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8/11 0:00:00

 大地に光が走った。

 光はやがて人へと形を変えていく。

 その数は10人ほど。

 収束し、人の姿となったデータたちが、ゆっくりと周囲を見渡す。


「……潜入成功、か」

「お、すげぇ。全能力カンストしてんじゃん!」

「あ、俺もだ」


 数人の男たちが自身のパラメータを確認し、歓喜の声を上げる。


「はしゃぐ前に仕事はしてもらう」

「へいへい、警察さんの邪魔はしませんよっと」


 そう言って男たちは自分たちの装備を確認する。

 彼ら10人は、特殊部隊員と『ソードアポカリプス』の有志参加のプレイヤーたちだ。

 事件発生時にログインしていなかった上位プレイヤー数人に声をかけ、共に潜入している。


「とりあえず、アスティアの街に行きゃ何か分かるだろ。ここからなら――」

「その必要は無い」


 声に、男たちが振り返る。

 そこには、一人のキャラが立っていた。

 黒い鎧を身にまとい、その顔も兜によって確認出来ない。

 すぐさま一人が黒衣の騎士に向けて『調べる』コマンドを使用する。

 『叢雲ムラクモ』というキャラネームが表示された。


「メンテナンス時のバグに乗じて侵入してくる愚か者が来ると思ったが……予想よりも少ないな」

「……お前が『星の死』を名乗るテロリストか?」

「ふむ、そのような犯罪者呼ばわりは心外ではあるが。まあ、好きに呼ぶがよい」


 テロリストの言葉に、特殊部隊の隊長はすぐに判断を下す。

 潜入が敵にバレていたのは痛いが、しかしまだ致命的ではない。

 彼ら10人のステータスは改造行為によって全能力がマックスにまで引き上げられている。

 VRゲーム自体に慣れている訳ではないが、しかし現実世界で訓練に訓練を重ねてきている。


「やるぞ」


 すぐさまキャラたちが散開。

 後衛職と呼ばれるウィザード、ウォーロックたちが呪文の詠唱を開始。

 前衛職のパラディンが味方に対して防御バフを展開する。

 アタッカーであるガンナー、ブレイダーがその間に自キャラに対し攻撃力上昇効果のあるスキルを使用。

 その間は時間にして数秒。


「『アルカナフレア』!」


 ウィザードの魔術が放たれ、黒衣の騎士が炎に包まれる。

 対象に対し、炎属性の大ダメージを与える魔術で、さらに対象の物理防御を下げる追加効果もある。

 それに続くように、ウォーロックの詠唱が終わり、麻痺、呪い、毒のデバフを与える呪文を放つ。


「先に骸斬りを使う。その後に全力」

「了解」


 炎に突っ込み、ブレイダーがスキル『骸斬り』を発動。

 相手にダメージと共に、これも物理防御を下げる効果がある。

 アルカナフレアと骸斬りのコンボはこのゲームにおいて、終盤まで使える技能だ。

 だからこそ、対人戦においてもその効果は絶大である。

 防御力が二段階下がった叢雲に対し、アタッカーたちが全力でスキルを放つ。

 先手必勝パターンであった。

 しかし――


「まあ、所詮は公僕、この程度に過ぎんか」

「なっ!?」


 ステータスカンスト状態の攻撃を受けてなお、叢雲は無傷の状態でそこに立っている。

 叢雲はゆっくりと腰元の鞘に手を伸ばす。

 叢雲のジョブはサムライと呼ばれるソードマンの最上級職である。

 ブレイドマスターとは違い、装備武器が刀に固定されるが、圧倒的な攻撃力を誇る。


「恨みはないが、手前の刀の露と消えろ――『死追い』」


 叢雲の刀が鞘走った瞬間、前衛にて防御スキルを展開していたパラディンの姿が消える。

 いや、消えたのではない。

 即死ダメージを受けてロストしたのだ。

 サムライのアタックスキルである『死追い』は速度に補正が掛かるだけの通常攻撃に過ぎない。

 しかし、たった一撃でパラメータがカンストしているパラディンを葬ったのだ。

 特殊部隊員たちに衝撃が走る。

 そしてそれよりも、このゲームの熟練プレイヤーたちに焦りが生まれた。


「やばい! 『死追い』の後はチェーンスキルがある! 次が来るぞ!」

「死に絶えろ――『鬼連ね』」


 後は一方的な殺戮であった。

