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56.救援

「魔女! 奴らがここに来てる! 急いだ方がいいかも!」


 栗香さんが駆け上がって教えてくれました。私は陽菜葵さんの方を見ます。彼女は何も言わずに頷いてくれました。彼女の手を引いて上へと目指します。その先には雪月さんが待っていてくれました。


「お姉ちゃん! どの部屋も開いてない!」


「屋上へ行きましょう」


 少しでも時間を稼ぐ必要があります。とはいえこの状況を打開するのは作戦が必要です。

 屋上のドアを開けると風が轟々と吹いてます。周囲をフェンスで覆われて何かがあるようには見えません。


「前に学園にあった脱出シューターはないでしょうか?」


「さすがにこの高さだとないかもしれない」


 マンションの屋上まで来たので10階以上はあったと思います。そこまで準備はしてくれませんか。さて、どうしたものか。


「ごめん。ヒナのせいで」


「謝らないでください。全部私が勝手にしたことなので。だから陽菜葵さんも勝手でいいんですよ?」


「むぅ。そういうのズルい。魔女たんはヒナの好感度上げに必死すぎ」


 なんて言ってますが以前のような刺々しさは感じられません。


「ここで聞くのあれなんだけど、なんかあった?」


「陽菜姉、お姉ちゃんと手繋いでる。抜け駆け」


 娘2人から疑惑の声がします。そういえばずっと手を繋いだままでした。離そうと思ったのですが離してくれません。本当に素直じゃありませんね。


「では妙案がある人は挙手。今なら私のハグをプレゼントしますよ」


 なんて冗談を言ってみます。


「ぶっちゃけかなりキツいよね。仮に下の連中をどうにかしても地上にも沢山いるだろうし」


 栗香さんが至極正論を言います。それが問題なんですよね。この場を切り抜けたとしても第二、第三の矢が飛んでくるわけですから根本的な解決にはなっていません。


「魔女よ。その時ではないか?」


 そういえば存在を忘れていたよ。お前ずっといたんだな。全然喋らないから気づかなかった。


「それはない」


「じゃがさすがにこれはどうしようもないと思うぞ」


「仮にお前の力を借りたとしても窮地を脱するとは思えない」


 こいつが東京丸ごと消滅させれるなら別だが精々緋人を殺せる程度の力なら結局は同じだ。それなら何もしない方がマシ。


 万事休す、か。


「お姉ちゃん、あれ!」


 すると雪月さんが上空を指さします。その先にはヘリが徘徊していた。こんな所になぜ?

 まさか敵の増援か? もしそうなら完全に終わりです。


「あれ? あれ見たことあるかも」


 陽菜葵さんが首を傾げます。


「前に渋谷で化物と戦ってた、気がする」


 その語尾の弱さはなんですか。でも、この場で可能性を考えるとすればそれしかないか。


「雪月さん。あれに合図を送れますか?」


「やってみる」


「魔女たん!? 本当に自信ないんだが!?」


 彼女も記憶を頼りに言ってくれたのでしょう。


「私は陽菜葵さんを信じてますよ。あなたは嘘を言わないと」


「だからそれズルいんだが」


 雪月さんが形代をバサバサと飛ばしました。するとその大量の紙吹雪に気付いたのかヘリがこちらに接近してきます。よし、希望が見えてきました。後は信じるしかありません。


 すると背後から扉がバンと開け放たれます。


「へへ。ようやく見つけたぜ!」


 どうやらタイムリミットが迫ってたようですね。でもまだ諦めるには早い。


 前の男が飛びかかって来ましたがその脳天は一瞬で撃ち抜かれます。


「ヒナの推しに触れないで欲しいんだが?」


 恐ろしい早撃ち。普通に見逃しますよ。

 どうやらまた逸材を拾ってしまったようです。


 けれどこいつも緋人ならきっとこの程度では死なないでしょう。案の定すぐに起き上がります。


「いってーな。あんまり怒らせんじゃねーぞ」


 そして後ろからも続々と仲間が増えて来ます。これは厳しいですね。


 するとプロペラの轟音と共に連中が一斉に銃で撃たれます。振り返るとヘリが屋上に着地してそこにはフルフェイスでスーツ姿の男と金髪スーツの女がいました。いつか薬屋で来た陛下と蛇女です。蛇女はライフルらしき銃を構えて、陛下は操縦席に座っています。


「あなた達、急いで乗ってください!」


 蛇女が言います。状況が飲み込めませんが今は従いましょう。


「皆さん急いでください!」


 背後から緋人が来てますが蛇女が銃を乱射してくれるおかげで時間を稼いでくれてます。ヘリはすぐに浮上しそうですがそれでも次々と屋上に仲間が増え続けてます。


 すると蛇女が何やら腰から卵型の緑の奴を取り出してピンを外してました。マジか。


 ポイと後ろに投げると凄まじい爆発が。まだ乗ってないのに勘弁してくださいよ!


