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東方進軍歌  作者: 屠龍
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幻想入り

主人公たちが幻想入りします。

 第一話 侵入


 雨が降り出した、まさにバケツをひっくり返した様な。乾季の間一滴も降らなかったのが嘘のように降っている。恵みの雨、命を育む大切な水。しかしそれは常に命の味方では無い。


それは終わりの無い様なジャングルを進む兵にさえ容赦無く打ち付け体力を減らし、体温を奪う。


さらに川を溢れさせ、道を泥濘へと変える。

服、靴を重くしさらに食料と併せてそれらを腐らせる。


しかしこの時にはそれだけではなかった、この雨はそこかしこの死体も一緒に腐らせる、その光景は見る者の精神をすり減らす、同じ言葉を喋り同じ志を持っていた者の末路、目を閉じようと腐った死体特有のアマい香りとまとわりつくハエの羽音、遠くから聞こえる自決者の手榴弾が炸裂する音、こういった状況を雨はもたらした。


「霧が出て来たな、注意して進め。」


隊長がそう言った。


「チクショー、早いこと戻りてぇのに。」


溝口がボヤく。


「おい、山崎……貴様顔色が優れんな、大丈夫か?」


上滝伍長が問いかけた。


「あ、あぁ……大丈夫です、すこし熱があるだけです。」


恐らく大丈夫では無いのだろう、きっとマラリアにやられている、熱は四十度近くあるはずだ、その証拠に彼は私の隊に来た時からずっと早く慣れようと軍人口調で喋りいつでも「……であります」という様な感じだった、今の彼は「……大丈夫です」「……だけです。」と言った。


しかし誰も立ち止まり休もうとは言わない、足を止めればたちまち置いてけぼりにされそこらの死骸と同じ様になる。


「もう少し頑張れ、な?」


私はこんな言葉を掛けるぐらいしかできなかった。もっと私が元気ならば、お前の荷物を持ってやる、もっと元気ならお前をおんぶして何キロだって行ってやる。歳は上でも可愛い後輩だ、それぐらいなんてこと無い。だが今はそれが出来ない、私も限界が近いのだ許せ。


 そう思っている内にも隊は進む、霧はより一層深くなっている、ついには先頭を行く隊長がかろうじてみえるくらいだ。


 ふとここで私はある異変に気付きつつあった、まず一つに死体のアマい香りが遠くなった気がする、次に周りの植物に見憶えを感じるのだ。


「おい、溝口よ、俺はもうダメかもしれねぇ、周りの景色がおかしく見えちまう。」


「あぁ?何言ってんだてめぇ、らしくねぇぜ

しっかりしろよ、本当におかしくなっちまうぞ。」


「なんかよ、周りの植物が生え変わってねぇか?」


「あ?……あぁ確かに変わってる、てめぇよくこんな霧の中気が付いたな。」


「そうか、良かった、なんか匂いも薄れてるし、とうとう俺は脳ミソをマラリアにやられて幻覚見てるんじゃねーかって怖かったんだよ。」


そう話している間に霧が晴れてきた。


「三枝さん、ここって一体どのあたりなんですか?来る時にこんな植物無かったはずですよね?何だか日本のものに似てるし。」


そう駒田が聞いてくる。

ちょうどその時に開けた所に出た。


「知らんばい、こがんトコ。」


思わず自分のお国言葉が口に出る。

私達がそこで見た景色はまるで祖国日本の農村の様な所だった。





最後まで読んでいただき有り難うございました。

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