表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼と私

作者: 神名代洸

木造の二階建て、築30年の場所にある裏野ハイツ。古びた外装は年月を思い起こさせる。50代の会社員である彼は同居人の私と2人で生活していた。

私は仕事は家でやることが多い。自営業だからだ。なので外出も少なく、人と会うこともほとんどない。会社員の彼が出掛けるとシーンとした部屋の中でカタカタカタとパソコンを触る音がする。

自営業と言っても実質は株取引で収入を得ている。

そう言えば隣の住人も見かけることがないなぁ〜などとふと思った。

挨拶もなかったし…だからどんな住人が住んでいるのか未だにわからない。


会社員の彼は朝夕決まった時間に帰ってくる。手に買い物を持って帰ってくることもある。食事は交代で作っているが、彼のほうがうまい。イヤイヤ、私もネット検索をしながら作っているからレパートリーは多いはず。

しかし隣は静かだなぁ〜、ホントに人、住んでるのかなぁ〜?などと首を傾げた時、カタッと小さな音が聞こえてきた。こちら側はテレビもラジオもつけていないので隣の音なのだろう。彼に聞いてみたが何をしているのかも全くわからないと言っていたっけ…。


と、その時突然雨が降ってきた。

季節的に夏なので夕立なのだろう。

遠くで雷の音もする。

ザーッと雨が降り始め、雷の音も徐々に大きくなる。その時ドンと大きく何かを叩く音がした気がした。

音は隣から聞こえたのだ。

何をどうしたらあんな音聞こえてくるのだろう…。

ドン、ドン!

また音が聞こえた。

それは何かを叩きつけるような音だ。


何を?


不安になった私は彼の携帯に電話するもアナウンスが流れる。まだ仕事中なのかもしれない。諦めて玄関まで行き、ドアを少し開けて隣の様子を伺う。

ドアは閉じたまま特に変わった様子はなかった。

でも確かにいることはいるはず。あんな音がしたくらいだから。


自室に戻り、パソコンに意識を向ける。今日は株が下がりうまくいかない。予想から外れてしまったようだ。

「はぁ〜…だめだなぁ。諦めるか。」そう独り言を呟きながらパソコンの電源を切る。

両肩を伸ばし背筋をピンとする。気持ちを切り替えるための私のやり方だ。

その時だ、また音が聞こえた。今度は何かが崩れたような感じの音だ。やっぱり気になる。

1人では怖いので彼が帰ってくるまで待つことにした。

1時間経っても2時間経っても彼は帰ってこない。当たり前だ。まだ午後3時を回ったくらいだからだ。仕事は6時までなのでどう頑張ってもあと3時間は何ともならない。


「ひー!」


悲鳴に似た声を聞いた私は気になって仕方がなかった。だけどこのハイツには知り合いはいない。誰とも口を聞いたことがないからだ。どうにもならない思いが私の心を支配する。


気が付けば雷も止んでいた。

雨も上がり、地面も乾いてきているのが見えた。ドン!また音がした。

人がいるはずだから行ってみよう。そう考えた私は玄関を出て隣の玄関に向かった。チャイムを鳴らし、住人を呼ぶも出てくる気配はない。さっきは確かに音がしたのだ。絶対に誰かいるはず。

ピンポーン。

再度鳴らしてみる。

カチャカチャという音がして玄関の鍵が開いたのをじっと見ていた。中から出てきたのは40代くらいの男性だった。ボサボサ頭で出てきたようで頭をかいている。

「何っすか?」

「あのードンドンと何やってるんですか?五月蝿いんですけど。」

「はぁ?何もしてませんよ。寝てましたから。」

「でも確かに音がしましたよ。」そう言って部屋の中を体の隙間から覗き込んだが特に変わった様子はなかった。

「ホントにあなたじゃないんですか?」

「違いますよ。それにそっちじゃないんですか?音出してたの。」

「違いますよ。そんな道具うちにはありません。」そう言ってその場を後にした。


そんな喋りを見ていたのは70代のお婆さん。

お喋り好きらしく、聞かれてもないことまでホイホイと教えてくれた。

この裏野ハイツには昔から不思議なことがあって時々何かを叩くような音がするそうだ。私が越してきた時にはそんな話は聞かなかったのに…。

20年もここに住んでるといろんなことがあるようで、今は空き部屋になっている203号室は自殺者が出た為空き部屋のままになっているだとか、夜中になるとどこかの部屋の壁がドンドンと叩かれるような音がするだとか。聞いていて気味の悪い話ばかりで怖くなってきた私はおばあさんとの話も早々に切り上げ自室に戻ってきた。

じゃあ、あの壁の音もそう?

