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64.爆弾

 桜姫との戦いから数日が経った。私達は陛下の別荘で今も身を隠している。首謀者がいなくなったとはいえ、それでも私達を憎む輩は多いでしょう。とはいえ今の東京は以前のような禍々しさがなくなったそうです。元々富士や桜姫に扇動されていたのでそれがなくなり悪事を働く人が減ったのだとか。


 娘らはというと別荘で呑気に寛いでいます。来た時はあんなに遠慮していたのに今ではぐーたら三昧。人は環境に慣れるそうですがもう少し節度がないものか。


 一言注意しようかと思ったら陛下がそばに来ました。


「魔女様、少し話をよろしいでしょうか」


「構いませんよ」


 陛下が外へと出たので私も続きます。結局この人はあれだけの信者を前に生き延びたのですから、すさまじい生命力というか。


 陛下は晴天の空を見上げたまま黙っています。


「魔女様にはこの度本当に感謝しています」


「いえ。責務を果たしただけです」


 何となくで始まった旅も気付けば壮絶な戦いに巻き込まれてしまいました。色々ありましたけどそれでも得られるものも多かった。


「それで話とは?」


 陛下が礼を言うだけで呼び出すのでしょうか。律儀なのでそうかもしれませんけど。相変わらず空を見上げたままです。


「魔女様、これから話すのを落ち着いて聞いてください」


「はい」


 まさか私も緋人なんですとか言わないでしょうね。あなたの暴走を止められる気がしませんので。


「近々、日本に核が落とされます」


「はい?」


 人間予想もしていない言動をされると脳の処理が追い付かなくなるというけれど、本当にそう。陛下は今なんと仰った?


「世界閣議で決定したそうです。私も抵抗はしていましたが、やはり私1人の力ではどうしようもないようです」


 そういって伏せます。本当に一体どういうこと?


 いや、でも。それも無理ないのか。


 これだけ化物が跋扈して、正体不明の病気が流行って、挙句桜姫の異常とも言える配信活動。思えばこれだけのパニックが起きてるのにどこの国も助けに来てくれなかった。その裏でそんな事態になってたなんて。それじゃあ私の頑張りも全部無駄だったわけ?

 爆弾落として真っ白にするなら旅なんて必要なかったじゃないですか。


「もう覆せないのですか?」


 陛下は頷きます。あの悲劇が再び起きるのか。

 落ちるとしたら東京か。そうなれば今度こそ最後。日本という国は完全消滅するでしょうね。


「今から避難告知して逃げるというのは?」


「逃げ場なんてありませんよ。それにこうなってはどこの国も日本人を受け入れないでしょう」


 終わりのカウントダウン。なんでいつも悪い事ばかり起きるんですかね。ようやく問題が片付いたと思ったのに。


「ですが方法がないこともない」


 陛下は勿体ぶって振り返ります。


 ああ。言いたい意味が分かりました。


「魔女様の薬があれば国民は死なずに済むでしょう」


 つまり日本国民全員を不老不死に? なんて馬鹿げた話。確かに私なら核の炎だろうと死の雨だろうと関係ありませんけど。


「……無理ですね。今からあれを量産するなんて不可能です」


 すでに蓬莱草の貯蓄は少ない。今から栽培して呑気に作ってる間に爆弾が落ちる。結局は同じです。


 それにあれを作ったのは随分昔だし極限状態で作ったからすぐに用意できるとも限らない。


「それでも全滅は免れると思います」


 確かに日本人は生き残るかもしれない。


 でも。


「あの薬は決していいものではありません。不老不死になるというのは人間性を失うのと同義です。あらゆる欲求はなくなりますし、おそらく生殖機能もなくなるかと」


 死なないならわざわざ種を増やそうとする必要もない。ならば不老不死になった所で結局日本国民は終わるに等しい。


「そうですか。ならば致し方ありません」


「陛下はどうされるつもりですか?」


「私はここで最期の瞬間まで見届けようと思います。それが国の長としての務めです」


 この人は最後まで天皇である、か。何が彼をそうさせるのかは分からない。でも私にとってはどうでもいいことかもしれない。


「もし旅立つならばご自由に。あなたの務めは終わりましたから」


 陛下はそう言い残して姿を消しました。


 さて、私はどうするか。なんて1人で考える気もないので娘の所に戻ります。

 相変わらず呑気に寛いでます。


「集合!」


 パンと手を叩いて声をかけましたが誰一人動きません。いや、雪月さんは来てくれました。やっぱりいい子。しかも三毛猫抱いてます。


「もうだらしないですよ?」


「なんか気が抜けたっていうか」


「ヒナ美味しいケーキ食べたーい」


 気持ちは何となく分かりますけど。あんな過酷な戦いが終わったのに待ってるのは不自由な日常。もしこれが本物の戦なら称えられたのでしょうけど。


「ならばそのまま聞いてください。近日中に日本に核が落ちます」


 落ち着いた口調で言いました。


「だってさ、陽菜葵。魔女も疲れてるんだね」


「そもそも核ってなんだが?」


 どうやら本気にしてくれないようです。雪月さんも分からなそうに首を傾げてます。


「簡単に言えば最強の爆弾ですかね。あれが落ちれば東京は灰になります」


「そんな強い爆弾があるならもっと早く使って欲しいんだが?」


 陽菜葵さんはその脅威を知らない故か呑気に言います。


「あまりに凶悪ゆえに世界でも使用を禁止されてるんですよ。過去に日本で2度落ちましたが、その惨劇は言葉では表せません」


「でも急過ぎない?」


 栗香さんだけは理解してくれるようで話を聞いてくれます。


「先日の桜姫の配信などから日本を見限ったのでしょう。陛下も落とされるのは確定だと話してました」


「え? じゃあ本当にヤバい奴?」


 栗香さんはようやく状況を理解して身を乗り出してくれました。


「これからどうすべきか。それを話し合わなくてはなりません」


「話し合いって、核が落ちるならもう終わりなんじゃ?」


「落ちるのはおそらく東京。ですからそこから離れれば命は助かるでしょう」


 私としては娘らが無事ならそれでいい。そもそも東京の連中は私達を散々殺そうとしたのだからその報いと思えば別に気にも病まない。


 けれど果たしてこれでいいのか疑問が残る。


「お姉ちゃん?」


 雪月さんが私の顔を覗いてきます。このまま隠しても仕方ないかな。


「私としてはどうにか抵抗できないか、とも考えます」


「抵抗?」


「できれば核を落とさせたくない。そう思ってます」


 過去に日本で落ちたから悲劇を繰り返させたくないという気持ちもあります。ただそれ以上にここで核が落とされたらそれからの日本はどうなるかの方が杞憂なんです。


 東京から人がいなくなれば日本は実質の更地。するとどうなるか。

 おそらく他国から人が押し寄せて、最悪植民地だってあり得る。

 そうなったら僅かに生きてる日本人は更に苦しい思いをする。それは私や娘も同じ。またしても平穏を脅かされて生きないといけない。


 だからといって不老不死の薬を作る気はありません。何か良い手はないか。


「魔女たんはお気持ち表明したいと」


「端的に言うとそうなりますね」


 どういう意味かはよく分かりませんが。


「だったらあれしかないんじゃない?」


「あれとは?」


「配信!」

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