プロローグ
心地よい風が窓から入り込み、艶やかな金髪を撫ぜる。
広い音楽ホールのような場所、オルガンの下。美しいヴァイオリンの音は小鳥を魅了し、その喉を震わせた。それに気づいた青年は柔らかく微笑み、小鳥の声に合わせて音色を変える。
「エーミール第一王子」
不意に冷淡な声が響き、ピタリ、と演奏が止まった。
王子と呼ばれた青年がその碧眼を声を発した女性へ向ける。
「リーゼ。……浮かない顔だね。悪い知らせかい?」
苦笑を溢すエーミールは、侍女であるリーゼに問いかけた。
彼女は眉をひそめると、「はい」と答える。
「王は、次期王に何かあっては困ると仰っておりました」
「……なるほど?」
怒ったようにその言葉を受け止めたエーミールに、リーゼはその顔に焦りを見せながら続けた。
「私も、王のお言葉に賛同致します。もしエーミール王子に万が一の事があってはクラウディア王女も悲しまれ__」
「リーゼ。自らの意見に主の名前を使うのはやめなさい」
人差し指を自分の口に押しあて、僅かに鋭い目付きでリーゼを見据える。それにハッとした彼女はすぐに頭を下げるが、説得を続ける気はあるようだ。
「次期王が生き残っても、民が居なければ意味がない。私が生きているだけでも、国が消えては意味がない」
リーゼはその言葉に顔をあげると、凛々しく、しかし寂しげに遠くを見つめるエーミールの姿が目に止まる。それにもう一度眉をひそめてから、「王への謁見を申請して参ります」と頭を下げ、扉の向こうへと消えていった。
「……主よ。我が民に幸福を」