黙さずに語らず
「うっわここ何処ぉわぁ!?」
由佳がバランスを崩し、尻餅をついた。
視界が暗転した瞬間僕達は。
真っ白な空間にいた。
左右見回しても何もない。
どこを見ても、奥行きを無限に感じる。
それは下を見てもだ。
下を見ると、落下してるのではないかと錯覚してしまう。
浮いてるように思えるが、足を踏みしめる感覚は感じる。
だが地面などない。
「お二人が先程までいらっしゃった部屋の座標に、地球に影響を与えないよう、ベルエズコクス様が空間をお作りになられました」
うぉぅ。
いきなり背後からしゃべりかけないでくれ。
「じゃあ、あの子が?」
「はい。ベルエズコクス様です」
真っ白な少女。
彼女もアルビノ?
なんでドゥミアーナさんと一緒なんだろ、親子?
真っ白な空間に真っ白な姿。
そして浮かび上がる深紅の瞳。
超怖い。
そしてあんなに幼い容姿なのに、なんだか威厳を感じる。
神様だからか?
「ΩζΨκΠΡιθυοφπζζ」
…あんたもかい。
聞いてたんじゃないのかよ。
「妹よ」
「何?」
「あれを食らってこい」
「あれ?」
「記憶と知識を差し出してこい」
「マインドレイン?」
その勝手に名前つける癖止めてくれないか。
マインドレインて。
マインドを省略するな。
爆弾を吸収するのか。
精神が雨のように降ってくるのか。
マインドドレインでいいじゃないか。
まぁどうでもいいか。
「ドゥミアーナさん、神様は話聞いてたんじゃ?」
「いいえ、私が常時会話を翻訳してベルエズ様にお伝えしていました」
どうやって?
なんていちいち聞いていては話が進まない。
しかし、そんな風につながり?があるなら僕の知識も記憶も同時にベルエズさんに伝わったり…しないか。
そこまで都合よくはいかないのだろう。
ドゥミアーナさんは少女に近づき、膝をついて頭を差し出す。
少女はドゥミアーナさんの頭に手をかざす。
ドゥミアーナさんの頭から手を離し、純白赤眼の少女はこちらを見る。
「やぁ由利さん由佳さん。驚かせてしまったね、改めて私がベルエズコクス、ベルエズで結構」
おぉ。
にしても声は男なんだね。
余計に威厳を感じる。
神に性別はないってか?
「うわっ、お兄ちゃんお仲間だねぇ」
「もう黙っててくれ」
「さて、先程の話の続きをしよう」
「あっ、ベルエズさんとドゥミアーナさんでなんとか出来ないのかってことだよね」
由佳の問いにうなずくと、どこから呼び出したのか、透き通るように透明な、クリスタルで作られたような椅子を出現させ、ベルエズさんは腰を下ろす。
浮かんでる。
「先程、地球に影響を与えないように空間を作り出した、とドゥミアーナは言ったね?」
あぁ、そういえば。
「まあ実はドゥミアーナが君達の部屋へと向かう前には、既に君達の部屋を囲うようにして、ドゥミアーナと私の認識を地球から阻害する空間を作り上げていたのだが」
僕と由佳はちんぷんかんぷんなままにうなずく。
「地球にも言えるかな?私が私の創り出した星へ降り立つと、星の地脈を流れるマナが、私の元へ収束してしまうんだよ」
「収束?」
「うむ。元に戻ろうとしてしまうということだ」
「なんで元に戻ろうとしちゃうんです?」
「私が創った星と言うのはね、私の体の一部を切り離して創った星なのだよ」
えぇ!?
神様の体が星になったの!?
「無理やり私の体を分けて一つの星、ということにして切り離したんだ」
「ベルエズ様が星に近づくと、再生が始まるのです」
む、難しい話だ…。
しかし気になるな。
「地球もベルエズさんが?」
「いや、姉だ」
「姉!?」
神様あんた姉いるの!?
