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夢のない特訓

「さて私は一度戻る。ドゥミアーナ?」


 ドゥミアーナさんがベルエズさんに一礼すると、ベルエズさんは瞬く間に姿を消した。


「これからマナについての知識を深めて頂こうかと考えていたのですが、一度お休みになってはいかがです?お部屋へと転送致しますが」

「いえっ、いますぐ知りたいです」

「だねだねっ」


 新しいゲームでも買った時のような高揚感が僕達に沸き上がっていた。


「そうですか、では少々お待ち下さい」

「はい!」(由利/由佳)


 ブアンッ

 消えた!?

 ブアンッ

 お、戻ってきた。

 …なんで手にハンマー持ってるの?

 正方形の透明な塊に棒が突き刺さってる。

 すっごいシンプル…。


「こちらをどうぞ」


 ドゥミアーナさんの掌には500円玉程度の大きさの石が二つある。

 うすい茶色をしてる。


「これらの石は…マナ結晶とでも言いましょうか?」

「しょうか?」

「あちらではどう呼ばれているか知りませんので。精霊が消滅した際にこのような石が残ります」

「精霊!?」(由利/由佳)


 四大属性のあれ!?

 精霊の存在もそうだけど…えっちょっと待て。

 消滅って、そのハンマーで今殺して来たってこと!?


「ドゥミアーナさん、精霊ってあちらではどんな存在なんです?」

「精霊とはマナ(生命力)が物質に満たされ、時を経て意思を持つまでに至った存在です」


 お腹一杯になると何でもかんでも意思を持っちゃうのか?

 日本で言う所の付喪神(つくもがみ)みたいな物か?


「物質、それは分かりましたけど貴重な存在とかでは?」

「どこにでも在る存在です。たとえば空気に含まれる酸素など。マナの濃度と酸素濃度が濃い場所では、空気とマナが結合して誕生する精霊もいるようです」


 酸素の精霊?じゃあ二酸化炭素の精霊もいるのかな?

 科学の実験みたい…。

 精霊が身近な星、ファンタジー。


「ただの空気が精霊さんとか、もう何でもかんでも精霊になりそうだねお兄ちゃん」

「種類が豊富そうだな」

「私のイメージと違うなぁ…。精霊ってどんなのがいるんですか?」

「マナが豊富な場所を前提とすればどこにでも。例えば…川であれば水にマナが宿り、水が塊となって動き出します」


 え、それって。


「スライム?」

「なるほど、由利様がおやりになられるゲームの中のモンスターですね?似たような物かと」


 あちらではスライムは精霊なのね…。


「液体であれば全てスライムになる?意思があるってことは敵意も持ってるってことですかね?」

「精霊は基本的には在るだけの存在です。その在り様を妨げるような事をしなければ大丈夫ではないでしょうか」


 障らぬ精霊に祟りなし。


「火山地帯などではマグマに意思が宿るなんてこともありえるかと思います。居るだけで脅威となる精霊もいるかもしれませんね」

「お兄ちゃん私の想像してた異世界と違う…」


 同感だ妹よ。

 思ってたのと違うっ。


「所でその茶色いのは?」

「木の精霊のマナ結晶です。これをお二人の練習用にと思いまして」

「木の精霊…」


 トレントとかドライアドみたいな?


「ではお二人共、こちらのマナ結晶を手に取って下さい」


 おお。

 何だか鼓動しているような。

 暖かみを感じる。


「マナ結晶は精霊によってそれぞれ特徴があります」

「特徴…」

「水の精霊であれば、結晶にマナを込めれば水が沸きだしたり」

「うわ便利、川でスライム乱獲だねっ」

「そっとしておこうぜ…」

「火の精霊であれば当然火が吹き出す、先程お話させて頂いた、空気の精霊なら空気、分かりやすく言えば酸素が吹き出します」

「…酸素?」


 由佳がガッカリしてる。

 口に出さずとも顔が「ショボい」と言っている。

 空気の精霊に謝れ。

 そんな由佳を意に介さずドゥミアーナさんは説明してくれる。


「要は使い方です、工夫次第では役に立つはずです。例えば水に潜った時に口に含んでおいたりすれば呼吸が可能になるはずです」

「お、それはすごい、生活用マナ結晶って感じだな」

「ふ~ん、使い方次第ね~」


 由佳の琴線には触れなかったようだ。


「さてお二人共、まずはマナという存在の知覚から初めましょう。掌を開いて結晶を中心に乗せて下さい」


 言われた通りに僕達はマナ結晶を受け取り掌に乗せる。


「マナの制御において重要なのは想像力です。結晶を見つめて、心臓から、肩、腕、手首、そして掌から結晶にマナを流し込むようなイメージを頭に思い浮かべて下さい」


 心臓からマナを。

 肩から、腕に。手首に、掌にっ。

 なんか…血を送り込んでるみたいだな。

 心臓の血管から巡り巡ってぇ…。

 僕の血を…飲めっ!

 ポワァ。

 マナ結晶が鈍く光輝いた!

 結晶が生きているかのように脈打っている。


「そのまま維持し続けて。由佳様、集中して下さい」

「わっ、はいっ」


 頑張れ頑張れ。

 おぉ!なんだもう由佳の結晶も光ってる、やるな。

 負けてられん。

 よしもっと輝け、もっとだ、僕の血を飲めっ!


 バギャンッ!


