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59.準備

 早朝。天気は曇天。せっかくの決戦だというのに何とも気が滅入る。私はいつもこういう大事な日で悪運を発揮する。朝食も済ませてさぁ出発という空気になりましたが陛下が部屋の明かりを点けます。なぜ?


「準備は入念すぎるくらいが丁度いい。今から武器のチェックを行います」


 それもそうだった。私の武器なんてほぼ薬頼みなのであんな化物集団の中へ飛び込むには無謀過ぎる。


「では銃を扱える方はいますか?」


「私、一応これを使ってるので」


 と自前の銃を陛下に見せると大変驚いてました。


「随分と古い銃ですね。もはやアンティークでしか現存していないと思いましたが実に興味深い」


 マジマジと銃を見ます。そう言ってくれるのはちょっとだけ嬉しいですね。一応は父の形見ですし。


「とはいえ出力はやはり現代の方が上かと存じます。魔女様にはこれをお渡しします」


 そう言って陛下はスーツの内側から銃身の長い銀色の銃を渡してきます。毎日手入れされてるのか汚れは一切なく新品同然。弾は6発。これは私も父から少しだけ聞いたがリボルバーという奴でしょうか。


「特殊な弾丸を仕込んでますので命中すれば内部から破裂させ部位を大きく損傷させられます」


 聞いてるだけでエグイ性能してるな。重さも私が普段使ってるのより軽そうだし、頑張ったら片手でも使えそう。両手で構えてみる。うん悪くないかも。


「射撃の腕にはあまり自信はないんですけどね」


「相手に向けてトリガーを引く。簡単な的当てゲームですよ」


 全然簡単じゃないんですけど。ていうか陛下も冗談言うんですか。


「それよりいいんですか? これって陛下が使っていたのでは?」


「周辺の怪物よりも富士と戦うあなた方の方が危険でしょう。それに自身の愛用してる武器を渡せばあなたも私に不信感がなくなると思います」


 そこまで計算しているのですか。


「では他に銃が使える方はいますか?」


 すると陽菜葵さんが小さく手をあげます。

 すると陛下は思案します。


「あなたは……狙撃の経験はありますか?」


 いやいや、陛下。こんな小さな子にその質問はどうでしょうか。


 頷く陽菜葵さん。マジか。


 陛下はお付に目配せすると彼女は奥から何やら大きな銃を持ってきます。スコープが付いた異様に長く私では到底扱えそうになさそう。そもそもあれって持てるの?


