最愛の女性
夕刻の江戸は、日が傾きながらも人波が絶えることなく続いていた。町家の瓦の上には橙の光が差し、石畳の上には長い影が幾重にも伸びている。浅葱色の段駄羅模様を纏った古賀隼斗の姿は、その流れの中にあってなお際立っていた。行き交う人々の視線は自然と彼に注がれ、誰もがひそひそと囁きを交わす。
――あれが新選組の侍か。
――京の池田屋や禁門で名を馳せた者に違いない。
そんな視線を意識しながらも、古賀は淡々と歩みを進めていた。しかしその時、香ばしい醤油の香りに混じって、どこか甘く懐かしい匂いが鼻をくすぐった。足がふと止まり、目を向けると、通りの一角の団子屋が目に入った。
軒先の腰掛けに座る一人の女性。
普段の絢爛豪華な和服ではなく、質素な紺色の小袖を身に纏っている。だが、その質素さゆえにかえって浮かび上がる美貌があった。
褐色の肌に宿る艶やかな光。黄金の瞳は蜜を溶かしたように輝き、艶やかな黒髪は夕陽を受けて赤銅色に煌めいていた。
「……玄瑞」
古賀が小さく声をかけた瞬間、女性は団子を頬張ったままこちらを見て、ぱっと顔を綻ばせた。
次の瞬間、まるで子どものように駆け寄り、迷うことなく古賀の胸へと飛び込んだ。
「隼斗!」
「ちょっ……玄瑞殿! 隊服が……周囲の目もあります!」
慌てて古賀は声を潜めるが、玄瑞はまるで聞こえていないかのように彼にしがみついた。団子の甘い蜜の香りと、彼女の体温が一度に押し寄せ、古賀の胸を激しく揺さぶる。
「良いではないか! 儂は、ただ会いたかったのだ!」
夕暮れの江戸の往来、人々の視線を一身に浴びながらも、玄瑞の笑顔は一点の曇りもなかった。黄金の瞳がきらめき、まるで少年のような無邪気さで彼を見上げてくる。その姿に古賀は胸の奥から安堵が広がっていくのを感じた。
――もしあのまま勝先生に誘われて吉原へ行っていたら、この笑顔を見られなかった。
古賀は心中で深くそう思い、ただ静かに息を吐いた。
「おやっさん、もう一本!」
玄瑞は店主に声をかけると、再び腰掛けへ戻る。串団子を一本手に取り、今度は古賀の口元へ差し出した。
「ほら、隼斗も食べよ! 江戸の団子は侮れぬぞ!」
「……仕方ありませんね」
古賀は苦笑しながら一口かじった。甘辛い醤油の香りと米の柔らかな甘味が広がり、思わず頷く。
その様子を見て玄瑞は子どものように手を叩いて喜び、無邪気に笑った。
その笑い声は夕暮れの喧騒の中でひときわ澄んで響き、古賀の胸に柔らかな温もりを刻み込む。
やがて玄瑞は自分の口元に蜜がついたことに気付かず、にこにこと団子を食べ続けていた。古賀は思わずため息をつき、懐から手拭いを取り出して、そっとその口元を拭った。
一瞬、玄瑞は驚いたように目を丸くしたが、すぐにふわりと微笑み、頬を染めた。
「隼斗……やはりお主は優しいな」
その言葉に古賀は答えられず、ただ団子を口に運んでごまかす。だが胸の奥には、団子の甘さよりもはるかに濃い熱が広がり続けていた。
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久坂玄瑞の姿です。
生成AIで作成してます。