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48.露呈

 徒歩の旅になりましたが東京まではそう遠くないと思うので頑張りたい所です。相変わらず娘の歩く速度についていけないおばあちゃん。陽菜葵さんも体力があるのか或いは娘が彼女に合わせているのか陽菜葵さんを挟んで歩いてます。


 さすがに今回は置いて行かれるのは不味いので頑張って早歩きにします。


「さっきの陽菜葵すごかったね。銃とか使えるんだ」


「別に。東京で生き残るならこれくらい普通」


「東京、すごい」


 と普通に会話をしています。やはり偏屈が年寄りがいると邪魔なのでしょうか。


「私よりも年下に見えるのにたくしましいね。東京で住んでたの?」


「ちょっと前から。人を探してる」


「人?」


 すると陽菜葵さんはスマホを取り出して何やら触っています。


『ひめこんですよ~。今日も配信盛り上げちゃうよ~』


 その声を聞いて思わず身震いがしそうになりました。それは桜姫の配信です。


「はあぁぁぁぁ。姫様の声、いつ聞いてもよき。姫様しか勝たん」


 なんて恍惚な表情で言ってるのが聞こえました。彼女、まさか桜姫の信者?

 それなら私を狙ってる理由も分かります。


 栗香さんがチラリと私の方に目配せしますが私は首を振りました。もう少し情報が欲しい所です。


「陽菜葵、姫が好きなの?」


「ちょー好き! ヒナの推し! 姫様の為なら命だって賭けれる!」


 これが何でもない日常であればただの趣味の会話だったのでしょうけれど。


陽菜姉(ひなねえ)は桜姫と会ったことある?」


 雪月さんが首を傾げて尋ねる。


「それがないのだぁ。悲しみ。だから姫様に会いたくて家を飛び出して東京に行ったのに手がかりがなくてヒナちゃんちょー泣きたい」


 つまり彼女は桜姫を好きだけど彼女の本性は知らない?

 いや、これも嘘の可能性がある。けど仮に嘘だとしてもわざわざそれを話すでしょうか。


「陽菜姉に朗報。栗姉は桜姫知ってるよ」


「ちょっ、雪月!? それ言っちゃう!?」


 雪月さんの爆弾発言に陽菜葵さんの目の色が変わりました。無論輝きの目に。

 彼女と桜姫の関係性が分からないので博打ではありますが、それはいい手です。さすがは雪月さん。


「姫様知ってるの!? どこで!?」


「ええと」


 栗香さんの目が泳いでます。


「栗姉、桜姫と同級生」


「マジなのか!?」


「あははー」


 陽菜葵さんがぐいぐいと栗香さんに詰め寄ってます。これは本当に桜姫を知らない?


「姫様のビジュはどんなの!? 生の声は!? 普段はどうやって過ごしてる!? 素の姫様はどう!? というか姫って呼んでたしまさか友人だったり!?」


 陽菜葵さんの質問攻めに栗香さんが困ったように頭を掻きます。陽菜葵さん、本当に桜姫の本性を知らないのでしょうか。桜姫も演技に自信があったそうですし、画面の向こうの友達も誰も疑わなかったそう。ならば彼女もまた桜姫に騙された哀れな信者でしょうか。


 栗香さんが助け舟を求めるように私の方を見てきます。


「陽菜葵さん。実は私達は桜姫さんと会ってるんですよね」


「何!?」


「おそらく彼女は東京にいるでしょう」


「まさかお前達も姫様の推しか!?」


 推しって一体どういう意味なのでしょうか。今はいいですか。


「陽菜葵さん、本当に桜姫と会ってないんですか?」


「会ってたら空腹で倒れないが?」


「では緋色学会については?」


「緋色?」


 本気で分からなそうな顔をして首を傾げてます。東京にいたのに緋色学会を知らない?


「薬を研究してる組織。姫もそこに携わってたらしいよ」


「マジか。うー、ヒナは頭悪いから世間を全然知らんのだ」


 なんて呟きます。


「お酒飲んでたよね。社会人でしょ?」


「ヒナはまだ14。学校も辞めて東京に来た」


「14って未成年がお酒飲んじゃ駄目でしょ」


「東京だと皆飲んでるが?」


 栗香さんは頭を抱えました。私何かよりもよほど無法地帯なようです。

 しかし、14となればまだ中学生くらいですか。それなら緋色学会を知らなくてもおかしくはありませんが……。


「わたしも知らなかったから大丈夫」


「だよね。そんなの知ってる方がおかしい」


 などと言いながら雪月さんの頭を撫でてます。駄目だ、聞けば聞くほど分からなくなってくる。もしかして本当に頭が弱いだけ?


