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65.配信

「配信、ですか」


 そうか。今は簡単に世界に発信ができるようになっていたんですね。以前桜姫が見せてくれた時も世界の人が見ていた記憶があります。


「陽菜葵。配信って言うけどそもそも今からアカウント作ってやったとしても、無名の人の配信なんて誰も見ないでしょ」


「む~。ヒナはアイディア出しただけなんだが?」


 不穏な空気が漂って雪月さんがわなわなとしてしまいます。確かに今から始めても誰も興味を惹かないでしょう。


「ならば知名度があればいい」


「魔女。ツテがあるの?」


「それは栗香さんも知ってると思いますよ」


「え。まさか?」


 私はニッコリと笑みを作ってあげました。


「いやいや。確かに姫は超絶人気だったしフォロワーとんでもないから使えたら皆見るだろうけど、そもそもログインできなくない?」


 その辺は全く分からないので返答に困ります。


「栗香さんはずっと桜姫と一緒だったんですよね。知ってたりしないんですか?」


「そりゃあ配信してるのは知ってたけどさすがにパスまで知ってたらヤバいでしょ」


 とはいえ可能性があるとしたらそれしかない。ダメで元々、やってみる価値はあるでしょう。


 ※


 丁度陛下が使っていないノートパソコンを持っていたそうなので借りました。それで部屋に移動してパソコンを起動させました。栗香さんが。


 何やらよく分からない画面になったので、とりあえず栗香さんに任せます。


 それで彼女がカチカチと動かして何やら入力画面に切り替わります。


「メールアドレスは連絡で使ってたから知ってるけどパスは本当に知らない」


 栗香さんは自分のスマホを見ながらアドレスとやらを入力してくれます。

 問題はパスか。ふむ。


「栗香さん。誕生日は?」


「ええと、姫の誕生日は……」


「桜姫ではなく栗香さんです」


「私? 私は10月12日だけど」


 1012と入力。


 ……。


 ダメですか。


「え。何してるの?」


「陽菜葵さん、これで栗香1012みたいに入力できます?」


「おっけー」


 陽菜葵さんがカチカチと入力します。するとどうでしょう。画面が切り替わりました。


「え、マジ?」


 何故か栗香さんが驚いています。


 彼女は本当に栗香さんを想っていたようですし偽物の愛ではなかったんですね。


「お姉ちゃんすごい!」


「名探偵ですから」


 さて。桜姫のアカウントを開いたもののここからどうするかは私には分かりません。

 栗香さんも配信経験がないようで四苦八苦しています。すると陽菜葵さんが割り込みました。


「ヒナ知ってるんにゃ。ここをこうしてこうこう」


 彼女、お馬鹿なように見えて結構機械に強いんですね。頼もしいです。


 するとまた画面が変わってそこには以前桜姫に見せてもらった可愛らしいピンク髪のキャラクターが映ります。同時にメッセージも流れて来ます。


「これってもう喋っていい感じですか?」


「多分」


 陽菜葵さんが色々弄りながら言ってくれます。とにかく喋ってみますか。


「皆さん、私の声が聞こえていますか」


「魔女待って。そこはひめこんにしないと不味いんじゃない?」


 なぜか栗香さんに注意されます。


「あ~。ヒナもそう思う」


 陽菜葵さんまで? もしかしてこの界隈では当たり前なのでしょうか。おばあちゃんには分からない。仕方ない。ここは若人の言葉を信じましょう。


「みなさーん、ひめこんですよー! 今日も盛り上げちゃいますからねー!」


 ダメだ。言っててめちゃくちゃ恥ずかしい。そして、何故か笑いを堪えてる栗香さんと陽菜葵さん。君達、謀ったな。


 もういい。じゃあ普通にさせてもらいます。


「皆さんに大事な話があります。この配信を見ている全ての方に聞いて欲しいんです。どれだけの人がこの事実を知っているかは分かりませんがそれでも告白します。もうすぐ日本に核が落とされます」


 わけのわからないメッセージが大量に流れていますが今は気にしない。


「世界閣議で決定したのは知っています。日本で起こった出来事を加味した上での判断なのも分かります。それでも言わせてください。核を落とさないで欲しい」


 私の言葉がどれだけ届くか分からない。気持ちを込めるしかない。


「私はこの配信者とは別人です。別に乗っ取りなどそういう気持ちはありません。けれど彼女の行った行為は到底許されるものではないでしょう。そうした悪事が世に広まったせいで日本と言う国が追い詰められたのは私もよく分かります。非難され、自業自得と言われても仕方ありません。でも日本にいるのはそういう人達だけではありません」


 彼女の配信を見てる人がこんな内容を見て面白がるかは分からない。でも何もしなければ結局は同じ。これ以上失ってはいけない。


「今でも店を開いてる人もいます。小さな宿を開いている人もいます。どこかで孤独に化物と戦ってる人もいます。中には化物との戦いで命を落とした勇敢な人もいました。そして、ここにいる彼女達もまた日本で生きています」


 娘達が見えるように寄せ合いました。ピースしたり手を振ったりしてますけど、見えてるのでしょうか。


「確かに日本はもう終わりかけているかもしれません。でも、それでも全員が死んだわけではありません。どうか今一度考え直してくれないでしょうか。私は日本であの悲劇が繰り返さないで欲しいと、ただ願います。私が言いたいのはそれだけです」


 これを言った所で無駄かもしれない。他国からすれば日本なんて所詮は他人事だから知らん振りをされるかもしれない。けれど私には愛する国がある。それだけを言いたかった。


「お姉ちゃんの気持ちは届いてるよ」


 雪月さんが言ってくれます。そうだと嬉しいですね。


「でもこうして見ると姫ってやっぱり人気だったんだ。影で努力してたんだろうな……」


 栗香さんが哀愁を漂わせて言います。桜姫さん、演技には自信があるって言ってましたけど、それだけ頑張っていたのかもしれない。


「そういえば私日本語で話してましたけどこれって向こうの人に通じるんですか?」


「音声拾って字幕出るようにできるよ」


 栗香さんが教えてくれます。本当に文明の進化が凄すぎて自分が化石時代なのではないかと錯覚しそうです。


「なら問題なさそうですね。では私は少し休みます。色々ありすぎて疲れたので」


「わたしも一緒に寝る~」


 雪月さんが引っ付いてきます。やっぱり雪月さんは癒しなのよ。う~ん、頭撫でたくなる。


「お姉ちゃん、あの時ありがとう」


「あの時?」


「屋上から落ちそうになった時」


「雪月さんを失えば私は二度と笑えなくなるでしょう」


「お姉ちゃん好き~!」


 本当可愛いな~。なでなで~。


「あ! また魔女雪月にデレてる! ズルい!」


 そう言って栗香さんが私の胸に強引にダイブしてきます。ジェラシーですか。

 可愛いからハグっちゃう。


「魔女たんたちー? まだ配信切ってないんだが?」


 その意味を理解するのにどれだけ時間が必要だったか覚えてません。

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