#1 王国騎士団
「貴様にできると言うのか」
声。声が聞こえる。無数の声だ。
「貴様ごとき矮小な人間一人が、広大な大地を守れると言うのか」
老いた男の声。
「だからやめろと言ったのに」
若い女の声。
「下らない志だ」
しゃがれた男の声。
「黙って居れば守れたものを」
若い男の声。
その全てが私を攻め立て、選択が誤っていたと告げる。
その声は次第に大きく、そして、増えていく。
幾千、幾万の音の塊が、最後に声を揃えて言った。
「お前は、国に不要だ」
◆ ◇ ◆
「王子!!」
「__っ!?」
男の力強い揺さぶりと声により、エーミールの意識は覚醒する。
体はじっとりと汗にぬれ、激しく心臓は脈打っていた。
「王子、ああ、そんなに汗をかかれて……!! 魘されておりました。やはりそのベッドでは夢見も悪いでしょう。もっと良いものを……」
「ヴィム、ヴィム」
慌てふためく男の名を呼び、落ち着かせようと肩に触れる。すると男は不安げな表情のまま動きを止めた。
「は、はい。王子」
「大丈夫。たまたま悪い夢を見ただけだよ。悪夢はどんな場所でも見るときはみるものさ」
「ですが……!私は王子があそこまで苦しんだ姿を見たことがありません……!」
「ほら、落ち着いて。せっかく整った顔立ちをしているんだ。笑っていた方が美しい」
取り乱すヴィムにそう告げると、エーミールはにっこりと笑い相手の頬を撫でる。
彼の言う通り、ヴィムは本来実に精悍で、それでいて美しい顔を持っている。しかし、将来国を担うものが苦しんでいる……いや、そうでなくとも、幼い頃より主従関係を結んでいるものが苦しむともあればその顔も歪むだろう。
「王子がお望みであれば……」
不器用だがまっすぐな笑みにエーミールは頷くと、付け足すように注意をした。
「それから、私のことを王子と呼ぶのはそろそろ控えなくてはならないよ。騎士達には私の顔が見られているから仕方がなかったが、民に知られてはパニックになるやもしれないからね。……私が狙われて、皆に傷を負わせるのも以ての外だ」
「はっ」
エーミールが現在目を覚ましたのは、最も王宮に近い軍団とされる、王国騎士団〈フォイアー フーゲル〉のための宿泊施設である。施設は軍の中で最も大きく、支給される資金も多いが、人数は少ない。と言っても、他に比べて、という程度だ。
フォイアー フーゲルは攻撃の為だけに有らず。騎士団はいくつかに分かれている。
1つめは「特異騎士」前線に立つ騎乗兵であり、自らの持つ剣は魔導師達が作り上げた魔法が付与されたものとなっている。1番位が高く、団長はここに所属する決まりとなっている。
2つめは「魔導騎士」主に魔法を使い前線のサポート、または自らで戦う攻撃、支援魔法に特価した者である。
3つめは「王宮警護隊」その身を賭して国最後の砦となる舞台。それ故に実戦に出る機会は少なかったが、現団長の意向により戦力として機能するよう半数は数時間に渡って領土外の魔物を退治している。
4つめは「看護部隊」回復に重点を置いた看護兵。攻撃はほかの隊に劣ったとしても国最高峰の機関にいるため他の軍には劣らない。回復魔法と防御魔法に特化している。
そしてヴィムはこのフォイアー フーゲルの団長であり、エーミールは現在特異騎士に所属している。
王国で彼に剣や馬など戦闘の指導をしていたのはヴィムだったということもあってか、そこにいても支障はないほどの腕を有していたのだ。
そして、問題はなぜ王子であるエーミールこの場にいるかということだ。
時は1日前に遡る。