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45.無法

 退院も果たして旅の再開です。まだ私の目的は終わってませんからね。


「娘に朗報があります。この度なんと車を入手しました」


 病院の駐車場にポツンと黒の乗用車があったのでおそらくあれでしょう。娘2人乗せる分には何ら問題なさそうです。悪くありません。


「本当? だったらこれから超快適じゃない」


「車! 車!」


 今までは徒歩という不自由な思いをさせてきましたが、それも今日でお終い。

 これで東京までひとっ走りです。


 車に近付きます。

 ドアを開けようとします。

 開きません。

 鍵を取り出します。

 鍵穴が見当たりません。


 ???


「栗香さん。これどうやって開けるんですか?」


「鍵と一緒にボタン付いてるでしょ。ここ押したら開くよ」


 ポチッと押したらライトが点滅して開きました。またしても文明か。


 そんなこんなで荷物を後ろに積みます。やはり物も運べるのはいいですね。

 そして座席ですが運転席は当然私。助手席には栗香さん。後部座席に雪月さんと変な狐。


 さーしゅっぱーつ。


 ……。


 どうやって動かすんじゃ?


「栗香さん、エンジンってどうやってかけるんですか?」


「え、私に聞く? てか魔女免許持ってないの?」


「免許って何ですか?」


「マジか」


 栗香さんの顔色が悪くなってます。今朝食べた物が不味かったのでしょうか。


 それで栗香さんはスマホとやらで何やら調べてくれます。


「えーっと。まずその鍵を差して回したら動くっぽい」


 鍵穴、鍵穴……あったあった。


 そしてクルッと。おぉ、音が出ました。


 よしこれでハンドルで操作すればいいんですね。


 動きませんが?


「足元にあるペダルがアクセルとブレーキらしくて、左がブレーキで右がアクセル」


 なるほど。つまりこいつを踏んでやれば動くんですね。


 思い切り踏みました。なんか車からすごい音が鳴ってます。しかも動かない。


「というか踏むの3つありますが」


「一番左のがフットブレーキらしくてそれを1回踏まないと駄目っぽい」


 ふむふむ。おぉ。なんか上がりました。


「で、横にあるシフトレバーっていうのをDにしたら動くと思う」


 シフトレバー?


 ふむ、これですか。


 動かんが?


「ブレーキ踏んでないと動かない仕組みらしいよ」


 なんと面倒な。


 じゃあこれでDにっと。なんか色々あるけどまぁいいか。


 おぉ、動いた!


 何もしてないけど何か動いてます!


