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僕の短編小説集

もしも、あの時、遅れていたら・・・

~前略~

 メロスは、ディオニスに人質としてセリヌンティウスを預け、三日後に戻ってくると約束した。

 メロスは、それからすぐに村へと戻り、妹の結婚式を開かせた。そして、無事に式を終えたメロスは深い眠りにつき、再び目覚めた3日目の朝、急いで町に向かって走り始めた。

 その道中、メロスはたくさんの困難にみまわれるが、何とか切り抜けて、ついに町へと辿り着いた。

 そこで、セリヌンティウスの弟子フィロストラトスに会い、もう間に合わないと言われるが、まだ、日は沈まないと信じ、メロスは走るのをやめなかった。

 やがて、刑場が見えてきた。その瞬間、メロスは疾風の如くその中へ突入し、群衆を掻き分けてセリヌンティウスの元へ急いだ。

 メロスは走った。メロスは走ったのだ。山賊に襲われ、一度は諦めたものの、何とか復活し、ディオニスの元へ戻ってきたのだ。しかし、一足遅かったようだ。刑場にたどり着いた頃には、竹馬の友セリヌンティウスはすでに息絶えてしまっていた。

 メロスは絶望と悲しみの青色に染まった涙を流し、

「セリヌンティウス...。」

と、 嘆いた。そこへ、蒼白な顔をした暴君ディオニスがやって来て、

「やはり、遅れてきたのだな。これだから、人は信じられぬのだ。約束通り、お前の罪を永遠に許してやろう。」

と、その時を、待っていたかのように嘲笑した。群衆は王に対して憎悪を覚えるが、恐くて表に出すことなど出来ない。メロスは間に合わなかったのだ。フィルストラトスの言う通りになってしまった。間に合う、間に合わぬは問題では無いと思っていた。自分はもっと恐ろしく大きいもののために走っていると思っていた。しかし、友を失うこと以上に恐ろしく大きいものなどあるばすがなかった。私は本当に気が狂っていたのか。メロスは自分を攻めてた。

 そもそも、結婚式の後、深い眠りにつかなければ、間に合っていたのだ。あそこで悪い夢を見なければ、間に合っていたのだ。途中で諦めて、何が勇者だ。何が「呆れた王」だ。仲間を見殺しにした私の方が呆れられるべき存在だ。まさに、自業自得。あの時、余裕をかましている場合ではなかったであろう。メロスは自分の過ちに気付き、さらに、自らを攻めたてた。

 それから、メロスは思った。自分は友の命、そして、恐らく名誉のために走っていた。友の命さえ無くなってしまったが、最後までセリヌンティウスのために一所懸命に走ったのだから、まだ名誉は失ってないはずだ。ここで、王に私を殺してもらえれれば、ここに深紅の血を残して、死ぬことが出来る。正直な者として死ぬことが出来る。あっちで友に詫びることも出来る。ここで死なずに、生き延びれば一生、罪悪感を背負ったままだ。

 そこで、メロスは王に近寄り、

「もし、私の願いを聞き入れてくださるのであれば、どうか私もセリヌンティウスのように殺してください。頼む、そうしてください。」

と言うが、あの暴君ディオニスが聞いてくれるわけがない。

「泣いて詫びたって聞かぬと言ったであろう。お前は、最初から間違っていたのだ。無二の友を人質にしたことも、妹の結婚式へ亭主につけにいったこともな。」

王はまた、メロスに向かって嘲笑した。メロスは悔しかった。が、地団駄踏みたくも無い。やはり、メロスは単純な男。彼は、腰から短剣を抜き、王に初めて会ったときの本来の目的を話そうとした。彼の頭には怒り以外の何物も無い。ただ、ひたすらにこの邪智暴虐の王を除いてやりたかった。

 その日から、約1ヵ月。死に損ね、ディオニスを除きぞこねたメロスは遺書を書き綴っていた。

「妹よ、たった1人の我が妹よ。私は結婚式の後、友のために走った。しかし、間に合わなかった。だから、私は死ぬ。この世に思い残すことはもう無い。そして、その花婿よ。お前は本当に私の弟であることを誇ってよい。友のために最後まで走ったその結果、私は間に合わなかったのだから、本当に誇ってよい。最後に妹と牧場はいつまでも私の宝だ。後は、任せたぞ。」

メロスは本当に単純な男だ。一部、自分の都合を押し付けている所があった。

 その翌日、メロスは王を殺すために携えたいた短剣で、自分の腹を切り、自殺した。彼は死ぬ直前、青ざめた顔をしていた。しかし、その時、流れた血は、やはり、愛と真実の赤色であった。

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