動き出した世界
ここは、三大大陸の一つシグナス大陸
この大陸を治めるのが、シグナス王国であり、その城下町の一角に魔法学園が存在する
春の休みを終え、実家から帰ってきた生徒達が制服に袖を通す
学園には初等部、中等部、高等部があり、各三年間のカリキュラムを経て進級し、卒業試験に受かることでシングルスターマジシャンの資格を得る
これを持つことでシグナス大陸での魔法に関する仕事につくことができようになる
魔法学園 高等部1年Aクラス
「ふぁー…」
眠たそうに髪をかきながら教室にはいると既に大半の生徒が自席で談笑していた
彼はそのまま教室の一番後ろの窓際の席へ腰をおろした
他の生徒達も進んで会話しようとはしない
その扱いは劇物に蓋をして倉庫に隠すような感じだ
彼の名は、アレン・ガーランド
見た目は不良というわけではないが、彼には二つの特徴があった
一つは魔法を使わないということ
この学園では詠唱魔法、無詠唱魔法、触媒魔法と一般教養を学ぶ
学園ということだけあって試験も当然あり、筆記試験と実技試験のうち彼は筆記試験において他を寄せ付けない成績を残している一方、実技試験はからっきしだった
もう一つは…
ガラッ!!
「アレン・ガーランドはいるかあ!!」
ガタイのいい上級生が勢いよく扉を開けて入ってきた
「…ドエモン先輩………パスで」
「ふざけんな!?
お前にリベンジするのに2年待ったんだ!
さっさとおもてにでやがれ!!」
この学園で最強と呼ばれていること
アレンにしてみたら退屈な毎日だった
初等部の時に上級生に絡まれている女の子を助けて以降、絡まれるのはむさ苦しい男達ばかり
こっちは魔法が使えないのに、向こうは殺す気で魔法を使ってくるから否が応でも知識と自分の身体で対応しなければならない
全ては俺を拾った恩人がこの学園の長だったということが悪い
食えない爺さんだが、感謝はしている
だが…
「さっさとしやがれ!!」
「………」
クラスの前に座ていた女子生徒がアレンの前に立った
「アレン、ご指名よ
授業の妨げになるから、さっさとお相手してあげなさい」
レオナ・ガーランド
俺を拾った学園長の孫娘であり、総合成績一位の才女である
拾われてから一緒に生活してきたが、中は決して良くはない
本人にしてみれば、学園生活おいて俺は目の上のたんこぶだろう
何せ、学年一位の前に「総合」とはいるのは筆記で俺がいるからである
「へぇーへぇー…
では、先輩……中庭でお話をしましょうか」
「おっ、やっとやる気になったか!」
ドエモン先輩は鼻息を荒くして先に中庭へと向かった
えーっと…ドエモン先輩は「土」の属性で無詠唱魔法をメインにしていたかな
過去の対戦経験を脳裏から読み込み、対策を検討する
俺の属性は「火」
魔法が使えなくとも体内魔力である「オド」を燃焼することで属性の恩恵を得ることができる
火の属性の恩恵は「力」
腕力、跳力、瞬発力などの力と名のつくエネルギーを強化できる
対策を練りながら中庭に着くとそこには窓からこちらを覗き込む生徒が溢れていた
…授業はじまってないのかな
素朴な疑問を余所にドエモンの正面まで進んで行く
ドエモンはギャラリーを無視して精神を集中させている
「………来たな」
先程とは打って変わって静かな面持ちでこちらを捉えていた
魔力は人の目には見ることができない
代わりに第六感で「感じる」ことが出来る
その第六感がアレンに警鐘を鳴らす
「………………ふぅ、、、いくぞ!!」
一呼吸置いてドエモンが銅貨を高く弾いた
「大地よ、彼方まで広がる大地よ、我にその大いなる力の一端を貸し与えん!」
詠唱魔法
大気中の魔力である「マナ」を精神力で支配し、自身の属性に見合った言葉を紡ぐことで魔力を魔法へと変化させる
銅貨は頂点を過ぎて落下し始める
詠唱魔法?
これまでの対戦でドエモンが詠唱魔法を使ったことはなかった
その前提を覆され、対策を練り直す
「大地からこぼれる砂よ、風と共に舞い踊れ!」
………チリンッ
ドエモンの詠唱が終わるのと同時に銅貨が地面に着いた
「サンドストーム!!