「ねぇ、魔女? やっぱり徒歩で行かない? 今までもそうだったんだし無理して車使う必要ないと思う」


「大丈夫ですよ。なんかオートマだから猿でも運転できるって聞きました」


「それどこ情報よ!」


 猿は大袈裟ですが楽勝らしいので。100年生きた叡智で乗り越えましょう。


「それにさー、無免許って色々不味いし警察に見つかったら大変でしょ?」


「私達より取り締まるべき人がいるから問題ありません」


 主に緋人など。そもそも警察がいるとも思えません。


「いや、本当。私不安しかないんだけど」


「あとはハンドル動かすくらいでしょう? 楽勝ですよ」


 とりあえずスピードが遅いのでアクセルを思いっ切り踏んでやりました。

 わおー、スピードでたー。


「あ。私今日死ぬんだ」


 栗香さんの顔色がめちゃくちゃ悪いです。


「心中するつもりはないのでご安心ください」


「だったらスピード落として!? 事故ったらどうするの!?」


「私は死にません」


「不老不死って皆こうなの? もうやだぁ」


 栗香さんが怯えるものですから少し落としましょうか。確かブレーキでしたね。

 確かこれ。よし思いっきり踏むぞ。


 そしたら急停止してその反動でえらい目に。車内の娘達も投げ出されて、狐に至ってはこっちに飛んで来る始末。邪魔だから雪月さんに投げ返す。

 しかもなんか変な音が鳴り続けてる。ハンドルの真ん中を押したら音が鳴るのか。

 なるー。


「もう帰る! 絶対死ぬ!」


「栗香さん。世の中に絶対はありません。僅かでも可能性があるならば賭けてみるべきかと」


「運転に関しては普通逆だよね!?」


 栗香さんがご乱心なのでとりあえずスピードはゆっくり目で車道へと出ました。

 うむ、我ながらのハンドルさばきです。もうベテランですね。


「ていうか魔女。シートベルトしてないじゃん。見つかったら捕まるよ?」


「寧ろ付けてたら緋人に捕まりますよ。あいつら容赦ないじゃないですか。栗香さんもシートベルト外してください」


「娘に犯罪助長する!?」


 自然なアドバイスのつもりでしたが彼女は真面目だったようです。


 それから公道を走っていましたが……。


「魔女! 車は左車線を走るんだって! あ! 信号無視するな! ちょっと! 指示器出さずに曲がったら駄目だって! その標識一時停止だってば!」


 とまぁこんな感じで怒られっぱなしです。どうせ誰も走ってないから何でもいいように思えますけど。


「栗姉楽しそう」


 後ろから雪月さんが呟いてます。ミラーで顔を見たらすごく嬉しそうな表情をしてます。


「全然楽しくないんだけど! 私の何を見てそんな感想出たの、雪月!」


 はたから見たらワイワイ騒いでるように見えますしあながち間違った感想ではないですね。


「でも家族でドライブって感じもしますよね。雪月さん行きたい所あります?」


「遊園地! 動物園! 海!」


 身を乗り出しながら言ってます。いかにも子供が好きそうな所ですね。


「遊園地も動物園も閉鎖してそうだけど。海は開放してるだろうけど」


 また機会があれば皆で海でも行きたいですね。


 むむ。あの店は! ハンドル旋回!


「魔女その急展開本当やめて」


 今日がはじめてだから仕方ありません。店の前に車を停めました。

 車から降りると娘も付いてきます。


「ここって」


 コインランドリーと書かれたお店。店内は明るいのでまだ動いてるはずです。


「服が汚れてるでしょうから洗濯しましょう」


 長旅で緋人との戦いも多かったですしいい加減洗わないといけません。新品を用意した方が早い気もしますが袴なんてその辺の店にないでしょうしね。


「別に洗うのはいいけどお金あるの?」


 お金? どうやらこのマシーンを動かすにはお金が必要なようです。当然私も雪月さんも持っていません。

 現金は必要ないと思って置いてきたんですよね。


「何か不正な手段で動きませんかね」


「うちの親が段々ヤバい人に見えてきた」


 元々ヤバいので今更です。


「もういいよ。スマホにいくらか入ってたしそれ使うよ」


 なんと! 今はもう現金を持ち歩かない時代ですか。これはもし薬屋経営を再開するようになったら色々と改善しないといけないかもしれません。


「さすがは我が娘です。親として誇らしいです」


「娘にお金借りる親って恥ずかしくないの?」


 それは言わないお約束です。それで栗香さんが何とか支払ってくれたおかげでマシーンが動いてくれたようです。


「では洗濯です。脱いでください」


「は? 私も?」


「当然でしょう?」


 1人だけ例外なんて方がおかしいと思います。雪月さんが袴の帯を外そうとしてたので栗香さんが全力阻止してました。


「いやいやいや! ここお店だから! 脱いだら駄目だって雪月! 万が一誰か来たらどうするの!」


「着替えいくつかありましたよね?」


 雪月さんがコクリと頷く。羞恥は一瞬。なら問題はない。


「こんな公共の場で脱ぐとかありえないから! 絶対おかしい!」


 今日の栗香さんの方がおかしいように思えます。


「もしかして見られるのが恥ずかしいんですか?」


 私は女ですけど。そこの狐も一応メスらしいですし。


「同性だから恥ずかしくないっていつの時代!」


 これに時代とか関係あるんでしょうか。


「というかそんな短いスカート履いてよく言いますよ。それなら雪月さんが言った方が説得力あります」


 大胆に太ももを自慢しておきながら見られたくないは通用しないと思います。栗香さんは顔を赤くしていました。


「これは気に入ってるから別なの!」


 年頃の娘は中々気難しいようです。仕方ありません。強硬手段です。


「雪月さん、お願いします」


「ん。栗姉諦めて」


 雪月さんの手には大量の形代。もはや彼女に逃げ場はありません。


「いやあぁぁぁぁ!」


 このあと一杯洗濯しました。

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