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不安と手探り

 目が覚めると。


「あ、起きた」


 由佳が覗き込むように僕の顔を見下ろしてる。


「おぉ…、どんくらい寝てた?」


 こんなに気だるいのはいつ以来だろ。

 霞む視界で由佳を見つめると、ボーッとこちらを見つめている。


「…由佳?」

「んぁえ!?どしたん!?どっか痛い!?」

「いや大丈夫」

「どの位時間経った?」

「多分そんなに時間は経ってないと思う」

「ふ~ん」

 

 少し薄暗くなってきたかな?

 さてどうしようか…寝る準備?それとも夕飯?ベッドは無いしキッチンもない。

 とりあえず起き上がろうとして手を地面につけようとしたが。


「痛っ…何これ?」

「折れてたから応急処置しといたの」

「あぁ、折れてるんだ…ジンジンするなと思った」


 どこからか拾って来たであろう枝に、布の切れ端のようなものがきつく巻いてある。

 よく見れば。


「あぁ、服破いたのか」

「うん、ごめんね」

「んなの全然いいよ、サンクス」


 おそらく着回してる僕の服だから謝ってるんだろう。

 そんなことよりも。


「…どした?由佳」

「え?いや?なんでもないょ…」


 なんだこれは。

 妙に由佳がよそよそしい。


「どしたよ?」

「ん…」


 あぁ…なるほど。


「気にするなよ、僕も最初はパニクってたし、あんなバケモンみたらそりゃ立ちすくんじまうさ」

「ぅん…」

「??」


 え?何?なんなんだこの反応。


「由佳まじでどうした?」

「お兄ちゃんマジカッコ良かった、惚れた」

「え?…それは良かった……?」


 どうしたそんなに顔を赤らめて。

 …何この空気耐えられん。

 そんな僕の空気を察してくれたのか。


 バスンッッ!


 何か落ちて来た。


「…ビックリした」


 生き物じゃないよな。


「あ、準備が出来次第物資を投下するって言ってたね」

「あぁそういえば」


 あ、見たことある。

 …おそらく僕の知識から再現したんだろうな。

 物資にパラシュートを取り付けて投下とは。

 

「まあ取り敢えず荷を解しましょうかね」

「うぃ!」


 あんな事があったばかりなのに、なんか思ったより元気だなぁ。

 まあ良かったわ。


「完全に軍の物資投下の丸ぱくりだな」

「お、訓練の時の剣だ!」


 縛り着けてあった剣を引き抜き、ブンブン振り回し始めた。


「いやいや、とりあえず荷を解そうぜ…」

「ん」

「と言っておいてなんだが片手だとだるい、由佳頼むわ」

「任せて~」


 由佳に任せ、地面に腰を下ろし。

 改めて手を見てみる。

 左手の親指以外の指が全部根元から折れてる。

 …やばくない?

