表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

入学式(6)

登場人物

《2030年パート》

森高護(28)……本編の主人公。学生時代、異能持ちの仲間とともに世界を救ったことがあるが、今は中古レコード店の店長代行。警視総監賞授与のための事実確認と称して、二人の刑事から学生時代のとある事件について聴取を受けている。


女刑事……三十半ばとみられる刑事。森高から12年前に起きたVISヴィズと呼ばれるテロ組織の起こした事件と、異能学生連続殺人事件について詳しい話を聞こうとしている。


若年刑事……何かと非正規でちゃらんぽらんな森高をバカにし、敵視するエリート街道まっしぐらの嫌味な刑事。挑発には乗りやすい。


《2018年パート》

森高護(15)……関西から上京してきた私立緑桜大学付属高校魔法科の一年生。異能学生の焼死体に遭遇したことから、異能学生連続殺人事件とその延長線上で起こったVISのテロ事件に巻き込まれていく。


杉宮健也……森高の同級生。情報収集を趣味とする三枚目。後に森高たちとともにVISと戦うことになる。魔法科では呪術を専攻する。


阿古川由紀……緑桜付属魔法科の二年生で風紀委員長。ツインテールのヴァイオレンスなちびっこ。入学式のころは生徒会長を信奉していたが……。


智章界治……緑桜付属魔法科の三年生で生徒会長。後にVISを率いてテロを主導することになるが入学当初はまだ一学生にすぎない。


瑞帆花楓……緑桜付属魔法科の一年生。入学式の早朝に銀杏の木から落ちてきた謎の少女。

⑩入学式(6)


 阿古川由紀は魔法学科の二年生で、生徒会執行部の一員で、左右非対称のツインテールが特徴の攻撃的な風紀委員長だった。

 専攻魔法は火性の反応変化。

 要するに発火現象を起こしたり、燃焼加減を調整したりする技術だ。

 こう言うとおっかなく聞こえるが学校の自治に置いては発火させるよりもむしろ鎮火させる仕事の方が多かった。

 学生の喫煙行為とか、ボヤの見回りとか。

 特に阿古川は火の探知に長けてた。

 体質もあるんだろうけど、半径一〇〇メートル以内での発火現象や燃焼度合を全部生まれながらのレーダーで感知できた。

 自分の周囲で火が起ると肌が火照るんだそうだ。

 でも、感知できるのは現実の火だけじゃなかった。

 他人の心に燻る火も彼女は察知した。

 だから、いつも阿古川はアイツの傍にいた。

 彼女が信奉してやまない緑桜付属の生徒会長・智章界治ともあき かいじの隣に……。


「近衛隊長。噂通りおっかないな」

「なにが」

「阿古川由紀だよ。生徒会長の隣にいるやつ」

「ああ、あの背のちっこい」

「しっ! ああ見えて俺たちよりひとつ年上だ。噂じゃ、地獄耳の持ち主で特に身体的弱点を揶揄するような言動とか視線には敏感でたちまち指導が入るってよ」

「指導?」

「風紀委員長。おまけに炎の使い手。童顔で可愛らしい見た目してるけど、怒ると小鬼インプのようにおっかないってさ」

「噂でしょ」

「命が助かるなら噂でも安いもんさ」


 高校生の俺は再度、阿古川由紀を見た。

 メガネのレンズを望遠にして顔を拡大。中学生と見紛う幼い容姿だが、確かにその眼力はナイフの切っ先のようにおっかない。

 両手は後ろで組み、右足をやや前に出して待機の姿勢。

 智章の横に控えて、不届き者が出ないよう周囲を威圧している。

 オーラだけなら身長の倍はありそうだ。


「っ」


 一瞬目が合ったような気がして、俺は慌てて望遠レンズを解いた。

 あのとき本当に目が合ってたのか。気のせいだったのか。それは今でもわからない。

 敵意を感じたのは確かだ。

 俺はナイフを投げられたみたいにしばらくびびって目を伏せた。

 他人の敵意には俺も敏感な方だった。

 肌にびりびりって来るあの感覚。

 そいつを感じ取ることだけは魔法使いの講義を受ける前からできた。

 処世術のひとつさ。

 そうやって敵意を察して逃げたり、卑屈に構えてやり過ごさなきゃ、あの地獄みたいな中学時代は生き抜けなかった。

 だとすると阿古川も俺と同種かもしれない。

 恐る恐る顔を上げると亜子川の視線はすでに他に移ってた。

 さっきまでとは違う目の色で、檀上の真ん中に立つ男子生徒を見つめ、誇らしげに小さな胸をぴんと反っている。

 智章界治は、イメージ通りの男だった。

 そのイメージは何かって言うと理知的で端正な顔立ちで、背が高くて、胸板の厚い、頼りになる先輩。

 中高生が生徒会長って役職に抱くすべての幻想を併せ持った完璧超人。要はそういうイメージだ。

 智章界治はそんな男だった。

 アイツは新入生を見渡すと入学式にお決まりの挨拶をしてから、こう切り出した。


「今、人類は暗い夜を迎えようとしている」


 突然、何を言いだすのかと思ったよ。

 ビジネス新書の冒頭によくあるショック療法みたいなもんだって今ならわかるが、希望に胸を膨らませてる新入生にとっては面食らう挨拶だ。

 最初は中二病かなんかかと思ったよ。

 異能ものを扱ったフィクションにはよくあるだろ。人類が黄昏時にあって、学生たちはみんな未知の敵と戦うために異能を学んでるんだってやつ。

 でも俺たちは違う。

 なんの世界的な危機もないし、侵略者もいない。

 あるとすれば異能技術衰退っていう文化的な危機くらいだ。

 それだって、異能系学科が乱立されたことで回避したわけだから。

 とにかくこいつは話を聞いてみなきゃなって思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