 陽菜葵さんはそれを受け取ると軍人顔負けの構えをします。マジか。


「その年齢で経験がおありですか」


「ヒナを馬鹿にしてる?」


「失敬。狙撃であれば安全さえ確保できれば攻撃に加勢できますので戦闘を有利に運べるでしょう」


 そりゃあ遠くから狙えたら強いんだろうけど。


「陽菜葵さん、本当に使えるの?」


「あの頃は生きるのに必死で使える武器は何でも触った」


 この子どれだけ修羅の道を進んできたんですか。でもそれが事実ならかなり心強いです。

 それに緋人から離れられるなら危険も減るし悪くないかもしれません。


「私、銃は使えないんだけど……」


 栗香さんはそうっと手を挙げて、それで日本刀を見せました。


「日本刀、ですか。これまた珍しい。少しは拝見させてもらってもよろしいですか?」


 栗香さんが頷くと陛下が音も出さずに静かに抜きました。なんか手慣れてますね。

 それで刃をじっくりと観察しています。


「随分と使っていたように見受けられます。刃こぼれが目立ちますね」


 陛下はそう言いましたが素人の私には全く分かりません。栗香さんもそういうのは分からないらしく首を傾げます。


「これを扱うならば研いだ方がいいでしょう。彼女に任せます」


 陛下はお付に日本刀を預けると彼女は奥へと消えました。そして残ったのは雪月さん。


「あなたは……」


「わたしはおんみょんだから武器は使わないよ」


「雪月さん、陰陽師」


「それだ」


 この子、変な所で抜けてるんですよね。それで自前の形代を陛下に見せてます。


「陰陽師、ですか。これまた珍しい人材のようです。魔女様は随分と人を見る目があるようですね」


「恐縮です」


 本当たまたまなんですけどね。


「ただ陰陽道に関しては私も文献で少し得た知識程度なのであまり力になれるか分かりませんね」


 雪月さんは今のままでも役立っていますが……。


「陰陽師って風水以外にも封印みたいな術を使えたりするんじゃないですか?」


 私はその辺は全く詳しくないが少なくとも隣にいる悪霊狐は陰陽師に封印されていたらしい。だったらそういう術があってもおかしくはない。


「お前、何か知らんの?」


「知るわけないんじゃ。というか知ってたとしても言うわけないんよ」


 そこまで馬鹿じゃないらしい。役に立たんな。


「そういえば昔パパが変わった御札を作ってるの見たことあるよ。何に使うのか聞いても教えてくれなくて、もしかしたらあれがそうなのかな?」


 封印には結界を張る札みたいのが必要なのかな。


「でも材料とか分からないし無理かも……」


「いえ。私の知識の中に似たようなのがあります。試しに作る価値はあるかと思います。完成品をあなたに見てもらうとしましょう」


「分かりました」


 雪月さんがペコリとお辞儀をします。これはもしかして想像以上に私達強くなったのでは? と思いたいのですけど相手はあの化物集団だから油断はできない。


「そういえば相手の居場所は把握しているんですか?」


 闇雲に東京の中を探し回っていても消耗戦で敗北は必須。


「富士は千代田区の国会議事堂にいるでしょう」


「なぜ分かるんです?」


「彼が持つスマートフォンをハッキングし位置情報を特定しています。同じく桜姫は新宿区の緋色学会に在住しています」


 ハッキング? この天皇陛下様地味にとんでもないスペックしてませんかね。元々天皇は多芸なんて聞きますけどこんなことまで出来るなんてとんでもないですよ。これは味方で本当によかったです。


 それから一旦解散になって時間を潰すことになりました。私も暇だったので余った材料で薬を作ります。蓬莱草も残り少なく、私の薬屋復帰も難しいかもしれませんね。


「ナァーン」


 ロビーで薬を作っていると何やら猫の鳴き声がしました。目を向けたらテラスの方に三毛猫がゴロゴロしてます。


「猫ちゃんだ。かわいい~」


 栗香さんはそばに行って撫でてます。雪月さんも顎をわさわさしてます。

 山奥だし野良猫が迷い込んだのでしょう。


 因みにあの三毛猫は私の方を見るとすごい剣幕で睨んで威嚇してきました。


「魔女たんもしかして動物に嫌われる体質?」


「多分憑き物のせいです」


 動物って霊感に強いって言うしこいつが見えててもおかしくはない。

 とうの狐様は興味なさそうにそっぽ向いてるけど。


「刀をお持ちしましたよ」


 陛下のお付がやってきて栗香さんに日本刀を返しました。すると三毛猫は彼女にすりすりしてます。動物に好かれやすい体質?

 彼女は三毛猫を見下ろすと何やら耳から小さい物体を外して猫を撫でます。耳栓?


 それにあの猫、妙に人に慣れているというか。もしかして。


「あなた、もしかして私の客に来た人ですか?」


 軽い気持ちで質問するとお付の人は静かに立ち上がりました。


「その説はありがとうございました」


 本当だったのか。ていうことはこのお姉さんはキラリン? いやいや、あの時雰囲気全然違くないですか。


「まさか的中ですか。雰囲気も違うので別人かと」


「オンとオフでは顔を使い分けるのは当然ですよ」


 ニコッと微笑んで言います。いや、本当に同一人物? でもあの時見せてくれた三毛猫と似てる気がします。


「じゃあポメラニアンもここにいるんですか?」


「……騒動で慌ただしい時にあの子は」


「すみません。配慮が足りてませんでした」


 被害を受けたのは人だけでなく動物も同じ。


「魔女様には感謝しています。ですから今日、その恩を返せると思うと光栄です」


 その表情からして薬を飲んで後悔していないようですね。


「ナァーン」


 三毛猫が鳴きました。でもちょっと気になりますね。


「今何て言ったんですか?」


「……早くどっか行けよ、ですね」


 うん。私は飲まなくて正解だったかも。

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