「お姉さんが地球を創ったんですか!?」
「そうだ、しかし今は関係のないことだ」
「そしてドゥミアーナにも同じことが言える。ドゥミアーナも私の体の一部を切り離して造った私の分身。いや我が子かな?」
つながってるってそういうこと。
だから二人とも真っ白シロスケなんですね。
「なるほど。ドゥミアーナさんが星に降りても、同じようにマナの収束が起こる?」
「私ほどではないが多少はね?」
「私が人間の街へと降りた時は、時間が経てば経つほど街に悲鳴が巻き起こり、街は崩壊し、化け物だらけになりました」
「えぇ!?なんで!?」(由利/由佳)
「過剰に栄養を与えてしまったと言えばいいのでしょうか?」
「ドゥミアーナに辺りのマナが引き寄せられてしまった結果、地形、そして生物が過剰な量のマナを吸収してしまったんだ。ドゥミアーナが同じ場所に留まれば留まる程に植物は異常な成長を見せ、地面は盛り上がり、建物は崩れ。そして街の中にいた動物や虫が巨大化していった」
「うげぇっ」
由佳がえづく。
何を想像したんだろう。
しかし、星に居るだけでそんな事に。
だからこそ自分達ではなく他の力を借りたがる訳だ。
由佳が嫌そうに訪ねる。
「虫って、どんなのが巨大化したかわかります?」
「君達で言うところの、ゴキブリが大半であったな」
「オゥマイガァ」
変な声出すな。
まあ嫌いだもんなお前。
僕も想像するだけで寒気がするな。
「ベルエズさんが降りたら?」
「山が出来る。マグマだまりが地下にあれば火山が出来る」
アカン。
スケールが違う。
「大地が盛り上がるのは、土に含まれる物質がマナの影響で成長するのか、……原因は全く分からんのだがね」
いるだけで災害。
「私が降りた時には異常な成長を遂げた生物が星を破壊する勢いで暴れてしまってね。それが原因でとても苦い思いをした。もうあんなことは懲り懲りなのだ。君達の力を求める理由、納得してくれたかな?」
神様は神様なりに苦労してるんだねぇ。
そう思うと力を貸してやりたいとも思うが。
しかしまだ肝心なことは聞けてない。
「結局どうしてほしいんです?」
「うむ。ドゥミアーナの話の通り、星に害をもたらす生物、生命術を使い悪事を働く人間の始末」
「始末!?」
「すまん冗談だ」
あんたが言うと冗談に聞こえんわっ。
「後程指定する人間を捕まえてくれればこちらで処理する」
結局始末すんのかな。
「そして一番の目的は、私の星を旅してほしいのだ」
「それだけでいいんですか?」
「それだけでいい。私は自分の星を遠くから見下ろすことしか出来ぬ故、自分の創った星に根付く文明、生物の種類を聞かれても分からん」
「代わりに調べろと?」
「うむ」
ポンッ。
小気味良い音と共に、ベルエズさんは古めかしい筒を手に出現させ、僕を筒で覗く。
使いこんでそう。
てか望遠鏡かあれ。
「どうかな?」
「…僕達にできますかね?」
「君達にしか出来ないことだ。勿論最低限サポートするし、危険な場所へ行けとも言わない」
「サポートって具体的には何をしてくれるんです?」
ずっと黙っていた由佳が質問する。
「二人の身を守る為の物資の定期的な供給。私の星で生きていく為に必要な知識、これはマナの制御についてだな。そして最後に、大層な物は与えられぬが特殊な力を一つ、二人に与えよう」
出たチート能力。
ありきたりだけどないと困るね。
「……」
「由佳?」
不安なんだろうな。
「正直、創った本人が詳しく知らない星に行くだなんて不安かな」
ごもっとも。
「所でその星の名前ってなんですか?」
「考えたこともない。現地の人間に聞けばもしかしたら、人間達の中でつけられた名前があるかもしれんな」
不安だぁ。
「そういえば人間の数ってどれくらいいるんです?」
「100億は超えるかと」
おぉ。
地球よりデカイのかもな。
「魔物だとか言ってましたよねドゥミアーナさん。そのマナの制御とやらで、身の安全は守れますかね?」
「問題はないかと思われます。原に人間は星の生態系の頂点に君臨しております」
それなら、大丈夫かな?
「僕達がその星にいる間って、地球での僕達の存在はどう扱われますか?」
「全てが済んだ時には出発した年と時刻へ君達を送ることが可能だ。ちなみに体の成長はこの指輪を着けていれば止まるだろう」
ポンッ。
ベルエズコクスの掌に二つの指輪が現れた。
「マナは無限に体に蓄えられるわけではない。その余剰分をストックすることが可能な指輪だ。マナの供給を絶えず行うことにより、老化を防ぐことが可能になる。勿論マナを枯渇した体に必要な分だけ供給することも可能だ」
なんじゃそりゃ。
ぱねぇ。
さすが神様。
「指輪に並列する二十四の玉は、マナの総量に応じてそれぞれ赤く輝く。体の老化を防ぐ為に、三つは必ず維持するように。まあ使用して確かめてくれ」
地球に帰ったあとのアフターケアは万全、とは言えないな…。
この指輪無くしたらやばいじゃん。
時間は遡れても、体の成長は巻き戻せない。
この指輪がその証拠。
でも、行きたいと思ってしまう。
「どう?由佳、一緒に行ってみない?」
「……」
「こんな経験普通出来ないぞ?」
「………そだね、はぁ…お兄ちゃん一人じゃ心配、行く」
「ははっ、由佳がいるなら心強いよ」
二人は指輪を受け取り、人差し指にはめる。
ベルエズコクスは微笑む。
「ありがとう」