とか、考え始めたら1人でいることが怖くなってきてしまった。

彼が帰ってくるにはあと30分ほどあとになる。早く帰ってこないかとイライラしながら待っていた。するとガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえた。てっきり彼が帰ってきたものとばかり思っていたが、ガチャガチャするだけで開けない様子から違う人が開けようとしているのかもしれないと怖くなってきた。

何か武器になるものはないかと部屋中を見回したが、せいぜいがフライパンくらいしかないことに怯えた。

両手でしっかりとフライパンを持ちいつでも振り下ろせるように振り上げて待っていたが、一向に入ってくる気配はない。

やがてピタリと音がしなくなり、ドアノブも静かになった。

ホッとしたのもつかの間、今度は部屋に置いてあったラジカセが突然音を出し始めた。

つけた覚えはない。

何かがいるのかもしれないとそう感じた。

その時ふとおばあさんの話を思い出した。このハイツではよくあることだと。

とてもそんな生易しいものじゃない。

その時初めて【霊】という存在がいることを感じた。


目に見えないものの存在を全く持って信じていなかった私だったが、今回の件でさすがに信じざるをえなくなった。


怖い。


そう思った。

程なくして時間も6時を回り、時間は6時半。この時間にいつも帰宅する彼を今か今かと待っていた。

このことは知っていたのか問いたださないといけないと思った。

ガチャガチャ、カチャ。と音がしたかと思うとドアが開き、彼が帰ってきた。

そこで今日会ったことを話して聞かせたが、彼は全く信じていないらしい。相手にもされなかった。

「じゃあ、何かあったら信じてくれるんだよね。」

私は半ばヤケになっていた。

信じろという方が無理なのか?


今日はもう早く寝る事にした。怖くて仕方がなかったが、彼がいるから心配ないだろう…。そう、安心していた。

しかし、彼は内心焦っていた。

信じてはいないが、ここ数日の【音】の正体がわからないからだ。

隣の部屋から聞こえてくるが、いつも決まった時間に聞こえてきていた。

夜中の2時、ゴトゴト、ガチャン〜。

ギシッ、ギシッという音だ。

ここまではっきり聞こえるのはおかしい。

多少は音は遮られるはずだ。

それなのにクリアに聞こえてくる。

さっきの話だとお婆さんが言っていた自殺者の霊なのかも…と気持ちが悪くなり始めた。

同居人は寝てしまったが、逆に頭が冴えて寝られなくなった。


ドン!ガタガタ。


玄関まで歩いて行き、ドアを開けた。この時間は皆寝ているはず。ゆっくりゆっくりと歩いて問題の203号室の部屋まで歩いていく。ヒヤリとした空気が不気味さを感じる。

ドアノブを触るとガチャっと言ってドアが開いた。さすがに中に入る勇気はなかったが、何かに引っ張られるように入ってしまった。

淀んだ空気が不気味さを増幅させる。

ピチャッ、ピチャッと蛇口から水滴が落ちる。

「ヒッ!」

慌てて部屋から出ようとした時「う〜〜。」と小さく声が聞こえた気がした。

部屋を見回しても何もない。

それなのになぜ?

背中に汗が伝い落ちる。

その時ぬ〜っと何かが出てきたような気配を感じた。

「ギャ〜!」

慌てて部屋から逃げ出した。

自室に戻って鍵をかけた時ビッシリと冷や汗をかいていた。

その時同居人が起きた。

しかし眠っているのか目が開いていない。

スーッと立ってそのまま身動きひとつしない。

ブツブツブツと何か小声で喋っている。

近くまで行った彼は同居人の側まで行き何を言っているのか聞いてみる事に。すると突然大声をあげ奇声を発した。

怖くなった彼は同居人から離れ、部屋の隅で夜を明かした。

そのことを話そうかどうか迷ったが、結局彼の胸のうちにとどめておく事にした。

その日のうちに神社に行って御守りを二つ買ってきた。ひとつは自分自身に。もうひとつは同居人に。


それ以降不可思議な事には遭遇しなくなったが、その体験後、【霊】の存在を信じるようになった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ?主人公は何号室にすんでるんでしょう? 隣男性も何号室なんでしょうか? 203が空き室で201にはおばあちゃんが住んでいる、てことは主人公は202?と思いましたが、男性が隣に住んでるんですよ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