砂漠に吹く嵐」
俺の周囲を砂嵐が取り囲んだ
周囲の視界が閉ざされ、砂嵐の音で外界の気配も感じ取れない
また、砂嵐が結界の役目を果たし、外に出ることも中々簡単ではない
この膠着状態でドエモンは満足しない
砂嵐が消える前にしかけてくる
そう理解し、体の力を抜き、オドを覚醒させる
「ギガンテスハンマー!!
巨人族の戦槌」
砂嵐の結界の唯一の穴である上部から岩の塊のような大槌を振り下ろしながらドエモンが落下してきた
周囲は砂嵐で逃げ場はなく、頭上からは大槌が迫り来る
「ふぅ………はっ!!」
オド燃焼、脚力を強化
垂直跳びで10m上から落下してくるドエモンとの距離をゼロにし、その勢いのまま腹部に膝の一撃を放つ
「ぐふっ…」
ドエモンの意識が薄れると砂嵐の風は止み、大槌にひびがはしる
腹部の衝撃で息が吸い込めず、両者の体はそのまま落下を始める
アレンの脚力は強化されたまま地面に着地すると衝撃がドエモンに伝わった
ドスンッ!
「かはっ……」
ドエモンはアレンの膝の上で意識を失った
ピキピキピキ………バリンッ!
大槌が砕け散り、岩が土へと還った
戦いが終わると生徒達は自分の教室へと戻っていた
「………」
前の方が強かった
それが率直な感想だった
前回は無詠唱魔法で岩を纏い、肉弾戦を行ってきた
一撃必殺を信条とするアレンだが、その時ばかりは珍しく長丁場の戦いになり苦戦したことを覚えている
アレンが見下ろしていると保険委員が担架を持って走ってきた
それに気付くとアレンは反対方向に歩き始めた
時計をみると一限が始まっている時間だった
…屋上で時間を潰そう
そう思い、そのまま中庭を後にした
「…結局、寝過ごしたか」
お昼の終了を告げるチャイムで目を覚ますとそこには白髪の見慣れた顔が本を読んでいた
「カイか…
また、レオナに言われて起こしにきたのか?」
「…………ああ」
カイ・グローリー
白髪と無口が特徴の同級生だ
無口なやつほど怒らせると怖い
カイは典型的なそのパターンで初等部の時、白髪をバカにされてキレた
この学校の保険医は先ほどのドエモンの傷を一日で癒すほどの腕前だが、その保険医をもってしても一週間の要領を余儀無くさせたほどだ
「カイが呼びにきたら仕方が無い…教室に行くか」
カイは数少ない友人の一人で本人は隠しているつもりだが、レオナに恋をしている…無論、本人は隠しているつもりだし、ほとんどの生徒は気づいていない
そんな友人の顔に泥は塗れない
「…ああ、そうだな」
教室に戻ると近代史と世界情勢の授業だった
歴史の授業を担当するのは自慢話が好きなA講師だ
要約すると近代史とは、6年前に終結した百年戦争以降を指しているということ
百年戦争は大天使率いる天使軍と魔神が統べる魔神軍との戦争で文字通り百年続いた
発端は、いざこざが絶えなかった両陣営の和睦のために送った天使が魔神の領域で惨殺されたことに起因している
百年の間、両陣営の戦争で人間や亜人にも被害は出て、滅びた国も数多くいる
その百年戦争も魔神と大天使の半数が相打ちとなりながらも、闇のテリトリーに封印をすることで終結した
「………半分、自慢話だったな」
「こらっ、真面目にやりなさい」
レオナから叱咤激励されるのは学年No.2のセシル・マクダウェルだった
この国で最も就職が難しいとされる王室護衛局の局長をセシルの父親が努めており、それが代々続いている名家だ
セシルはその家の末っ子で兄三人は既に王室護衛局に入っており、セシルへの期待も大きい
「だってー、つまんないんだもーん」
セシルと目が合う
あっ……やっちまった
「ほらー、アレンも詰まらなかったって目をしてるよー」
「………アーレーンー」
やばい…
「ほっほっほっ、楽しそうだのぅ」
そんな時、救世主?が現れた
「お、お爺様…」
それはレオナの祖父であり、この学園長であるグラン・ガーランドであった
グラン・ガーランド
その名はこのシグナス大陸はもとより、他の三代大陸にも名声を轟かせる五賢者の一人である