 『死追い』から派生するアタックスキル『鬼連ね』は、広範囲にダメージを与える。

 たった一撃で高耐久のパラディンですら消滅させる叢雲にとって、彼らなど紙に等しい。

 後にはただ叢雲と、特殊部隊の隊長のキャラだけが残されていた。


「なぜ……俺を残した?」

「全員屠っては礼式に欠けるであろう? まあ余興よな」

「…………」

「帰って飼い主に伝えるがいい。次にこのような下らぬ真似をすれば、人質の命は無いものと思え。我らとて、無為な殺しは望まんのでな」

「……分かった」

「では――ご無礼」


 叢雲の姿が消え、次の瞬間、隊長のアバターは一刀のもと、斬り捨てられた。

 アバターがロストし、一人、黒い騎士の姿だけがそこに残っていた。






 同時刻。

 月灯の丘と呼ばれるイベントフィールドに、一人のキャラがいた。

 見た目は少年のようなアバターであり、装備から察するに、術師ジョブの最上級であるエレメンタラーだった。

 少年のアバターにメッセージが届く。


「……叢雲のやつ、仕事は終わったのか。相変わらず早いねぇ」


 届いたメッセージを眺め見て、少年は微笑みを漏らす。

 その時、四方に気配を感じた。

 視線だけをそちらに移すと、数人のアバターがそこに立っていた。

 いや、数人ではない。

 数十人はいるだろうプレイヤーが、少年を取り囲んでいる。


「何か用?」


 少年の問い掛けに、先頭にいた男のアバターが答える。

 ジョブは弓使いの最上級であるオライオンであった。


「お前、テロリストの一味だな」

「藪から棒に、ご機嫌な質問だね、それ」

「お前がGMを襲っているところを見たという奴がいる。惚けても無駄だ」

「ふぅん、なるほどね。それで数を揃えてきたって訳か」


 少年が右手をかざすと、マップアイコンが目の前に表示される。


「ひのふのみの……40人ちょっとってところか。いやすごいねぇ。そんだけの数揃えれるなんて、名のあるギルドなのかな?」

「このふざけたテロリスト騒動を止めて、俺たちをログアウトさせろ」

「それは出来ないよ。だってまだ交渉が終わってないんだもん」

「俺たちは関係ないだろっ!」


 後ろに控えていたプレイヤーの一人が叫ぶと、堰を切ったように他の面々も騒ぎ立てる。

 その騒ぎを、先頭の男は片手で制する。


「……解放するつもりはないのか?」

「ある訳ないじゃん。人質が出せって言って出す馬鹿がどこにいるのさ」

「そうか……なら――」


 男は武器を構えると、最速の動きで矢を放つ。

 オライオンのスキル『クイックショット』。

 下級スキルであるが、バランスの取れた優秀なアタックスキルである。

 少年のアバターは跳んで避ける。


「危ないなぁ。いきなりなんてさ。そういう暴力に訴えるの、僕好きじゃないな」

「お前が言うな!」


 また後ろで誰かが叫んだ。

 けらけらと少年が笑う。


「でもまあ、仕方ないか。今は僕がこのゲームのGMみたいなもんだからね。GMに逆らったペナルティは受けてもらうとしようか」


 そう言うと、少年は指を鳴らす。

 それに反応するように、何もない丘に、突如として建物が隆起してくる。

 そんなギミックなんて無かったはず。

 少なくとも、ここにいるメンバーは全員、熟練のプレイヤーだ。

 初めて見るギミックに戸惑ったものの、混乱はしなかった。


「あはは、僕の名前はシュライデン。これが僕の世界」


 地面から隆起した建造物は塔の形をしていた。

 その塔が合計で三本、丘にそびえたつ。

 シュライデンと名乗ったテロリストは、塔の上に立っていた。


「なんだ……?」

「では皆さんをご招待。フィールドステータス変更『ダメージ床Lv5』」


 その瞬間、彼らが今まで立っていた地面の色が変わる。

 いや、色だけではない。

 立っているだけでダメージを受けるトラップへと変更されたのだ。


「な、なんだよこれ!」

「誰かダメ床無効のスキロを使え!」

「使ってる! 使ってるけど、効果無い! ダメージ受けてる!」


 その様子を、楽しげにシュライデンは見下ろしていた。


「あはは、無駄無駄。ダメージ床Lv5は通常フィールドに設定されてない、デバッグ用のトラップだからねぇ。スキルごときじゃ無効に出来ないんだね。残念無念」

