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最終話

 翌日。別荘から陛下の姿がいなくなっていた。部屋に行ったらあの薬はなくなっていたので、彼も自分と向き合いに行ったのでしょうか。これ以上私が詮索するのも野暮でしょう。またどこかで会えたらそれでいいと思います。


 ロビーでは相変わらず娘らがグータラしてました。完全にこの生活に染まってます。


「皆さんだらしないですよ」


「ここが快適っていうかー」


「ヒナここに住むー」


 栗香さんと陽菜葵さんが完全に休日モードです。確かにここには色々揃ってますし便利ではありますけど、それでもいつまでもいられないでしょう。食料も減ってますし、そろそろ動く時かもしれません。


「今日をもってこの生活は終わりです。旅立ちの時です」


 そしたら娘らが「えー」みたいに野次を飛ばしてきます。どれだけ嫌なんですかね。というか一応はここは皇族の別荘だから私有地じゃないんですけど。


「お姉ちゃん、次はどこに行くの?」


 雪月さんが三毛猫を抱っこして寄ってきます。そういえばこの猫も連れていかないとダメですね。私をめっちゃ睨んでますけど。


「前に海に行きたいって言ってましたね。皆で海でも行きましょうか」


「わーい! やった~!」


 雪月さんが猫にすりすりしてます。


 もう使命も何もないのだからゆっくりと旅でもしましょう。


「はいはーい! だったらヒナ北海道に行きたいんにゃ!」


「いいですね。私も雪のある所には行ってみたいです」


「じゃあ私京都で桜見たいんだけどー」


 などなど娘らが次の旅先の意見でワイワイとしてくれます。これなら問題なく出ていけそうですね。


 何となく外の空気を吸います。随分と空気が気持ちいい。旅立ちには良い快晴です。テラスには狐が行儀よく座っています。そいつに近付いた。


「結局、お前も全部台無しだったな」


 桜姫とのあの瞬間、私はこいつと契約しそうになった。けれど最終的にはそれも無に終わった。狐は何も言わなかった。


「実はお前と話がしたかったんだ」


「ふむ」


 いつになく大人しい。いや、こいつも分かっているのかもしれない。


「今回の旅は苦労も多かった。色んな奴の思惑が絡んで私が戦うにはあまりに荷が重かったよ」


「それが人と言う生物なのじゃろう」


「正直に言うけど今回の黒幕お前だろ」


 シンと辺りが静まり返った。さっきまで吹いていた風も動物の声もまるでしなくなった。或いはこいつがそうしたのか。けどすぐに風は吹いた。


「随分と疑われたものじゃな。吾輩はずっと君のそばに居たんじゃぞ?」


 いつもの調子で呆気なく答える。


「そうだろうね。きっとお前は直接何かをしたわけでもない。でも違和感はあった。あの妖怪の山で鴉天狗が言ってたんだよ。人がいなくなったら誰が得をするか。それはお前達妖怪だ」


 狐は私を見据えて黙って聞いている。


「今の時代だと妖怪は肩身が狭いらしいね。でも人が消えればそれもなくなる。だからお前は人を唆した」


 すると狐はカラカラと笑い出した。


「酷い言い草やなぁ。じゃが悪くない。やはり見込んだ甲斐がある」


 やっぱり。


「でも勘違いせんで欲しいけど吾輩は何もしてないで? いずれこうなる気はしてた。だから君に接触しただけじゃ」


「じゃああの封印っていうのも全部嘘か」


 こいつの話は所々おかしい点があったからそれも納得できる。そもそもこいつはきっとそういう野良の妖怪ではないだろう。もっと大きな存在。


「人の世を見るのは好きでな。じゃから、ああいう馬鹿な連中がいるのも気付いてたんよ。それでうまく利用しようと思って、丁度いい所に人間がおったわけじゃ」


 確かに樹海に住んでる私なんて妖怪からすればこの上なく都合がいいか。


「まさか不老不死とは思ってなかったが、でも素質はあると思ってた。やはり吾輩の目に狂いはなかった」


「お前、何が狙いだ?」


「なぁ魔女よ。吾輩と手を組まんか?」


 何を言い出す?