その逸話は数しれず…
世界に三頭しかいない龍と互角に戦い抜いたとか百年戦争の折に略奪しにきた闇の軍勢を一人で返り討ちにしたとか魔神と酒を酌み交わしたなどどこまでが本当で嘘かがもはや本人でもわからない始末である
「時にアレン、レオナやしばらくトロイカまで行ってくるからの
家の戸締りは任したぞぉ」
学園長はそう言い残すと教室から去って行った
静まり返る教室
「…レオナってアレンと一緒に住んでたんだ」
誰かの一言だった
「…………水よ、万物の元素にして命なる聖杯の雫よ」
それはレオナの得意とする詠唱魔法
「やばっ…」
俺はカバンを握りしめ、窓に飛び込む
一方、レオナの周りには空気中の水分が凝縮された水球が一つ宙に浮いていた
「ブルー・インパルス
青き一筋の閃光」
水球から一筋の青い光が走る
「くっ…」
体を捻りながらなんとかかわすと目の前にはすぐ地面があった
オド燃焼、筋力強化
四肢の筋力を強化して、不自然な体勢での着地に何とか堪え、そのまま走り去った
今戻ったら……殺される
教室ではレオナが俺が消えた窓をしばらく眺めていたそうだが、しばらくして席について普通に授業を受けていたという
その後、誰もそのネタを口にするものはいなかった
その夜、俺は学校の屋上にいた
学園長が戻るまで家に帰れないからだ
いい月だ……
月を見ていると何かを思い出す…………気がする
俺にはこの学園に来る前の記憶がない
別に今の生活に困るわけじゃないし、気にもしないと言いたいところだが、実の両親を思い出せないのが悔しい
グゥゥ〜〜
そういえば、昼から何も食っていなかったな
食堂はしまってるし…
「やっほー、差し入れもってきたよー」
後ろから声を掛けられた
その方向には足場すらないはずだが……
振り向くとセシルが空中に浮いていた
「……ここ四階だぞ?」
「ご生憎ー、私に高さは関係ありませんー」
その姿は、いつもきている制服ではなく私服…しかもパジャマ姿だった
「セシル…その格好刺激強すぎ」
「そう?
レオナの方が刺激的じゃない?」
「………そうか?」
セシルは自分の格好を確認する
「私、レオナみたいに胸とかないしねー…」
たしかにレオナは大人の女性の身体付きになってはいるが…
「セシルはそういう感じじゃなくてくびれとかだな…」
「…意外、アレンでもそういう見方してたのね……」
あっ、思っていたことがおもわず言ってしまった
「いや、それは……」
弁解しようとするとセシルが俺の言葉を遮った
「……静かに、下に誰かいる」
セシルに言われて屋上から中庭を見ると石碑の前に月明かりで微かに何かがいた
…………ザザザザ
それの目の前にあった石碑がスライドする
「石碑が動いた…そんな仕掛けあったの?」
ダンッ!
屋上から中庭に飛び降りる
「!?
ちょっ…」
ザッザッザッ………
中庭の木々を経由して速度を落として行く
「……ホント、信じらんない」
セシルは魔法を使って中庭まで降りた
石碑の下に続いている道は階段になっていた
俺は階段をそのまま下って行き、セシルもそのままあとに続く
「セシル」
俺は下りながら制服の上着を渡す
この学園の制服は対魔法加工が施してある
「…ありがと」
しばらく階段を降りると広間に出た
そこは人工的に整地された真っ平らな地面と奥に祭壇のようなものがあった
さっきの奴は…
肝心の侵入者が広間に見当たらなかった
ヒュッ
何かが風を切った
「!!」
俺はセシルを抱えてそのまま跳んだ
ドゴンッ!!
そいつは俺達の頭上で気配を絶って待ち伏せしていた
砂煙が晴れないうちにそいつと距離を取る
どうやら出口は入ってきた通路しかないようだ
砂煙が徐々に晴れて行く
「……!」
そこには昼間やりあったドエモンがこちらを見ていた
「ドエモン先輩…」
「………」
その様子は明らかに普段と違っていた
どこか虚ろで、焦点があっていない感じがしていた
「ドエモン先輩、ここなんなんですか!?