「て、てめえ……正々堂々戦いやがれ!」

「正々堂々ねぇ……。悪いけど、僕、君たちの言うところのテロリストなんだよね」


 そう言うと、シュライデンは片手を男たちに向ける。

 高威力のダメージ床のせいで、既に瀕死状態であった。

 そして――


「だからさぁ、死ねよ屑ども」


 塔の先端から雷が放たれ、プレイヤーたちを襲う。

 防御スキルを唱えようとしている者もいるが、しかしダメージ床に意識を取られて詠唱が妨害されていた。

 結果として、降り注ぐ落雷を防ぐ事は誰一人出来なかった。


「あっはっは。ロストだねぇ凄絶だねぇ。ま、僕と違って死んでも君らは復活出来るんだし、良かったね」






365 名前:【星の死】 投稿日:2018/08/11(月)

 残念なお知らせがあります。

 先ほど、警察関係者が不正にログインを行い、こちらの交渉を無視した行為が確認されました。

 また、現行プレイヤーが、私たちの仲間に対し、襲撃を行うという蛮行もありました。


 このような行いは、対話を望む我々にとっては遺憾の限りです。

 そこで、今後このような事が起こらない為に、プレイヤーにはペナルティを受けてもらいます。


366 名前:アウレリウス 投稿日:2018/08/11(月)

 え、何かあったん?


367 名前:ロブロウ 投稿日:2018/08/11(月)

 『スレッジハンマー』の連中がテロリストの一人を見つけて襲い掛かったらしい

 で、返り討ちにあったっぽいね


368 名前:インフェル那須 投稿日:2018/08/11(月)

 てか俺たち関係なくね?

 連帯責任?


369 名前:【星の死】 投稿日:2018/08/11(月)

 他のプレイヤーの方々には申し訳ございませんが、対抗措置としてペナルティを与えさせていただきます。


370 名前:緋蜂 投稿日:2018/08/11(月)

 ペナルティって何よ


371 名前:【星の死】 投稿日:2018/08/11(月)

 現フィールド上のモンスターのレベルを最大に設定。

 また、現状ではイベント中にしか出現しないモンスターも通常フィールドに出現します。

 レベルの低いプレイヤーの方は、どうか街エリアから出ないようお願い申し上げます。


372 名前:ぐらんぎにょる 投稿日:2018/08/11(月)

 ちょwwwギュールの滝にアビスドラゴンが歩いてるwwwwww

 しかもレベルカンストwww


373 名前:雪月華 投稿日:2018/08/11(月)

 レベル上げしてたらいきなりスライムにダメージ通らんなった……

 ワンパンで死んだ

 もういや……


374 名前:石村帰り 投稿日:2018/08/11(月)

 マジかよこれ

 フィールドのMOBは全部レベルカンストしてるっぽい

 ほとんどダメージ入らないな


375 名前:メガデデンネ 投稿日:2018/08/11(月)

 アシュラキマイラ確認

 これ倒してもアシュラスケイル落とすかな?


376 名前:死んでるやん 投稿日:2018/08/11(月)

 つーか倒せんでしょ

 イベントボスの上にレベルカンストにされてるんだし


377 名前:レヴァニラ@二本目 投稿日:2018/08/11(月)

 こんな事も出来るって事は、ゲームのシステムはもう完全に乗っ取られてるんだな


378 名前:ルドルフ 投稿日:2018/08/11(月)

 普通に聞き流してたけど、警察が突入して返り討ちにあったってヤバくね?

 絶望的な気配がするんだけど


379 名前:KickUS 投稿日:2018/08/11(月)

 警察っつっても、VR世界だと意味ないしな

 どれだけ数がいても、強プレイヤー一人が蹂躙出来るシステムだから


380 名前:スプートニクの変人 投稿日:2018/08/11(月)

 いつになったら終わるのよこれ……

 早くログアウトさせてよ……


381 名前:【星の死】 投稿日:2018/08/11(月)

 それでは皆様、引き続き『ソードアポカリプス』の世界をお楽しみください。

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