第二話:初任務はどこいった?
こうして無事に街に入り込んだシオンは、活気溢れる街並みに心を奪われながらも、兄に言われた任務を果たそうと、この街のギルドへと足を運んで……いなかった。
生まれて初めて見る数えきれない人の山、その山を囲むように商人の店が所々で陣取っている。シオンは、活気に溢れ、妙に心がざわめく景色に若干気押されていた。そのなかで狭く目立たない場所に、少し汚れた薄茶色の敷物を広げいる老人が目にとまった。それにつられて敷物の前で足が止まる。いや、実際には老人ではなく、その売り物のなかにある珍しい品。
それは、
「すごいな…これみんな精霊石だろ?なんでこんなに沢山…しかも、こんな出店にならんでんだ?」」
精霊石。
それは、霊山からのみ取れる石のことだ。資源の少ないセイランが他国に誇る、三大神秘の一つである。それは、文字どうり精霊の力が秘められた希少な石。製造方法は未だに不明だが、セイランでは比較的多くの霊山が各地に点在するため、数年に一度、新しい霊山が発見されるたびに多くの石が出回ることがある。ちなみに霊山とは、何故か精霊が多く住みついた場所をひとまとめにした呼び名のことで、神隠し、妖精の悪戯…など、人が立ち入ることができない不思議な僻地に多いそうだ。
「そうでしょそうでしょ。なんせ、ここカイリンは精霊石で発展したようなもんだかんねぇ。へっへ。品揃えじゃそこらへんの奴には、あっしは負けませんよ。ギルドの精霊使いなんてもん目じゃない。こいつがあれば、どんな術でも使い放題さ。」
行商人の男は得意げに語りだした。
この石の使い方は主に戦闘。精霊の協力ではなく、ある意味では支配、命令だ。回数制限つきだが、石をベースに鍛冶屋かメイス屋の腕の良い職人に頼めば、個人の資質に関係なく通常の武器では信じられない能力を付与することができる。それゆえ、値段が跳ね上がる。ギルドの報酬にすらなるくらいだ。
「若い旦那は運がいいねぇ。ここにあるのは全て一級品。この街一番のメイス屋に、紋章を彫らせてあるからすぐに実用可能さ。さぁさぁ…どうだい?」
敷物の上には、大小さまざまな色の精霊石が三つ。
…三つしかないってことは、これは本物か…いや、違うな。ここに三つもあることが問題なんだ。霊山が発見されてこの街が発展したって言っても、確かもう二、三年も昔の話だしな。
慎重に石を一つ、そっと手で触れてみる。丸い金色の石だ。他には赤色の石と青い石がある。力を少し腕に込めて、ぎゅっと握ってみた。神経を集中させ、奥に眠る精霊の力を感じようと、目を瞑ってみる。
駄目だ…全く分からない。
目を開け、行商人の男に目を向けてみた。白髪があり、少し体がやつれている気がするが、年はまだ50を少し過ぎたぐらいか。肌は日焼けで褐色だ。向こうもこちらの目を口を横一線に結んで見ている。お互いに相手を見極めようという視線が、敷物を隔てて交錯していた。
場所は変わって、ここはカイバー通り。シオンの目前に広がっていた人ごみもなく、壮大な屋敷が延々とそびえたっている。別名成金通り。人口の集中しているこの街で、この通りに屋敷を構えるということ、それ自体が成功者と呼ばれるに相応しい名誉なのだ。
無論、強盗が襲うとしたら格好の標的になるのは目に見えている。なので、大抵ここの住人は、自分で自分だけの兵をギルドで雇うのだ。
その大部分がAランク。数人のAランクを筆頭に、それに続いてBランクを大勢雇うというのが、ここでの常識になっている。しかし、Aランクはこの街ですら十人以下。一人雇えればいい方だ。だから特別なことがない時は、Bランクに警備を要請している。
カイバー通りの一角。最近、その屋敷で雇われたAランクの人物の噂が、カイリンの街中に広まっていた。
とにかく書きます。見捨てられないよう書いてみます。