魔法がとけたら
「魔女の娘は魔女なのよ」
お母さんが亡くなる前にそう言った
彼を初めて見たのは入学式が終わってクラス分けされた時
今思えば一目惚れだった
彼は明るい性格で、すぐにクラスの人気者になった
女子からの人気も高くて、彼の周りには女子生徒も集まっていた
あたしは彼をそっと目で追うだけ
話しかけることなんて出来ない
高校に入学して新学期が始まったばかり
地味で目立たないあたしのことは、たぶん名前さえまだ知らないんだろうな…
そんな時、女子の間で噂が流れた
隣のクラスのユミちゃんが彼に告白するらしい
家に帰ってお母さんの遺品をあさった
「あった…」
魔法の使い方の本
ページを開くと、すぐに恋の魔法について書いてあった
すぐに試してみる
「彼があたしを好きになる…」
とりあえず試してみたけど、こんなの本当に効くのかしら…
翌日学校に行くと、校門に彼が立っている
あたしを見て声をかけてきた
「ちょっといい?」
校舎の裏に連れていかれ、いきなり告白された
天にも登るような気持ち
もちろん即OK
あたしは彼と付き合うことになった
毎日一緒、週末はデート
充実した毎日
楽しくて仕方がない
彼は魔法にかかっているだけなんだけど、そんなことは関係なかった
ある日、彼が学校を休んだ
次の日も次の日も…
先生によると、体調を崩して入院したそうだ
でも原因は不明…
お見舞いに行くと、彼は笑って出迎えてくれたけど…
明らかにやつれていた
あわてて家に帰って、もう一度魔法の本を読んだ
彼の病気を治す魔法を探そうと、読んでなかったページを開く
次の瞬間、あたしは目を疑った
『恋の魔法は別名キューピットと言います。誰かの恋を成就させるための魔法です。この魔法で自分を好きにさせるのはやめましょう』
え?
『自分を好きにさせる魔法をかけてしまうと、その相手は魂を少しずつ削ってしまいます』
『あまり長い間かけ続けると、相手の命にかかわることがあります』
あ、あたしのせいだ
ちゃんと読まなかったから…
このままじゃ…
『魔法をといて、相手があなたのことを好きだった記憶を消せば、魂の力は徐々に元に戻ります』
「彼を治す方法はこれしかない」
魔法をとくのに迷いはなかった
あたしのことを好きじゃなくても、彼には元気でいてほしかったから…
あたしはすぐに魔法を解いた
「元の状態に…」
翌日、授業が終わると、急いでお見舞いに行った
魔法がとけて、あたしとの記憶がない彼は、いぶかしげな顔をしてこっちを見た
もう彼はあたしのことを好きじゃない
ううん、最初からあたしのことなんて好きじゃない
きっと、名前さえ知らない…
でも…
顔色が良くなってる
それから彼が退院するまで毎日お見舞いに行った
あたしのせいでこうなったから、彼が元気になるのを見届けようと思って…
彼が退院して登校してきた
人気者の彼はみんなに「退院おめでとう」と言われている
彼が近づいてきた
でもそのまま…
あたしの席を通り過ぎた…
もう彼にとってあたしは特別じゃないことを実感した
彼にとって今のあたしは、名前もよく分からない地味なクラスメイト
これで良かったんだと、必死に自分に言い聞かせた
授業が終わって帰ろうとしたら、彼が校門の所に立っていた
目を合わせないように、うつむいて通り過ぎようとしたら…
「ねぇ君」
突然彼に呼び止められた
「君、同じクラスだったんだ、名前はなんていうの?」
やっぱり名前も知られていない
何も言えずに黙ってうつむいていると…
「あの…毎日お見舞いに来てくれてありがとう」
あ、そうか…お見舞いは…覚えてるんだ…
「だんだん君が来るのが楽しみになって…」
「なのに同じクラスって知らなくてゴメン」
「よかったら、一緒に帰らない?」
これが、あたしと彼の本当のスタートになった
「これがママが高校生だった時に初めて魔法を使った話?」
「そうよ、魔法は使い方を間違えると大変なことになるの。だから、ちゃんと勉強して正しく使うのよ」
「はぁ~い」
「それと、魔法のことは他の人には内緒、パパにも内緒だから、話しちゃダメよ」
「話さないわよ、こんな話を聞いたらパパやいちゃうじゃない」
「うふふ、パパはやいたりしないわよ」
「そうかなぁ…、パパはママが大好きだから、きっとやいちゃうと思うけどなぁ」
パパはやいたりしないわ
だって、その彼がパパなんだから
魔法がとけたら
おしまい