どうして攻撃なんかを…」
口では対話を呼びながらも内ではオドを燃焼し、属性の恩恵を引き出す
それは今まで感じたことのない危機感からだった
目の前のそいつは、ドエモンの形をした別物だとしか思えないほどだ
じゃり…
ドエモンの足に力がかかる
オド燃焼、脚力、腕力強化
ダンッ!!
2人が地面を蹴り、ぶつかり合う
ドシンッ!!
う、動かない…
体格でいえばドエモンの方が大柄だ
だが、アレンは属性の恩恵で力を強化している
一方、ドエモンの属性は土
属性の恩恵は「硬化」
何か特別なことをしていない限り、いつも通り押し勝てるはずだった
こう着状態で不利なのはアレンだった
引くことで状況は変わるかもしれないが、押し込まれる可能性が大きい
そして、向こうはアレンと違い魔法を使ってくる
ぶちぶち…
ドエモンの筋肉繊維限界を超え、内出血を起こし始めている
なっ…
「ぬぅぅぅん!!」
ドエモンが気合を込め、アレンを押し込む
「しまっ」
!!!
空いた間をドエモンが踏み込み、硬化した腕でアレンの腹部を捉えた
「がばっ!!」
バンッッ!!!
体が軽々吹き飛び、祭壇の間で飛ばされた
「ごほっ…」
腹部を吹っ飛ばされたような感覚がアレンを襲う
「にげ…ろ……」
激痛で口が上手く回らない
「…風よ、大気に満ちた万乗の流れよ」
セシルはドエモンの進行ルートを遮るように立ち、詠唱を開始する
「数多を切り裂き、我を守る盾となれ」
疾風の刃が密室内を駆け巡る
「ウィンド・シールド!
風刃の防壁」
密室という風属性にとって最悪に近い状況で放たれた詠唱魔法はドエモンの歩みを抑え込む
「さらに我が願い、命じる」
連続詠唱
一度放った魔法に次魔法を繋げる高等技法
メリットとして詠唱が減り、次の魔法を放つことができる
しかし、術者の精神に大きく負担を強いる
「前方の災いを払う疾風となれ!」
疾風に押された風刃の防壁がドエモンをさらに押し込め切り裂く
「ゲイル・ソード!
疾風の剣」
ドォンッ………
たまらずドエモンが壁まで押し戻される
「はぁ…はぁ…はぁ…」
渾身の連続詠唱の代償は、セシルの精神力を消耗させた
「………そんな」
ドエモンの制服は所々が切り裂かれ、地面に無数の傷跡を残していた
しかし、ドエモンの体には傷がなく、何食わぬ顔で立っていた
その胸元には、黒い石をはめ込んだ首飾りがかかっている
「アーティ…ファクト」
触媒魔法
アーティファクトと呼ばれる魔法媒体にオドを流し込み、魔法を発生させる
アーティファクトには装備型と消費型があり、前者は燃費良く制御しやすい傾向があり、後者は爆発的な力を発揮する代わりに使い切りである
最大の問題は、自分にあったアーティファクトが見つかりづらいということ
…まずい
ドエモンがセシルを敵と認識した
……やばい
ドエモンの足に力がかかる
オド燃焼、全身体能力強化!!
身体にかかる激痛に苦悶を浮かべながらも、ドエモンより早く踏み込み、セシルの前に踊り出る
一拍遅れてセシルの前に立ったドエモンに拳を打ち込む
全身全霊
今の限界の一撃がドエモンの胸もとに突き刺さる
ドンッ!!
広間に衝撃音が反響する
「…………」
イテェダロ…コノ………ガキ
その音は、その声は、ドエモンのアーティファクトから聞こえた
ドエモン皮膚が体温以上に暑く、熱くなる
「!?」
この感じは…
タンッ!
身の危機を感じ、セシルを庇いながら後方へ跳ぶ
ボンッッッ!!!
