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41.研究③

 与えられた猶予は3日。その間に何とかしなければならない。もっとも連中の言葉など信用できないから早めに対策しなければいけないが。


 まずは情報収集だ。五竜は研究段階も教えると言った。ならばそのあたりを知りたい。

 ガスマスクの方を見る。こいつは放心したみたいに私を睨んでいた。


「おい。緋水について知りたい。資料か何かないのか?」


 ガスマスクはまたしても舌打ちしながら動く。こいつからしたら面倒な仕事を押し付けられたわけだろうが、こっちが知ったこっちゃない。

 ガスマスクは無造作に資料を机に叩きつけた。


 資料を捲った。そこには緋水の製造工程などが細かに記されている。

 中には例の泣き薬についても言及されてあり、やはり桜姫が渡していたようだ。


 ページを捲っていくと興味を引く内容があった。


【緋水の適合段階】


 見出しにはそう書かれていた。内容はこう。



 緋水を服用した場合、全員が不死者となるわけではない。中には見た目の変化がない者の存在も認められる。条件は未定。ここでは適合段階を5段階で評価する。


 レベル1

 知能低下。狂暴化。容姿は緋の悪魔となる。理性のコントロールは不可能。

 再生度は高いが寿命が尽きるのも早い。レベル1になった被験者は即刻処分すること。


 レベル2

 知能変化なし。容姿は緋の悪魔。理性のコントロールが可能。

 理性はあるものの一定以上の負荷が入るとレベル1へと移行する。処分推奨。


 レベル3

 知能変化なし。容姿は緋色の変化あり。理性のコントロールが可能。

 現在負荷によるレベル変化は認められない。保存推奨。


 レベル4

 知能変化なし。容姿変化なし。理性のコントロールが可能。

 現在負荷によるレベル変化は認められない。現状数名の報告のみ。


 レベル5

 現在レベル5の報告はなし。不死の最終目標はレベル5とする。



 なんとも興味深い内容か。だがこれで色々と謎が解けた。

 緋水を服用するとただ化物になるのではなく、そうならない可能性もあるということ。


 かつて理性のあった緋人のあの人はおそらくレベル2。そして桜姫が言った素質という意味もこのレベルを意味するのだろう。つまり彼女は最低でも3以上となる。それは五竜もそうだろう。


 特にレベル4は容姿の変化もないなら、実質不死の力を得たに等しい。なんと恐ろしいことか。いや、不老不死の私が言うなって感じだけど。


 レベル5の記載はないけどこいつらは何を目指しているのだろう。


「こんな貴重な情報を私に見せてよかったの?」


 一応は敵なのだからこれを見せるのは不味いだろう。それほど追い詰められているのか、見られても支障がないのか。


「俺に聞くな」


 それもそうか。


 おそらく五竜はレベル3以上の人間を作ろうとしている。地上に緋人がいたのはこの資料から察するにレベル2以下は捨てるという判断か。クズに変わりはない。


 レベル5、か。それが最大なら一体どんな。

 いや、待てよ。仮にレベル4以下は緋人の特性を得ただけならば、それは結局寿命で死ぬのを意味する。つまりこいつらが目指す先は不老不死。私だ。


 死なない人間を製造して何をするかは知らないがろくでもないのは確かだろう。


「そういえば1つ気になる点があったんだけど、この資料には記憶の薬の記載がない。お前、あの薬をどうした?」


 桜姫が持っていた泣き薬の記載はあった。けどこいつのはなかった。こいつは緋色学会に身を売ったのだから何も書かれていないのはおかしいだろう。


 するとガスマスクが鼻で笑った。


「そりゃそうさ。自分で飲んだからな」


 自分で飲んだ? つまりこいつはその後に緋色学会に入ったのか?

