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60.暴走

 準備が終わるのにそう長く時間はかからず別荘の前に集合します。


「それでは健闘を祈ります」


 陛下はヘリに乗って颯爽と飛び去って行きました。これでもう後戻りはできない。

 そういえばキラリンの姿がありません。少しすると別荘の奥から真っ黒な長い乗用車……リムジンですか。運転席の窓が開くとサングラスをしたキラリンが顔を見せてきます。


「乗ってください」


 ドアが開くと何とも広々とした空間があります。私が乗ったあれとは大違い。

 全員が乗ったのを確認するとキラリンは颯爽と走らせます。山道を容赦なく下っていきますが、振動はそれほどない気がします。


 すぐに東京の道路へと出て、するとリムジンの速度も一気に加速します。けれど私の運転と違って揺れも危なさも感じさせません。やはり運転はベテランに任せるに限ります。


 すると車の音に気付いたのか周囲から桜姫の信者と思われる緋人が多数出てきます。


「少しスピードをあげます。しっかり掴まっていてください」


 今でもかなり出ていると思うのですが。キラリンは返答も待たずにガチャという音と共にさらに加速。あんなにいた緋人を一斉に置き去りにしてしまいます。わーお。


 道路を塞ぐように緋人が立っていますがキラリンはスピードを緩める気配はありません。寧ろ上げてる気がします。


「このままですと衝突すると思いますが」


「そうですね」


 やんわりと答える彼女は気にもせずに人を引いてます。緋人とはいえこんなスピードで走ってる車に跳ねられては吹き飛ばされてます。


 さらにボンネットにあがった奴がいますがキラリンは窓を開けて銃を数発撃ちこみます。足を撃たれた緋人はすぐに道路へと投げ出され転がっていきます。


「栗香さん、どうやら私は間違ってなかったようですよ?」


「もうやだぁ」


 さすがに交通ルールの知らない私でもこれはアウトだというのは分かります。

 状況が状況なので仕方ありませんが。


 それから接近戦を諦めたのか遠くから銃を発砲してきますが防弾ガラスらしく簡単にはじき返してしまいます。それでも何度も銃撃がくると若干ヒビが入ってます。


「皆さん、頭は下げていてください」


 私を除く娘らは身を屈みます。


 それから敵の襲撃は続きましたがそれでもこの暴走車を止めれる人はいません。陛下曰く、桜姫の信者は統率力がないと仰っていましたがその通りかもしれません。どれもが連携する様子はなく個々に襲って来るのでそれならば技術のあるキラリンに分があるという感じでしょうか。なるほど、これなら戦い続けれていたのも納得です。


「ここから先は新宿となります。おそらく富士の傘下がいるでしょう。どうか身の安全をお願いします」


 街はハイカラで巨大都市とも言えるような雰囲気です。さっきまでも都市部に見えましたが更に大きい。それに人の気配も多い。もっともそれらは友好的ではないでしょうが。


 そしてその不安はすぐに当たります。道路向こうに何やら戦車が止まっていまして、その近くには迷彩服を着た人らも集まっています。戦車はこちらを向いていまして、普通にヤバそうなんですけど。


「えっと。もしかしてこのまま行くつもりですか?」


「国会議事堂へ行くには新宿を抜ける必要があります。これが近道ですよ」


 このお姉様中々にぶっ飛んでませんか。しかも発言通りに戦車に突っ込んでいきます。


「今になって栗香さんの気持ちが分かりましたよ」


「私もう絶対車には乗らない!」


 接近するリムジンに気付いて戦車の砲弾が飛んできます。けれどキラリンは車を右へ左へと動かして的を絞らせません。


 それはいいんですけど、もう少しこちらの気遣いも……。


 うっ、激しすぎる。


 外からは怒鳴り声と共に銃声の嵐。道路の奥には兵士が多数集まっていますがキラリンが高速で車を90度旋回させて全員吹き飛ばします。この車が長い理由ってそういう用途なの?


