第四話:バトル!?
さぁどうしよう。
目前には笑いこけた変人爺さん、右後方には不満顔の白髪に何を考えているのかもわからない全身真っ赤な仮面男。白髪がぶつぶつと文句をいいながら赤い方の腕を強引に握りしめ、こちらに走ってくる。ただでさえ、この市場は不気味な笑い声のせいで静まり返ってんだ。
「これ以上は関わりたくないな。そういや任務のこともあるし、金もない。さっさとギルドに行くか。」
冷静に状況分析した結果、これ以上此処にいるのは好ましくないと判断。なぜこの爺さんがあの人のことを語り出したのかは気になるが、どうでもいいか。きっと、昔の知り合いとかその程度の関係だろ。
頭の中で突然爺さんを勝手に解決し、ようやく笑い終わった老人を背に歩きだした。道行く人は、新たにやってきた白髪と鬼面に気を取られていた。当然といえば当然だ。突然の出現も一つの原因だが、赤い騎士の方は今街で話題になっている、正体不明の注目度第一位だ。その人物が手をひかれてやってくる。面白いことが怒るのを期待するのが野次馬だ。
「おい、あんたがヤンさんだろ?その赤い石。そう、それだ。金はあるから売ってくれ。」
精霊石が売っているとどこかで聞きつけて、急いで買いにきたもしくは買いに来させられた二人組ってとこかな。後ろから聞こえてくる話に自然と耳を傾けた。白髪の方が妙に必死なのが背後から伝わってくる。
「へっへ、残念だなぁ。もう売っちまったんで。いやいや、残念残念。またの機会にお願いしますわ。」
対する老人の方は、関係ないというように、バッサリと切り捨てた。なんだ、もう売っぱらってあったのか。あの精霊石は惜しいが、どうせ買えないしな。シオンは歩く速度を速めた。そう言えば、今日泊まる宿すら決まってないのだ。もう太陽が落ちかけている。夕暮れの太陽は明るく華やかだが、じっと眺めてたそがれている場合ではない。
「おいヤンさん。頼むぜ。金はいくらでも払える。知ってるだろ?俺の雇い主はこの街でも…」
ウルガがなんとか説得しようと交渉するのを遮り、急に赤騎士が右手を背中の大剣にかけ、シオンに向かって走り出した。
自分から動くそぶりは全く見せなかったが、一連の動作は信じられない程速い。手を大剣に触れたかと思うと、足は地面を離れ、大剣はシオンの頭上に迫っていた。傍にいたウルガですら、何が起きたのか理解できなかった。噂と鎧だけのこけおどしと思っていた者の、一瞬の動き。自分には見えなくて、唯一感じたのが気配が微かに消えたことぐらいだ。目の前の事実。Bランクであるというプライドは決して現実を認めなかった。
左手で青天槍を斜めに構え、不意の一撃を受けとめた。
金属と金属がぶつかり合う際の独特の不協和音。ヤンの笑い声とはまた違う意味で、静寂と音の波を再現した。
「お前、誰だ?」
「………」
シオンの問いかけにすら、赤騎士は無反応。鬼の仮面の奥から、シオンではなく自分の大剣を受け止めた蒼い棒をじっと見つめている。
やっぱ、厄日だな今日は。見ず知らずの奴に斬りかかられるなんて、一生のうちでもそうはないだろ。
左手に力を込め、大剣をなぎ払う。すぐさま赤騎士は一歩後ろに飛び、大剣を両手に持ち替え、正眼の構えをとった。
「おいコラ赤騎士。血迷ったのか??こんな往来で斬りあいなんて。お前は精霊石を買いに来たんだろうが。」
もう一度斬りかかろうとしている赤騎士を止めようと、ウルガが声を張り上げた。内心驚きと不安を隠せないのか、興奮しているようだ。手を振りかざし余裕がないように見える。
「赤騎士さんね。悪いけど、俺は急いでるんだ。妙に変な奴に絡まれる日だから宿が取れてなくてな。このままじゃ、どっかで野宿決定かもしれない。それは勘弁なんで、とりあえず…素顔をみせようか。」
「………」
赤騎士は一言も喋らなかったが、鬼の仮面がヒビが割れる音と共に、縦に真っ二つになり地面に落ちた。
初めて赤騎士の体に動揺が走る。一撃は受けていないハズ。不意だったがお互い一瞬の攻防は互角、そう見ていたが、現に仮面は縦に割れ落ちていた。