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公爵令嬢アリアの正しい魔法の使い方〜転生令嬢、家電を作ってのんびり暮らします〜  作者:


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第5章 地の庭師と魔法土鍋の秘密

 

 ――アリア視点――


 屋敷の庭には、午後の日差しが柔らかく落ちていた。

 冬の名残を感じる風が通り抜け、土の香りがほんのりと鼻先をかすめる。


「お嬢さま、こちらに新しい花壇を……」

 庭師のオズヴァルトがしゃがみ込み、硬い地面を小さなスコップで崩していた。

 魔力の流れを調整しながら、地面をふわりと柔らかくする。


 その手際に、アリアは目を輝かせた。


「ねえ、オズヴァルトさん。その土、すごくきれいにほぐれてるわ」

「地の魔法で柔らかくしてるだけですよ。耕すよりは早いですが」

「柔らかさを変えられるってことは……形を作ることもできるんじゃないですか?」


 オズヴァルトが顔を上げる。

「形……ですか?」

「ええ! 例えば、鍋とか!」


 リサがすかさず声を上げた。

「鍋!? お嬢さま、今度は何を作るおつもりで?」


 アリアはにっこりと笑ってスカートの裾を持ち上げた。

「この前オーブンでお菓子が焼けたでしょう? 次は煮込み料理よ!

 けど普通の鍋だと、火加減が難しいの。だったら、魔法で温度を保てる鍋を作ればいいのよ!」


 オズヴァルトは少し呆れながらも、どこか楽しそうに息をついた。

「なるほど……。面白い発想ですね」


「でしょう?」

 アリアの瞳がキラキラと光る。


「でも問題がひとつあるんです」

「何です?」

「土を焼かないと強度が出ません。

 けれど焼くと、地の魔力が抜けてしまうんですよ」


 アリアは腕を組んで考えた。

「じゃあ、焼かずに固める魔法を……!」

「そんな魔法、聞いたことがありませんよ」

「じゃあ作ればいいんです!」


 リサが額を押さえた。

「また始まったわ……お嬢さまの実験タイム」


 ⸻


 数分後。

 庭の中央に置かれた土の塊の前で、アリアとオズヴァルトは真剣な顔をしていた。


「いきます! 風と地の調和——《硬化・風練》!」


 アリアが両手を広げると、風の魔力が渦を巻く。

 オズヴァルトの魔力が地に伝わり、土が淡く光を放つ。


 ぼんっ。


「うわぁあああっ!?」


 土の塊が爆ぜて、二人とも土まみれになった。

 リサは頭を抱えた。

「……だから言ったのに」


「でも、形はちょっとできてた!」

 アリアは頬についた土をぬぐいながら、崩れた鍋の残骸を拾い上げる。

 その断面に、金色の魔力の粒がまだ光っていた。


「……お嬢さま、今の魔力の残留……」

「ええ、見えました! あと少しです!」


 二人は顔を見合わせ、思わず笑い合う。

 試行錯誤の時間は、失敗すらも楽しい。


 ⸻


 日が傾く頃、ようやく“形”が生まれた。

 淡い土の色に、アリアが魔法紋を刻む。


「これで、温度を保つ魔法の流れができます」

「……どうやら、本当に完成しそうですね」

「はい。あとは……試運転です!」


 アリアが土鍋に水を入れ、火の魔法をかざす。

 ふわりと湯気が立ち上がる。

 そのまま手を離しても、水はぐつぐつと沸き続けた。


「……温度が、落ちない」

「成功です!!!」


 リサがぱちぱちと手を叩き、オズヴァルトは満面の笑みを浮かべた。


「お嬢さま、これ……屋敷だけでなく、王都でも売り出せそうですよ」

「ふふっ、まずは家族の食卓に使ってみましょう!

 お兄さま、きっと喜んでくれるわ!」


 その言葉に、オズヴァルトの頬が少し緩んだ。

 彼もまた、アリアが何より家族を想って魔法を作っていることを知っていたからだ。


 夕焼けの中、土鍋の表面に光が反射する。

 それは、まるで小さな太陽のように温かく輝いていた。



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