プロローグ
気がついたとき、私はふかふかの天蓋付きベッドの上にいた。
天井のレースが金色にきらめき、窓の外には、見たこともないほど大きな庭園が広がっている。
「……え、えっと。私、死んだよね?」
前世の私は、ごく普通のOLだった。
仕事帰りにコンビニのアイスを買って、部屋で扇風機の風を浴びながら食べるのが最高の幸せだった。
けれど、その“最高の時間”の最中に電気ショートが起きて──気づけばこの世界にいた。
今世の私は、公爵家の次女、アリア・フォン・ベルリーネ。
どうやら“悪役令嬢”として、将来婚約者をいじめて破滅する運命らしい。
でもそんなことより、今、私の頭の中を支配しているのはただ一つ。
「……ドライヤーが、欲しい」
長い金髪が濡れるたびに、魔法の風で乾かすのが地味に面倒くさい。
火魔法は熱すぎるし、風魔法はムラになる。
どうしてこの世界には、あの“あたたかくて優しい風”がないの!?
私は決意した。
この世界に、ドライヤーを作る。
それも魔法で。
家族は呆れ、メイドは心配し、兄は「また変なことを」と笑った。
けれど、私の魔法陣が初めて温かな風を吹かせた瞬間、屋敷中がどよめいた。
「アリアお嬢様! これはまるで、春の風のようです!」
「これが……“家電”というものなのか!?」
──そうして、私の“魔法家電ライフ”が始まった。
風で髪を乾かし、火で料理をし、水で洗濯をし、雷で照明を灯す。
前世では当たり前だった小さな便利が、今はみんなを笑顔にしてくれる。
これは、悪役令嬢が破滅を回避してのんびり暮らすお話。
そして、“正しい魔法の使い方”を見つけるまでの、ゆるくて温かい日々の記録である。




