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入学式(5)

登場人物

《2030年パート》

森高護(28)……本編の主人公。学生時代、異能持ちの仲間とともに世界を救ったことがあるが、今は中古レコード店の店長代行。警視総監賞授与のための事実確認と称して、二人の刑事から学生時代のとある事件について聴取を受けている。


女刑事……三十半ばとみられる刑事。森高から12年前に起きたVISヴィズと呼ばれるテロ組織の起こした事件と、異能学生連続殺人事件について詳しい話を聞こうとしている。


若年刑事……何かと非正規でちゃらんぽらんな森高をバカにし、敵視するエリート街道まっしぐらの嫌味な刑事。挑発には乗りやすい。


《2018年パート》

森高護(15)……関西から上京してきた私立緑桜大学付属高校魔法科の一年生。異能学生の焼死体に遭遇したことから、異能学生連続殺人事件とその延長線上で起こったVISのテロ事件に巻き込まれていく。


杉宮健也……森高の同級生。情報収集を趣味とする三枚目。後に森高たちとともにVISと戦うことになる。魔法科では呪術を専攻する。


阿古川由紀……緑桜付属魔法科の二年生で風紀委員長。ツインテールのヴァイオレンスなちびっこ。入学式のころは生徒会長を信奉していたが……。


智章界治……緑桜付属魔法科の三年生で生徒会長。後にVISを率いてテロを主導することになるが入学当初はまだ一学生にすぎない。


瑞帆花楓……緑桜付属魔法科の一年生。入学式の早朝に銀杏の木から落ちてきた謎の少女。

⑨入学式(5)


「辞めたと言ったけど。あなたに繋がってた人も、たくさんいたんじゃないの」


 女刑事が言った。


「ああ。本当に知り合いの、何人かはね」

「ちゃんと断って辞めたの。ひょっとして何の挨拶もなく、ある日、突然リストから消したりしなかった」

「なんで、そんなこと聞くんだ」


 あまりにしつこいので新手のステルスマーケティングじゃないかと勘繰った。

 ほら、SNSの拡大で警察も人間関係の把握が簡単になっただろ。

アナログ世代の老害刑事あたりは『足を使え、足!』と嘆くことだろうが国の人口が一億を切った今、警察も優秀な人員が不足しているという。

 一般企業の労働力不足の問題が、ブレインフォンの語学習得マンアプリと政府の大規模な移民受け入れ政策によって解決した一方で、定住外国人は未だに警察官や消防士などの公務員になる権利は剥脱されていた。

 移民の増加で人間関係の相関図が複雑化する中、利用者が進んで登録し、相関図を進んで更新してくれるSNSは警察の捜査をいくらか助けているのだはずだ。

 多分。

 だからこそ俺は絶対に登録しない。

 ただでさえ希薄で希少な人間関係を、こいつらに値踏みされたくないからな。

 ある一人の人物について、そいつには何人の友人がいて、特に誰と密接にメッセージのやり取りをしているか。

 いつどこで誰が記事を投降し、何人がそれを閲覧し、何人が承認ボタンを押しているか。

 デジタル社会の発展に伴う人間関係の視覚化はアナログな聞き込み捜査を簡易化する。

 容疑者の嗜好や行動傾向を警察署にいながら調べ上げ、よりピンポイントに関係者を絞り込み、手間を減らし、短時間で真相に近づく。

 アナログな捜査技術は継承者もなく廃れていく。

 マンアプリのおかげで射撃訓練も必要なくなったという。ほんと、警察官になるための素養とか技術ってなんだろうな。

 ひょっとしてベテランの取り調べスキルもマンアプリ化されてるんじゃなかろうか。

 だとしたら、俺がこのリア充っぽい若い刑事に反感を抱いてるのも、俺に良からぬことを喋らせるための演出なのかもしれない。

 陰謀論者的懐疑心を強めていると女刑事が気の毒そうに俺を見た。


「あなたを気にかけていた人間がいたから。阿古川由紀あこがわ ゆき。覚えてるでしょう」


 女刑事が人差し指でトン、とテーブルを叩く。

 木目調の板上が消えて液晶パネルの姿を取り戻す。

 画面に一枚の写真が浮き上がった。

 彼女のブレインフォンにある画像データ――脳内の記憶をあらかじめブレインフォンで共有できるように変換したもの――から呼び出したのだろう。

 女刑事が指をスライドさせると会議用テーブルの上を滑って俺の手元に画像が表示された。

 ものは十二年前の緑桜付属の生徒写真だ。

 当時の生徒会メンバーの中に女刑事の言う女子生徒が映っていた。

 二年生であることを示す緑のリボンに特徴的なアシンメトリーのツインテール。その鋭い眼光はカメラに対しても健在だった。

 こいつが俺を気にかけていたとは意外だ。

 と、いうことはこの女刑事は俺の他にも緑桜付属の関係者に話を聞いていたのだ。

 俺と、阿古川由紀あこがわ ゆき

 多分、杉宮やかつての異能学生たちにも。

 まさか……彼女にも。

 考えはじめて、俺はそわそわする自分をなんとか抑えようと静かに息を整えた。

 相手は刑事だ。

 感謝状がどうとか、聞こえのいい建て前を並べてはいるが信用できやしない。

 俺は心に固く誓う。

 奴らが知っていようがいまいが絶対に彼女の話だけはしない、と。

 そのためなら他のことは、何だって話してやる。

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