 治るの?これ。

 …右手は無事だ。

 驚いたことに、かぶりつかれた肩は問題ないようだ。

 けどジャケットには思いきり歯形状の穴が空いている。


「由佳、今さらだけどあの蛇どうした?」

「ん?お兄ちゃんを振り落としてすぐ逃げたよ」

「ふ~ん、そかそか」

「も~びっくりしたよ、のびてるお兄ちゃんの口から蛇の目玉が出て来てさ」


 何だか嬉しそうに喋りながら、由佳は物資を取り出していく。


「あぁ、振り回されて両手でしがみつかないとヤバかったからさ、口が空いてたからかぶりついてやったんだよ、あれ?その目ん玉どこ?」

「そこ」

「お?こんな所に」


 落ちてたので拾い上げ、改めて大蛇の目玉を見てみる。

 深紅に彩られた宝石のような目玉。

 かぶりついた時に、硬くて全然噛めないもんだから、思いっきり吸出してやった。

 体は白く、目は赤い蛇。

 まるで。

 ……………………。


「…こいつは高く売れそうだなぁ」

「そだね、綺麗だし…お、これは…」

「ん?」

「なんか回復出来そうこれ」


 そう言って投げて寄越してくる。

 手のひらに収まる位の大きさの透明な小瓶。

 中にはトロリとした透明な液体が入っている。


「回復薬なのかなこれ」

「あ、手紙」

「手紙?読んでみて」

「ん、…ご無事なようで何よりです。由利様の目を通して見ておられたベルエズ様はそれはそれは楽しそうに……………」


 由佳は顔を歪ませて手紙を睨みつけている。

 2枚あるようで、一枚目を読むのを止め、二枚目を読み始めた。


「…荷物になってはいけませんので最低限必要であろう物を取り揃えました。水筒、寝袋、スキレット、ナイフ、剣、拳銃…拳銃!?」

「どうやって準備したんだ…でもいいね」

「だね。ペンライト、予備の共視レンズ…」


 予備、てかつけっぱでいいのかな。

 目が痛くなったら取り外せばいいか。


「そして今日のお食事として、由利様の好物のナリッシュメントバーを10箱、栄養ドリンク2本を用意させて頂きました」

「そんな物まで用意してくれたのか」

「好きだもんねあれ」


 ニート生活の友。

 毎日食べてる栄養補助食品…だけどあれ口がパッサパサになるんだよなぁ、栄養ドリンクだけだとなぁ…まあ水を飲めって話か。


「最後に透明な液体の入った小瓶になりますが、こちらはマナへの干渉力、吸収量を一時的に高める効果があります。由利様のお望みになられた常在的な上昇値に比べれば微々たるものですが。こちらは10個用意させて頂きました。最後になりますが共視レンズは必ず……………」


 由佳は手紙を置いてまた荷を解し始めた。

 読むの止めちゃったよ。


「お兄ちゃん飲んでみなよそれ」

「だな」


 キュポッ。


 一息に小瓶を煽り飲み干す。


「どう?」

「鼻水でも飲み込んでる見たいで気分悪いわ…」

「うへぇ何その例え…で効果の程は?」

「………いや、なんも感じないかな」

「手にマナを集めてみたら?」

「あぁ、ドゥミアーナさんが言ってたな。マナを集めた部分の治癒力は高まるんだよな、よし…」


 左腕へと意識を向け、マナを集める。

 じわじわと暖かくなっていく。

 ピリピリと皮膚の裏側に痺れのような感覚が蓄積していく。

 ん…んン!?


「う…わ…」

「何?何?」


 頭がクラクラしてきた。

 気持ち悪いし吐き気もする。

 まっすぐ立っているのもつらい。

 これは…。

 いよいよ立ってられなくなり、地面へ腰を下ろす。


「どしたの?」

「うぅ気持ち悪い」

「えぇ?」


 マナの操作を一旦止め、気持ちを落ち着かせる。

 何これ、大丈夫なのかよ。


「大丈夫?」

「由佳さ、手にマナを集めた時とかさ、どんな感じだった?」

「?」

「僕的には体内のマナを操る時って、例えば手に集めるとしたらさ?手に血を押し留めておくイメージなんだけど…」

「あぁ分かる、私さっきパンチした時とかも感じてたんだけど、腕とか手が膨らむ感じがしたよ!」

「そか…でもそれってさ?体内のマナだけでの結果じゃん?」

「うん?」

「内だけの問題じゃなくてさ、この瓶の中身を飲んでから手にマナを集めたらさ、めちゃくちゃ溜まりが良いんだよ」

「干渉力に吸収量を一時的に高める、だっけ?所で干渉力って何?」

「ごめん、僕もなんとなくしか分からない…ただね、体内のマナだけじゃなくて、外からもマナが集まってるんだと思う」

「ふ~ん、それが酔ったのと関係あるの?」

「いや、言っておくけど飲むのと飲まないのとではめちゃくちゃ違うからな?もう血管がビキビキッて膨らむ感じ?頭とかグワングワンするしさ、それこそ手が爆発するかと思ったよ…体も火照ってるし」

「つまりはマナを大量に外から取り込んで酔った?マナ酔いってヤツかな!」

「マナ酔い、そゆことかな…」

「なんで手紙にちゃんと書かないのかなぁ…あのアルビノ姉妹、適当すぎ…」


 姉妹かあれ?


「説明してくれる人がいないから、手探りで行かざる負えないのは辛いな…」

「最初に出会った人は死んでるし…ねぇ、あの死体に巻き付いてた糸、この剣で斬ってさ、下ろしてあげよ?んであの小屋で今日は寝よ?もう日が傾いてる」

「だなぁ、横になりながら治癒に専念したい」


 見上げれば、暗く青みがかったそらにやけに赤い日の光が侵食されるように後退している。


「……外で野宿はないわな、精霊がいるから大丈夫かと思いきや、なんであんなのが巻き付いてるんだよ…本当に精霊か?あれ、仕事しろよ」

「…言われてみればあの木だけ違うね」

「え?」


 由佳はジーっと蛇が巻き付いていた木を見つめている。

 何が見えてるんだろう。


「ま、とりあえず小屋を綺麗にしちゃお?」

「…おう」


 由佳に剣を持たせ、小屋まで歩く。


「死体は…せめて埋めてあげよう…小屋の裏とかに」

「そだね」

「しかしマジであの糸なんだろうな」

「糸って言ったらやっぱ蜘蛛だよね…」


 喋りながら小屋につき、扉を開く。


 ギィーッ。


 上を見上げながら小屋に入ると。


「……居ないじゃん……」

「嘘…」


 地面に散乱した糸。

 天井には老人の死体はなく。


 屋根には大きな穴が開いていた。

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