 ならば回りくどいやり方はやめましょう。


「そうですか? 本当は全部知ってるんじゃないですか? 緋色学会も桜姫の本性も。桜姫はあなたが思うような良い人ではありませんよ」


 すると陽菜葵さんの目付きが変わって私を思い切り睨んで来ました。


「お前に姫様の何が分かる! 自分だけ会ったからって優越感で見下したい? 死ね! お前に姫様を語る資格はない!」


 そう言って陽菜葵さんはピストルを構えて私に向けてきます。娘がいる前で堂々とそれをしますか。或いはそれだけ桜姫を妄信しているのか。


 栗香さんはすぐに彼女の腕を抑えて雪月さんが銃を没収してくれました。


「放せ! やめろ!」


 陽菜葵さんはジタバタと暴れるものですから地面に倒して押さえつけられます。

 私はそっとポケットから拳銃を取り出しました。


「正直、私はあなたが信用できないんですよね。それに今も敵意を向けたのですからこれ以上同行させるメリットもありません。ここで死んでください」


 銃を額に突き付けると陽菜葵さんは目を大きく見開いて口をパクパクさせてます。


「え、魔女!? 待って!」


「お姉ちゃんやめて!」


 やめません。私はリスクある橋を渡る気はないので。さようなら。


 陽菜葵さんは覚悟したように目をギュッと瞑りました。トリガーをゆっくり引いてカチッという音が鳴ります。


 娘が小さな悲鳴をあげましたが実際は何も起きません。それもそのはず、銃に弾を入れてないので不発に終わります。


「え?」


 陽菜葵さんは何が起こったか分からず口をあんぐりさせたままでした。それは娘も同じ。


「すみません。あなたが白か黒か知りたくて少し試させてもらいました」


 もしも陽菜葵さんが敵ならばここまで追い詰められて無残に死ぬのは考えにくい。その為に一芝居したのです。けれど結果は彼女は何もしなかった。レベル3以上の緋人ならこの程度は簡単に脱するでしょうけど、まさか本当にただの人間?


「陽も暮れてきましたし今日はこの辺で休みましょうか」


 私の一言を聞いて娘からドッと疲れた声が聞こえたのでした。


 ※


 夜。近くのお店のソファで寝静まっていましたが何やら音がしました。彼女を監視する体で寝たふりをしていたのですが当たりのようです。


 陽菜葵さんはそうっと店を出て行きました。私は気付かれないように後を追います。


「ねぇ、もうやめさせてよ。なんだか魔女すっごくヒナを怪しんでるし、これ以上無理っていうか。そうそう。だから約束を……。は? 何言ってんの? ざっけんな、こら! こちとらてめぇの頼み聞いたんだぞ! ちゃんと約束守れ! おい切るな! おい!」


 どうやら誰かと連絡しているようです。内容からして彼女にとってよろしくなかったのでしょうけど。それにそんな大声で話すなんて不用心にもほどがあるでしょう。


 陽菜葵さんはスマホを何度も叩いていました。


「くっそ。なんで出ねーんだよ! ふざけんな!」


 地面にスマホを叩きつけてキレてます。どうやら結論は出たようですね。


 彼女の前に歩いて行きました。陽菜葵さんは私に気付いてビクッとします。


「あ、あれー。魔女たんじゃない。こんな夜更けにどうしたのー?」


 さっきまでとは違ってコロッと態度を変えて愛想笑いをしてます。その表情もどこかぎこちないですが。


「もういいでしょう。全部聞こえてましたよ?」


 すると陽菜葵さんは溜息を吐きながらスマホを拾い上げます。


「だから何って感じ。ここでヒナを殺すの?」


 この期に及んでまだしらばっくれるのですか。


「それはあなたでしょう。電話の相手は誰ですか」


「富士っていう変なおっさん。それ以上何も知らん」


 富士? それって確か元総理大臣であり、緋色学会を創設した人物じゃないですか。


「彼に私を殺せと言われたのですか?」


「別に。ただそうしたら姫様と会わせてくれるって言ったもん。でもあのクソジジィ、約束破りやがった! クソが!」


 陽菜葵さんはイラついた様子で壁を蹴ります。この様子では本当に捨てられたのでしょうか。


「陽菜葵さん。本当に緋色学会も桜姫も知らないのですか?」


「何回言わせんの? 何も知らんって言った」


 元々山暮らしの私が言うのも癪ですがここまで無知なら利用されるのも致し方ないでしょうか。


「あなたの電話相手も、桜姫もあなたが想像する以上に残酷な人間ですよ。そいつらが社会をこんな風に変えたのですから」


「は? 何言ってんの。クソジジィはともかく姫様がそんなのするわけないのだが?」


 どうやら桜姫をどこまでも信頼しているようです。なぜそこまで信じるか不思議です。


「どうして桜姫にそこまで執着するのですか?」


「お前には関係ない。姫様は私の全てだもん。ヒナは姫様に全部捧げる」


 洗脳か、或いはそれに近い何かか。それとも彼女の中に眠る悔恨か。今の私では聞き出すのは難しいでしょうね。


「あなたはこれからどうするのですか?」


 約束が反故にされたなら彼女が私を狙うメリットもないはず。


「東京に帰る。姫様が東京にいるならそこにしか私の居場所はない」


 そうまでして会いたいのですか。


「ならば私達と同行するのはどうでしょう。顔も知らないなら1人で行くよりかは可能性はあると思いますよ」


 その問いは存外に効いたようで彼女の心が揺らいでいるようです。


「姫様と会うまでだからな。お前は嫌いだ」


 桜姫を侮辱したのがよほど気に入らなかったようです。私はいつも人から嫌われる行動をしていますね。別にどうでもいいですけど。


「それと1つ気になったのですが」


「なんだよ」


「私と接触するつもりならどうして路上で寝ていたのですか?」


 それだけが本当に分からなかった。命令されてたなら絶対に会う必要があったわけだし、このまま入れ違いになってたら彼女はどうするつもりだったのでしょうか。


「家で寝てたらその間に素通りされるじゃん。だったら道路で寝てたら絶対気付く。ヒナって頭よくない?」


 別の道を使った時とか、そもそも徒歩で会いに来るとか、緋人に襲われるリスクとかツッコミ所が多すぎる。


 この子、もしや本物の馬鹿なのでは?

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