 それで雪月さん、栗香さんと乗って私も乗りました。

 最後に陽菜葵さんが乗ろうとした時。


「きゃっ!」


 彼女の体がバランスを崩します。どうやら緋人に足を掴まれたようです。

 私は即座に銃を構えた。


「うちの娘に気安く触んじゃねーよ、ごみが」


 バンとこめかみに鉛玉を食らわせると怯んで手を放します。すぐに陽菜葵さんの手を引いて中に入れました。ヘリはすぐに浮上し、連中も銃やら撃ってましたがさすがに空までは届きませんね。


「おかげで助かりました。礼を言います」


 正直状況がまだ飲み込めてませんが。それに色々疑問点が多すぎる。


「あなたも無事で何よりです」


 陛下が淡々と言う。私の無事を思ってた?


「何とか間に合ってよかった。あなた、いい子ね」


 蛇女が雪月さんを褒めます。いやもう、本当に何がなにやら。


「あなた方は緋色学会の仲間じゃないのですか? というか私の家に来て言った話も嘘でしたよね? 今更助けに来るってどういう了見?」


 グルグルと疑問が出て来て全部口に出てしまいます。


「募る話は落ち着いた場ですべきでしょう。空もまだ安全とは言えませんから」


 と陛下は言います。とりあえず2人は味方、なのかな? 分かりません。

 でも今は2人の言う通りここで聞くべきじゃないかもしれません。


 すると陽菜葵さんが私に寄りかかってきます。


「あ、あの。魔女たん、さっきは、そのありがと」


 もじもじとお礼を言います。


「親として娘を助けるのは当然です。寧ろ怪我はないですか?」


「うん、ない。はぁ、魔女たん格好よかった……」


 思いを馳せる少女のようにぼうっとしてます。もしやさっきの言動が原因? そういえばまた口が悪くなってた気がします。気を付けてても感情が高ぶるとああなってしまうんですよ。


 すると横で座ってる雪月さんと栗香さんがジーっとこっちを見て来ます。


「えーっと。なにか?」


「なんかさ、陽菜葵おかしくない?」


「うん、おかしい」


 いやいや本人居る前でそういうのはちょっとやめてあげてください。本人は気にしてなさそうですけど。


「魔女、また変な薬を飲ませたの?」


「またって何ですか。あれを使ったのは一度だけですよ。そもそも私はそういう目的で薬を使いませんから」


 娘の親なのにそれではただの野獣じゃないですか。


「お姉ちゃん、じゃあどういう目的?」


 雪月さんも詰め寄ってきます。今日は娘の反抗期デイですかね。ちょっとおばあちゃんには分かりませんが。


「私はただ普通に彼女を改心させただけです。ですよね、陽菜葵さん?」


「魔女たん、しゅきしゅき!」


 腕を絡ませてすり寄ってきます。助け船のつもりが泥船に。娘の疑惑の目が更に強くなりました。


「あんなに桜姫一筋だったのに何があったの?」


「ヒナ気付いたの。マー様こそが至高なんにゃ!」


 彼女が喋る度にジト目が怖い。


「ていうかそのマー様ってなんですか?」


 魔女たんは何となく分かりますが。


「敬愛を込める時はマー様。魔女の魔だからマー様! 親愛の時は魔女たんって呼ぶね!」


 ニコニコしながらずっと抱き付いてます。何かこの子めちゃくちゃ重くないですか。

 もしや私とんでもない子を拾ったのでしょうか。いや、娘なんだから責任持ちますけど。


「はぁー。別にいいけどー」


「お姉ちゃんの馬鹿」


 そして何故か怒られる私。私人助けしたんですよ? この子改心させるのすっごく大変だったんですよ? もっと褒めてくれません?


 あと、後ろでこんなに騒いでるのに前に座ってるお偉い方が無言なのもすっごく気まずいですけど。なんかあははーとか笑ってくれません? ちょっと怖いんですけど。


 どうやら私の苦難はまだまだ続きそうです。

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