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戦を終えた男たち

春の風が京の町を撫でていた。

戦の匂いは遠く、代わりに子どもたちの笑い声と寺の鐘の音が響く。

夜桜の下に集った七人の男たち――

土方歳三、近藤勇、山南敬助、永倉新八、斎藤一、沖田総司、そして古賀隼斗。

かつて“誠”の旗の下で血を流した者たちは、

今、平和の時代を迎えていた。

「……聞いたか? “新生・新選組”の話を。」

永倉新八が酒をあおりながら言った。

「俺たちが作った“誠”の旗が、今度は警察の旗になるって話だ。」

土方が笑みを浮かべる。

「いいじゃねえか。今度は人を斬るんじゃなくて、人を護る側だ。」

近藤勇は盃を掲げた。

「ただし、帯刀は許可されるそうだ。

 “剣は法の象徴として携えるもの”――そう新政府が決めた。」

その言葉に、皆の顔がほころぶ。

山南が穏やかに微笑む。

「剣を捨てずに、民を護る……。ようやく“誠”が報われる時代になりましたね。」

斎藤一が低く呟いた。

「皮肉なもんだ。あれほど追われた俺たちが、

 今度は正義の側に立つとはな。」

永倉が笑いながら肩を叩く。

「何を今さら言ってんだ。元から俺たちは正義だったろ?」

笑い声が広がる。

障子の向こうでは春風が舞い、桜の花びらが川面を流れていく。

ふと、沖田総司が口を開いた。

「皆さん……私は、“新生新選組”には移りません。」

その声に、場が静まる。

「俺もです。」

古賀隼斗が続けた。

近藤がゆっくり二人を見つめる。

「……理由を聞いてもいいか?」

沖田は微笑んだ。

「私はもう剣を振るえません。

 だけど、剣でしか護れぬものがあるように、

 剣では護れぬものも、この世にはあると気づいたんです。」

古賀が頷く。

「俺も同じです。

 剣で人を救う時代は終わりました。

 これからは――言葉と知識で命を護りたい。」

沖田は盃を持ち上げ、春の夜空を見上げた。

「けれど……“誠”は、俺の中で生き続けます。

 剣を帯びずとも、俺の魂は常に抜刀のままです。」

土方が静かに言った。

「剣を抜かずに戦う……か。

 まるでお前らしい言葉だ、総司。」

近藤は盃を掲げた。

「ならば――“新生新選組”は剣を帯びて法を護り、

 お前たちは言葉で、人の心を護る。

 それでいい。どちらも“誠”だ。」

永倉が杯をぶつけ、声を上げる。

「へっ、いい話じゃねぇか!

 剣を帯びた警察も悪くねぇ。俺なんざ腰に刀がねぇと落ち着かねぇからな!」

山南が微笑む。

「剣はもう、人を斬るためのものではなく、

 “誇り”として腰にあるのですね。」

斎藤も盃を掲げた。

「俺たちの剣は死んじゃいねぇ。

 誠の旗が消えぬ限り、剣もまた息をしている。」

障子の外、夜桜が散る。

古賀はそっと沖田の方を見る。

沖田は穏やかな笑みを浮かべ、川面を見つめていた。

「……きっと、これが“生きる戦い”なんですね。」

古賀が頷く。

「ええ。もう斬らずに護る。それが、俺たちの新しい誠です。」

春風が吹き抜ける。

桜の花が二人の肩に舞い落ちた。

その花弁は血ではなく、光のように柔らかかった。

こうして、新たな時代が始まった。

刀を帯びた警察「新生・新選組」は、京の治安を守り、

かつての“誠”の心をそのまま受け継いだ。

その名を聞けば、民は微笑み、子どもは胸を張る。

そして――

沖田総司は、病を抱えながらも学びを重ね、

やがて医学と教育の道へ進む。

古賀隼斗はその傍らで、人の心と命を救う医師となった。

二人が歩んだ道は、血に染まらぬ“誠の剣”であった。

夜が明ける。

京の町に朝日が昇る。

風が吹き抜け、桜の花びらが空へ舞い上がる。

かつて戦場を駆けた七人の魂は、

今、平和という新たな戦場に立っていた。

彼らの腰には、今もなお剣がある。

だがその刃はもう、誰も斬らない。

誠の旗は、静かに――

未来を護るために、再び風を受けた。


― 剣は護り、誠は生きる。

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