「うっわ!?」


 マナ結晶から木の根が放射状に突き出した。

 木の根は伸びると同時に僕の胸を押し上げ前方に跳ねた。

 間一髪、顔は退けぞったおかげで無事だが、服には軽く穴が空いている。

 刺さってはいない。

 結晶は見る影もなく、腕と腕では抱えきれない程の、木のトゲの球体になって転がっていった。


「きっもっ!?」


 由佳はトゲトゲボールを見て震え上がっている。


「おめでとうございます由利様。マナを適性量込めた事で根が放出されましたね。マナの知覚、制御方法を掴めたようですね」


 なるほど。

 マナ、と考えるよりも血を意識するべきなのか。

 想像力、イメージ、なるほどなるほど。


「お兄ちゃんコツ教えて!どんな想像をしたの!?」

「マナ、というより血を送り込むような意識をしたんだよ、血液にマナが溶け込んでると過程してさ」

「ほほう………私の血を…飲めっ」


 バギャンッ!


「ぎゃあっ!?」


 考え方も同じなのね、双子すげぇ。

 全く僕と同じ結果になった。


「やったな」

「おめでとうございます由佳様。これでお二人共マナ知覚と操作が出来るようになったことでしょう、マナを血と過程するのが分かりやすいですね」

「もう木の根っ子はやだ…」


 僕も嫌だな。

 結晶を投げて時間差で根が伸びるならまだしも、至近距離でマナを込めるのは危ないだろ。

 …そんなもん渡すんじゃねぇ、とは言えない。


「次は物質操作です」


 フォンッ。


 ドゥミアーナさんの両手に細身の両刃剣が現れる。


「お取りになってください」


 差し出され剣を取り気づく。

 剣の柄に透明なマナ結晶が埋め込まれてる。


「その結晶は水の精霊のマナ結晶です」


 スライム?

 水だから透明なのかな?


「マナを注いでください」


 …せーのっ。

 冷たっ。

 柄を掴む手の中から冷たい水が溢れ出た。


「おぉ、キンキンだなぁ」

「おっ出たっ」


 由佳も成功したようだ。


「物質の操作とは、物質にマナを注ぎ込み、体内のマナと物質に込められたマナに繋がりを作ることで、体内のマナを操るがごとく、物質を自在に操ることです。ではその水を剣の刀身に纏わせてみましょう」

「水属性付与(エンチャント)!?」


 由佳は興奮して叫ぶ。

 ゲーム脳だなぁ。


「属性?」


 ドゥミアーナさんは首を傾げている。


「水が弱点のモンスター用ですよね!?」

「いいえ。刀身に生物の体液が付着するのを避けるためです」


 あれ?なんか、現実的な…。


「生物によっては触れる物を溶かす体液を持つ物もいますし。それによく考えてみてください。剣に水を纏わせただけで威力が増すと思いますか?」

「確かに」(由利/由佳)

「では水を刀身へ」

「はいっ」(由利/由佳)


 思ってたのと違うなぁ。

 その後も延々と続く特訓。


 では纏わせた水を(つば)から刃、切っ先と円を描くように循環させて下さい。


「うわ難ずかしいな…」

「なんか楕円形の形になるね」

「その調子です、まだ水流が安定しませんね、まずは水を刀身に纏める事を意識しましょう、理想は刃に薄く纏わせる感じに」

「圧縮的な?」

「圧、水圧…ウォーターカッターってこと!?ドゥミアーナさん水の刃!?」

「その通りです、正直これは使い所が限られるでしょう。厚い外殻に守られた生物、鉱物、金属など、刃物で斬るのに向かない物もあることでしょう。ノコギリやチェーンソーのような物を再現しようとしてる、と言えば伝わりますか?」

「なるほど」

「マインドレインぱないね」


 …だな、分かりやすい。


「使い所と言うのは、勢いで叩き斬ると言うより削り斬るからですかね?つまりは刃先をあてがい続けるから動けないと?」

「お見事です、説明するまでもありませんでしたね」


 敵なら拘束する必要があるか。

 まあ覚えておいて損はないな。


「なるほどね、………ねぇドゥミアーナさん私、剣に火属性付与したい!」

「はい?」


 なるほど、まだ気づいてないのか由佳よ。

 二次元の中に迷い込んだつもりでいるんだろうな。


「炎の剣ってカッコいいよね!火炎剣!」


 由佳がゲームのキャラクターの剣技を真似するように剣を振り回す。

 お前こんなにバカっぽかったっけな。


「由佳さん」

「え?はい」

「どうして剣に炎を纏わせるのですか?」

「えっ…、焼き斬るんですよ!ズバっと斬ったら斬り口から敵を焼き尽くすんですよっ!」

「そんなことが出来るとお思いですか?」

「えっ…出来る…」

「出来るわけがありません」


 うぉっ…ドゥミアーナさんの圧がすごい…。

 由佳がふざけ過ぎたせいなのか、ドゥミアーナさんが凄い剣幕で説教のような説明をし始めた。

 何故か僕まで巻き込まれて説教特訓が始まった。



火を纏わせて何の意味があるのでしょう。

材質にもよりますが、熱した剣は脆いのです。

硬い物を斬ろうものなら折れてしまいますよ?

時には打撃も必要です。

対象が刃も通さない程に硬いのならば砕くのです。

刀身に木を纏わせましょう。

そう。

大切なのは応用力です。

纏わせただけでは効果が薄いでしょう、切っ先に重みを…

そんな意味のないことをしてマナ消費してはいけません…………


「マナが枯渇していますね、これ以上は危険です。今日はここまでとしましょう」

「ありがとうございました……」

「あり…はぁとう…ざいましはぁっ、はっぁ、はぁ」

「それではお二人の御自宅へ転送させて頂きます、その前にベルエズ様をお呼びしますね」


 フォンッ!

 ドゥミアーナさんが瞬く間に消えた。

 ……………………………………。


「はぁ…はぁ」

「お兄ちゃん、はぁっはぁっ」

「どうした由佳、はぁ…はぁ」

「…はぁっ……お兄ちゃんが無事に帰ってこれるよう祈ってるね」

「お兄ちゃんを一人にしないでおくれ…」

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