「まるで指名手配された気分ですねー」


「もう国を敵に回してるんですよ」


 キラリンが笑いながら言います。それもそうでした。


「ヒナはマー様がいれば世界だって敵に回してもいいんだが!」


 さすがに世界を敵に回したら身が持ちそうにありませんね。


 後ろからは敵の追手らしく軍用車が何台も追いかけてきてます。これは車が大破したら終わりですね。


「手伝いましょうか?」


 さすがにあの数に追われてはキラリンも厳しいでしょう。


「問題ありません」


 そう言って彼女は片手でハンドルを握りながら口で何やらピンを外してます。全てを察しました。キラリンは窓からそれを投げると後ろで大爆発。


 車は横転して炎上。中からは敵が出てきますがさすがに徒歩では追いつけないでしょう。

 なんかもうめちゃくちゃですよ。


「あなたが緋水を飲んでなくてよかったと心から思います」


「それは魔女様も同じですよ」


 こんな阿鼻叫喚なのに冗談を言う始末。この人この状況を楽しんでませんよね。


 さて、前方にはまたまた戦車。しかも今度は1台ではなく無数に停まって道を塞いでいます。さすがに通り抜けはできません。けれどここでスピードを緩めては敵に追いつかれる。


 どうする?


「Cルートにて敵の妨害。援護をお願いします」


『了解』


 何やら無線機で話してます。


 すると上空からミサイルの雨が降り注いで戦車を大破させていきます。地上では驚嘆の声。


 私、いつから戦争に志願したのでしょう。なんだか帰りたくなってきました。

 娘らも涙目とも言えない悲鳴をあげてます。


 キラリンは道を変えて止まることなく走り続けています。敵の攻撃があれば陛下が空から全て撃破してしまいます。


 正直2人でどうやって戦っていたのか疑問ですが何か色々納得しました。


 それから攻勢は激しかったのですが徐々にそれは減って行きます。


「もうすぐ着きます」


 どうやら新宿を抜けたらしい。


 少ししてキラリンは車を停めました。見た所、都会には似合わない緑が生い茂る場所でしたが。


「ここからは徒歩で向かいます」


 車で接近すれば気付かれるからですか。そうしてリムジンから降りると娘達がゲッソリした顔で降りて来ます。


「絶対寿命縮んだ」


「ヒナ車には二度と乗らん」


「うぅ……酔った~」


 素晴らしいアトラクションを提供してくれて娘からも好評だったようです。


 キラリンは武器のライフルを構えると森の方へと歩いていきます。私達も後に続きました。


「こんな都合よく隠れる所があるとは思いませんでしたね」


「ここは皇居です。元々不審者の侵入を防ぐ為にこういった造りとなっています」


 まさか本当に皇居に招いてくれるとは思いませんでしたね。けれど遠目で見える建物はすでに破壊されてるように見えました。それに森も所々倒壊し荒らされた形跡があります。


 おそらく陛下が富士と敵対したことでここが攻められたのでしょう。


 少しして道路へと出ました。皇居の周囲は湖で囲っているらしい。敵の侵入を防ぐのにそうした造りのお城を耳にしましたけどその名残ですかね。


 ともあれ今はキラリンに付いて行きます。街は思ったよりも静かで敵の気配がありません。そのことに妙な不気味さを感じます。仮に富士が国会議事堂にいるなら自身の周囲に部下を配置するのが普通では?胸騒ぎがしますね。


 そうこうしている内に国会議事堂へと到着しました。初めて見ましたが随分と古臭い建物に見えます。まるで神殿か宮殿のよう。


 キラリンは周囲を見渡しますが敵の気配はなさそうです。


「目的地に到着。敵は?」


『内部に補足。注意せよ』


 無線の会話からして富士はこの中にいるらしい。それでも気がかりです。


「怪しくないですか。普通部下を近くに置かないなんてありえませんよ」


「元より富士は単独行動を好んでいます。おそらくこちらのハッキングにも気付いている可能性があります」


 それなら尚更罠の可能性が高い。或いはそれだけ腕に自信があるのか。

 私は娘に振り返りました。


「皆さんはここで待機してください」


 その発言に面食らっています。反論される前に続けました。


「おそらく富士には2も3も策があるのでしょう。ならばこちらも切り札を温存する必要があります」


 それにあいつの腕からして近くに娘を置いて戦うのは非常に危険です。


「それには私も同感です」


 キラリンも賛同してくれます。

 けれど娘らの不安は消えそうにありません。


「大丈夫です。私は死にませんから。何かあった時はお願いします。では行きましょう」


 私は娘を置いてキラリンと共に中へと入って行きました。


 きっと大丈夫。娘なら私の指示がなくても動ける。

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