最初で最後の救い
由佳視点
後ろに投げ飛ばされる兄。
勢いと質量に見合った風が私を撫でる。
兄はどうなったのだろう。
助けないと。
でも振り向けない。
今目の前にいる蛇から目が離せない。
蛇に睨まれた蛙。
これって今の私?
…あぁ、死ぬのかな。
お兄ちゃんは…あんな勢いで投げ飛ばされて。
もしかしたら。
嫌だなぁ。
せめてお兄ちゃんだけでも。
お願い。
神様なんでしょ?
見てるんでしょ?
せめてお兄ちゃんは助けてよ。
……でっかいなぁ。
私の頭、スッポリ入りそう。
あぁ…お兄ちゃん、助け…
――ァァあァァァァァアァァァァッッ――
「オラァッ!糞がぁっ」
え。
空からお兄ちゃんが降ってきた。
「糞っ糞っ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっシネヤァァァッ!」
上から降ってきたと思ったら、そのまま蛇にしがみついて殴り始めた。
「ウァァァァッ!ダァッッッ!」
「えっ…お兄…え」
見たこともない、聞いたこともない汚い声で蛇にしがみつき、蛇を殴り続ける。
――シュララララッシュララララッ――
蛇は堪らず頭を振り回し、お兄ちゃんを振り落とそうとする。
流石に殴ってはいられないようで、お兄ちゃんは必死にしがみつき、振り落とされないように耐えている。
けれどもすぐに蛇は頭を振るのを止め、もんどりうつように頭を空へ上げ、勢いよく頭を下に振り下ろした。
ビタァァンッ!
蛇は鞭のように体を地面に打ち付けた。
その衝撃故か、お兄ちゃんが私の目の前に仰向けに投げ出された。
蛇は巻き付いていた木から滑らかに降りていき、荒ぶるように体をくねらせ森の中へ去っていく。
何で逃げて行ったんだろう…でもそんなことより。
「お兄ちゃん!?お兄ちゃん!?」
「うぅ…えぅげぇ…」
白目を向きながら呻いている。
生きてるっ。
良かった…。
「お兄ちゃん!起きて!もう蛇いないよ!」
胸に手を当てて激しく揺さぶる。
すると。
「ンァが」
揺れで頭をこちらへ向け、口をだらしなく開いた。
口から涎にまみれた丸い物が滑り落ちる。
「…なにこれ」
拾い上げると。
「…目?」
まさかっ、手が使えないからって、あの蛇の目玉を喰いちぎったの!?
……………………お兄ちゃん、かっけぇ。