「日本がこうも寂れては人の世も終わりよ。そして次に来るのは妖怪の時代。言ってる間に魑魅魍魎が跋扈すると思うで」


 それが本当がどうかは分からない。そもそもこいつの言い分は信用ならない。


「じゃが妖怪は人間と違って統率もできる。魔女よ、吾輩と契約しろ。そして今一度百鬼夜行を目指そうではないか」


 なるほど、こいつの目的は最初からそれか。それでずっと契約を迫っていたのは私をお前の仲間入りさせるためか。断り続けて正解だった。


「誰が妖怪の仲間入りを果たすって? 冗談を聞く気はないよ」


「そうか? これからはあの鴉天狗みたいな奴が調子乗って出て来るんじゃ。そうなったら君でもあの子ら守り通すのは難しいはずじゃ」


 確かに鴉天狗はあまりに規格外の強さを誇っていた。


「なに、問題ないんよ。君が百鬼の頭領になれば全部丸く収まる」


「仮に私が妖怪になったからってこんな新参者を誰が認める?」


「君は人間殺しを果たした言わば妖怪らの救世主。誰が文句を言うんじゃ?」


 そういうことか。つまりこいつにとって私の人間という肩書がどこまでも邪魔らしい。だから妖怪にさせたいと。頑なに私に契約させようとしてたのもその為か。


 やっぱり狐の妖怪ってどこまでも信用できないな。


「その話を聞いて尚更聞く気なくなったよ。絶対にお前とは契約しない」


「ほう。それはつまり吾輩を敵に回すって解釈でいいんか?」


 こいつの目が真っ赤に染まる。するとまるで嵐の前兆のように周囲が荒れ始めた。やはりこいつも腐っても妖怪か。ポケットから一枚の御札を取り出した。


「おまっ! それは!」


「雪月さんが陛下からもらったやつ。まだ余ってたらしいからくれたんだ」


 強力な結界術らしいからこいつには特攻だろう。悪霊狐が逃げようとしたけどもう遅い。その大きな尻尾に張り付けてやった。


「ぐわー! って、ん?」


 狐がジタバタともがいてるのを見て思わず笑いが出そうになる。陰陽師でもない私がそんな便利な物持ってるはずない。というかあの戦いで使い切ったのにまだある方がおかしい。


「なんじゃ。これあの祠の御札かい。びっくりしたんじゃー」


 とりあえずこいつの首根っこを掴んでやった。


「でも悪さするなら仕方ないね。今度こそ雪月さんに封印してもらおうか」


「吾輩を封印するなんて不可能じゃ。魔女よ、諦めるがよい」


「ふーん。じゃあこれはどうだろう」


 ポケットから緋水を取り出した。それにはこいつも面食らってる。


「お前は人の病に関係ないって言ってたけど果たしてどうだろう。試す価値はあるかもね」


 不死の妖怪と不死となる薬。もしかすれば反発し合って副作用が起きるかもしれない。

 これにはさすがの悪霊狐も青ざめてやる。


「や、やめよ!」


 薬の蓋はあけた。さぁ飲むがいい。


 なーんて、しないけど。


 全部地面に捨てて、こいつも解放してやった。


「何の真似じゃ?」


「別に。ただお前にはほんのちょっとだけ借りがあるからね」


 それに私は極普通の一般人だから妖怪を殺せるかも怪しい。


「ここで殺さなかったのを後悔するぞ、魔女よ」


「お前はきっと私を殺せないよ」


 そもそも私は不老不死だし。


「やれやれ。これでは徒労であったな」


「だから最初に言ったでしょ。私はお前とは契約しないって」


 私は嘘を言わないからね。こいつをもう少し人を信じるべきだった。


「で、お前はこれからどうするの?」


「妖怪らしく生きるだけよ。いつだってそうだった」


「別に一緒に来てもいいんだけどね」


「なに?」


 私の提案に驚いたらしく変な顔をしてる。


「お前は私に憑いてる悪霊で一生そばを離れられないんでしょ?」


 本当はこんな奴は好きでもなんでもないが、けれど腐れ縁ではあるかもしれない。


 すると狐はにやりとほくそ笑んだ。


「ふむ。ならば百鬼の夢を諦めずにいるかの。君が承諾するまで居座ってやろう」


 それはないだろうけどね。


「それと吾輩は悪霊ではないぞ。本当は九……」


「呪狐ちゃんだろ?」


 そう言うとこいつはまたしても笑ってやがる。


「まさか人間にここまで化かされるとは参った。いいじゃろう。魔女よ、君の道に吾輩も付いていくとしよう」


 いなくてもいいんだけど、やっぱりこいつの口うるささがないと寂しいんだよね。


 すると娘らが手を振って呼び掛けてくれます。


「おねえちゃ~ん。次の行先決まったよ~。次はイギリス!」


 もはや日本ではなくなってるのですが。飛行機も飛んでないだろうしどうやって行くつもりなのやら。娘にはまだまだ教育も必要ですね。


 それでもどこであろうと、私達はずっと一緒でしょう。

 共に生きるとそう約束したのだから。

~FIN~

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