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王の器  作者: 餓鬼畜生
6/9

#5 戸惑い


 時計はその針を全て12時に揃えた。国一大きな教会から、壮大で厳かな鐘の音が鳴り響く。

 新たな団員を迎え、動揺を見せた騎士団のざわめきもそれが鳴る頃には収束していた。


 渦の中心は勿論、フリーデン王国第一王子エーミール・フリーデン・ケーニヒだ。

 しかし、騎士団の騒ぎは収束しても国民はそうは行かない。午前10時頃、全国に第一王子が病で床に伏し、暫くの間療養期間に入ると報道された。分け隔てなく国民を愛し、愛されていた王子が苦しんでいると知った国民たちは早くその病が治るように祈りを捧げる。


 混乱の中、ヴィムは傍らに一人の男を連れ、服と顔を隠す為の仮面を用意するため外出していた。

 裏路地を抜け、いりくんだ道を幾度も曲がった先。まるで隠すように日陰になった古い店は、もう掠れた字で「OPEN」と書かれた札が下がっている。


「よう、ヴィム。すごい騒ぎだぜ、外」


 パイプをくわえ、しゃがれた声でヴィムに語りかける老人が、カウンターに座っていた。帽子を深く被り、それでも衰えない鋭い眼光で客を見つめる。シワだらけの手は黒く汚れて、長年その手をひたすらこきつかっているのが伺えた。


「ええ……王子が愛されている証拠です。正直予想以上ですが」

「皆お前さんみたいに騒いだら最早災害だ。そこまでじゃなくてよかったよ」

「っ……わっ、私はそこまで……!!」

「青いなァヴィムよ。……おや失敬。そちらさんは?」


 少々ヴィムを弄んだ(のち)、老人は見慣れない男の事を問う。

 フードを深く被り、鼻から首に掛けて布を巻いた男。彼はどこか優雅な所作でその布とフードを取った。

 その顔を見て、老人の目が見開かれる。


「お初お目に掛かります。金属加工職人、ルッツ・シュミットさん」

「……こりゃあ驚いた……王子さんかい」

「はい。エーミール第一王子です。彼の顔を隠す仮面を作っていただきたい。頼めますか」


 その問いかけに、ルッツは乾いた笑いを溢した。


「愚問だヴィルヘルム。こっちから頼みてぇぐらいだ」


 深く被った帽子を外し、金属でできた右足を軽く引き摺りながらカウンターから出てくる。エーミールは無意識に手を伸ばし、体を支えた。


「ああ、すまないな王子」

「いえ。……その足のことをお聞きしても……?」

「ああ、こいつか」


 自らにつけられた金属を数回叩き、ルッツは笑う。


「大分前……ナーハズィヒトが丁度ヴィムぐらいのとき、ちとヘマをしてな」


 エーミールはその言葉の意味を理解したと同時に、眉間に深いシワを刻む。

 ヴィムの祖父、ナーハズィヒトは、やはり王の為にその身を賭して戦った戦士だ。その最期は美しいと言えば聞こえはいいが、現実をそのまま伝えれば実に残虐なものだった。


 その話は、またの機会にするとしよう。


「俺の話はいい。あんたの顔を隠さねぇとな」

「……お願いします」


 ◆ ◇ ◆


「ナーハズィヒトの件、どうかお気に病まれませんよう」


 ルッツとの分かれ道、ヴィムが不意に声を発した。

 まだ周りは高い壁に囲まれている。


「……それは、できない」


 銀色の仮面に包まれて尚消えぬ、慈愛を孕んだ瞳と声色。僅かに躊躇うように足を止め、しかし決心したように喉を揺らした。


「……我が身は、王の為に」


 カツ、と軍靴を鳴らし、騎士団長はその足を止める。それを聞いた王子は苦しげに睫毛を伏せる。

 暫しの間時は流れ、エーミールの唇が離れた。

 

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