ドエモンの身体から炎が立ち昇る
「ありえない…」
セシルから驚愕の声が聞こえた
通常、1人の人間で複数の属性を所有することはない
それは触媒魔法をもってしても同じで、自分の属性以外のアーティファクトはただの宝の持ち腐れとされる
だが、これで納得いくこともあった
それはドエモンの脅威的な力の向上
自身の肉体の限界をはるかに超えた恩恵はもはや呪いと言えよう
そのため、恩恵だけでドエモンの肉体はすでにボロボロである
「………もしかして、Sランクのアーティファクト?」
アーティファクトにはランクがあり、ランクが上がるごとに能力が高くなる一方、希少度も跳ね上がる
「Sランク?
そんなの…」
通常、アーティファクトはAランクからCランクまである
Cランクは比較的用意に発見、制作できるが粗悪品も多い
Bランクはダンジョンの中に眠っていることが多く、市場にだてもすぐに買われてしまう
Aランクは現代五指の職人しか作成が出来ず、バランスが良い
「Sランク、それはロストマジックによって作り出されたアーティファクトで現代のそれとは別次元の力を持っているとされ、最大の特徴はそれ自体に意識があるということ」
ドエモンのアーティファクトをよく見ると先ほどまで黒かった石が真っ赤に輝いている
ワガナハ…エンマ、ゲヘナ
ケイヤクニヨリ、ソノイノチモライウケル
ドエモンの右手が軽く振られた
ボォォォオオオオオ!!
それで生まれたのは、巨大な火球
属性が火であり、恩恵を受けてはいるが火の耐性など持っているわけでもなく、直撃すれば致命傷だ
ガクッ…
全身体能力強化の反動で体を疲労感が支配する
こんな時に!?
目の前に迫る火球をただただ見つめながら、身動きが取れなかった
「危ない!」
ドンッ!
セシルが俺を横から突き飛ばした
ジュッ………
セシルが火球を背中にかすめた
「つぅ………」
セシルの意識を失なわせた火球は俺の制服の上着をやすやすと消し去り、滑らかな背中を露わにさせていた
直撃すれば最期だと直感で理解させる光景だった
その時、祭壇の上に突き刺さる一本の剣が目に入った
こんなところに隠されていたのだから、おそらくアーティファクトなのだろう
色々なことを逡巡する
だが、この最悪の状況を打破するために剣のところへと駆け上がる
その間にもドエモンの炎は増大し、次の一撃に力を貯めていた
俺が剣の元へたどり着き、引き抜こうと柄に手を掛けた
「くっ…」
剣はまるで一つの岩のように固く、抜ける気配がなかった
こんなところで…
俺がやられれば、セシルも同じ道をたどるだろう
死んでやる…
数少ない友達を守れず、何が最強だ
訳には…
自分の思いと剣の中の思いが重なったように感じた
パキンッ………
すると刃が根元から折れ、柄だけが俺の手に収まった
シネ……コゾウ
ボォォォオオオオオ!!!!
先ほどより大きな火球が俺に向かって放たれた
止まりし時が動き出した
主よ、誓いのもと我が力を貸し与えん
その柄にオドが吸われて行く
そして、吸われたオドが無色の刃となって柄から伸びた
切り裂いて活路を求めん!
斬!!!
火球が両断されると空気中へと魔力に還っていった
ナンダト……ソノケンハ………
ガクッ!
しかし、この剣はオドを大量に消費するようだ
長期戦は不可、この勢いで飛び込む!!
再度、全身体能力強化!
タンッ!
祭壇から飛び降り、一気に駆け抜ける
ボォォォオオオオオ!!!!
シッッ!!
飛来する火球を切り裂き、ドエモンの懐に踏み込む
迷いはなかった
ザンッ!!!
無色の刃はドエモンの左肩から一直線に振り下ろされた
ガ…ハッ………
チャリンッ………
エンマ・ゲヘナのアーティファクトが地面に落ちる
それと同時にドエモンの炎も収まり、後ろへ倒れた
そして、オドを使い果たしその場へと倒れた
数日後、俺は自分の部屋のベットで目を覚ました
「やれやれ、下校時間後に園内にいるのは感心しないがの」
まぁ、小言の一つや二つは覚悟していたところだったがそれ以上はなかった
気がつくと俺が石碑のしたで使ったアーティファクトが枕元に置かれていた
「ああ、これ返すわ
爺さんのなんだろ?」
「………」
学園長はそれを懐かしそうに見つめた
「いや、それはお前さんのものじゃ
大切に使うがいい」
そう言って部屋から出て行った