われた。
此方のお金を持っていない私は、発展に貢献しているから衣食住はタダと有難いお言葉を陛下からもらっていたものの庶民の私は、極力質素を貫いていた。
準備からして面倒そうな夜会。
でも、興味はあった。元の世界に戻ったらこんな機会はないよね。一回くらいよいのでは? 小説でしかアニメでしかないものが実際経験出来るなんて凄いよね。
マナーなんて不安しかない。
ダンスはもっと自信ない。
喉がなった音がいやに耳につく。
「参加、させて下さい」
不安より興味のが僅かに上回った。
そうだよ。失敗したっていいじゃない。陰口を言われたって明日にはいなくなるんだから。
「決まりね! では急がないと間に合わないわね」
私よりも侍女さん達が一気に動き出した。
あっ、一つ不安が。
「あの、確か参加するにはパートナーが必ずいないといけないんですよね?」
キャルさんは。
「ふふっ、任せなさい」
なんか黒い笑いを返された。でも美人がやるとキマリマス。
……だ、大丈夫かな私。
*~*~*
初めて本格的なドレスを着た。
つ、疲れたよ。でも、お世話してくれた人の前でなんて申し訳なくて言えない。
キャルさんが去った後、大変だった。
磨かれ、また磨かれ…いつ終わるのかというぐらい道のりは長かった。でも皆のお陰で姿見に映る私は、別人になっていた。
「これ、私?」
自分で聞いてしまうほどの変身っぷり。
ドレスの色は白で透かしレースが素晴らしい。恐らく普通よりも胸元は広く開いてはいない。ただ形がボリュームは皆のお陰でアップしていて。寄せたニセ物だけどやっぱり嬉しい!
テンションが上昇してきてくるっと鏡の前で回りかけ、固まった。近くで満面の笑みを浮かべているジュリアさんに呟いた。
「あの、背中が」
「はい」
そんな笑顔されても困る。
「あ、開き過ぎでは」
「問題ございません」
キッパリ。
ううっ。笑顔が何も言うなと語っている。お尻近く迄開いているのは心ともないよ。
「あの、すごい我が儘なのは、わかっているのですが。ド、ドレスを替える事は…」
私のお願いは叶わなかった。最後まで言い終わる前に扉の開閉音の後、ノックの音がして。
「今晩は。異世界のお姫様」
とても存在感がある見目麗しい男性が入室してきて、流れるような動作でちかづかれ手をとられ口づけされていた。
この、大人な色気が駄々漏れな人はどちら様?




