第一話:一人旅
セイランの東、そこにはカイリンという名の街があった。
近隣の街の中でも、特に物流が活発で発展している街の一つだ。それだけに警備に力を注ぎこんでいる。国全体を城壁とも言える石壁や柵で囲み、四方にはひときわ高い物見櫓を設置して、常に見張りが常に顔を覗かせている。入口も限られ、強固な門と腕っ節が自慢の警備兵が、誰彼構わず睨みつけるように警備に当たっていた。
一種の城塞だ。とても一地方にある街とは思えない。例え盗賊が50人攻めてきたとしても、街の中にすら入り込めないだろう…そんな言い知れぬ安心感を人々にもたらしている。
時刻は昼時。厳重な警備のおかげでできた入口の行列がようやく終わりかけた頃に、一人の旅人らしき者が、悠々とした足取りで遠くから歩いてきた。
年は二十歳前後か。黒い髪を後ろに束ね、優しい目つきをした青年だった。背は割と高いが見上げるほどではない。歩くという何気ない動作の中にも気品があり、生まれの良さかあるいは天性の何かをその青年に感じずにはいられなかった。
「あれが噂のカイリンか。なんか変な感じがする街だな。」
青年は片目を右手で擦りながら一人呟いた。
服装にも特に変わった点はない。旅のせいか少し薄汚れているが、生地がいいのだろう。粗末な格好には見えなかった。いや、恐らくその服装よりも、青年が背負っている棒に見る人は注意をむけるはずだ。旅人が持つには不自然なほど長く、端から端まで綺麗な蒼で染まっている鉄製の棒である。
青年は門を見上げ、門番であろう役人に懐から一枚の書状を取り出した。所謂門をパスする通行券だ。紙には紹介者の名と印鑑が押されてある。渡した相手は、何年もこの仕事を務めているのか手際のよい陰気な男だ。何かないか、何かお前は隠してないかと、ねっとりとした嫌な目つきで書状と青年を凝視したが、特に何の問題もなく、せっせと確認したサインを書き上げ、無愛想に書状を返した。
黙ってそれを受け取り、今までと同じ足取りで通り過ぎようとしたが、
「おい、そこのお前。止まれ。」
横から一人の警備兵が、その青年に声をかけた。やけに高圧的な態度で、腰に帯びた剣をチラつかせながら、怪訝な面持でゆっくりと近づいてくる。
「俺の名はラジル・クスコ。カイリン一級警備兵として聞こう。その書状は本当に本物か?いやなに、最近賄賂を使って書状を手に入れる奴が多くてな。門番を疑うわけじゃないんだが、一応確認だ。」
どうやら、警備兵のトップクラスのようだ。他の見て見ぬふりをしている警備兵と比べても、体つきが一回り違う。傭兵かギルドの仕事をやっていたのか、さすがに体から漂わせる雰囲気も違った。しかし、単なるハイエナの中のボスであるというだけで、少なくとも、その青年にとってはその程度の認識しかなかった。
青年は、無言で銀貨を一枚書状に挟んで渡した。
「よーし、いいだろう。さっさと行け。」
追い払うような身振りだ。その割には、しっかりと銀貨を抜き取り、素早く鎧の隙間に隠している。そして、そのまま平然な顔で立ち去っていった。手慣れている。それに、書状を見もしない。
(屑だな…)
内心この理不尽な行いに、少なからず憤りを感じていたが、兄の言葉を思い出しながら先を急いだ。
ようやくカイリンに入ることができる。
「ふぅ…兄上の言うとおりだ。やはり聞かされるよりも、こうして見た方が実感がわくな。あいつに黙ってきたから帰りが面倒そうだが…よし。」
この青年の名前は、シオン。彼はこう呼ばれていた。鳳眼のシオン。高貴な魅力ある瞳と天性の才能を持ち合わせた麒麟児である。
「ちゃっちゃと任務を終わらせますか。」
かすかな安堵を含んだ微笑を浮かべながら、蒼く澄みきった空にむかって言い放った。
これからとにかく書きます。それと、本当に申し訳ないんですけど、リニューアルします!感想ありがとうございました。やる気になりました。