 疑問に思っているとガスマスクを外した。素顔があらわになると、そこには顔半分が火傷痕みたいに真っ赤になっている青年の姿があった。


「悪いな、魔女さんよ。俺は強くない人間だったから彼女の死を乗り越えられなかった」


「自分を売ったんですか」


 ガスマスク、いやノッポは頷いた。そういえば最後にその後どうするかは分からないと言ってたな。だからって緋色学会に行かなくてもいいだろうに。


 この顔の具合から彼はレベル3の緋人化になっているようです。だからガスマスクをしていたんですか。


「緋色学会に言われたんだ。必ず死すらも超越するってな。俺は藁にすがる思いで奴らの実験材料になった」


 なるほど。魔女の薬を服用した人間ならば良い研究結果が期待できそうですね。

 なんて馬鹿な男なのでしょうか。


「あいつら言ってたぜ。魔女こそが死の超越者だってな。本当はあんたなら出来るんだろう?」


 それは願望に近い眼差しだった。彼はどこまでも彼女を愛していたのでしょう。

 けれど今のこいつを見て彼女は果たして喜ぶのでしょうか。私にはどうでもいいですが。


「何度もいいますけど私は死者を蘇らせるのは不可能です。五竜もそうでしょう。なのに未だに死者に未練を持つあなたが哀れで仕方ありませんね」


「てめぇ!」


 ノッポは銃を構えますがすぐに我に返って下ろしました。そしてガスマスクを被ります。


「どの道あんたはここからは出られない。精々成果を期待してる、魔女さんよ」


 思わず鼻で笑ってやりたくなりました。そうやって他人任せなうちはどんなに頑張っても報われないでしょうね。


 ※


 時間が過ぎるのはあっという間でもう3日目となりました。

 これといった作戦も思い浮かばず今日も実験室へと連れられます。


「今日があんたの命日だ。精々頑張れよ」


 お前に言われずともね。


 さすがに3日目となると機材の使い方も分かってきて、一応は薬を開発しました。無論不老不死の薬なんて良い物ではありません。私は透明の液体が入った瓶をノッポに見せます。


「これで満足ですか?」


「これが例の不老不死の薬か?」


 こいつはいつも質問を質問で返してくる。だから嫌い。


「そうかもしれないですし、そうじゃないかもしれません」


「何を言ってる?」


「当たり前じゃないですか。ここには被験者もいないのですから試すこともできません」


 するとノッポは舌打ちをします。これも嫌い。


「だったら被験者を連れてくる」


「そんな時間もないはずです。あなたが飲めば早い」


「ふざけるな。毒かもしれないものを飲むわけないだろうが」


「緋人になってるのに? 今更恐れるものなんてないと思いますけどね。それともやっぱり死ぬのが怖いんですか?」


 こういう輩は存外に煽りに弱い。事実、こいつは私の薬を奪い取って飲み干したからです。

 はい、ご愁傷様。


 ノッポはその場に倒れました。飲ませたのは睡眠薬。ですから当分は目を覚まさないでしょう。薬師なので普通の薬は作れます。本当はあの対緋人兵器薬を作りたかったのですが蓬莱草なしでは無理でした。


 ノッポが眠ってくれたおかげでその大きな銃を拝借しましょう。


 おもっ! なにこれ、おも!

 めっちゃ重いんですけど。軍人が軽々持ってるから軽いって思ってたのに重すぎ!

 こんなのを私に使えと? いやでも他に武器ないし。仕方あるまい。今だけの我慢です。


 私は部屋を出て身を忍ばせます。するとコツコツという音と慌ただしい音がします。慌てて角に隠れました。


「五竜様、大変です! 研究所周辺に多数の緋人が接近しています!」


「馬鹿な。奴らは隔離していたはずだろう」


「わ、分かりませんが今も接近中とのことです」


「ええい。ならば奴らを根絶やしにしてこい!」


「はっ!」


 そう言って軍人が急ぎ足で消えて行った。どうやら娘も行動してくれたみたいだ。しかも最高のタイミングです。やはり以心伝心というのがあったみたいですね。帰ったら沢山褒めてあげましょう。


 さて。軍が地上に行ったならば私が行うべきは五竜の抹殺のみ。仲間がいないなら今が最高のチャンスでしょう。私は奴の後を追います。


「そんなおもちゃであやつを殺せるとは思えんがな」


 隣にいる狐がボソッと言う。


 それは私も想定している。そもそも銃弾を避けるんだからこんなのあってないようなもの。

 だから五竜と戦うには別の策が必要になる。例の薬があればまだ勝機もあったけど、ここで地上に行ってる時間はない。


 それに私は1つだけ疑問がある。


 緋水の研究の適合段階。あれはなぜ5段階あるのでしょうか。

 無論、不老不死を目指しての計画なのでしょうけど、そもそもレベル4でも研究段階として問題がないように見えます。そりゃあ不老は魅力かもしれませんが、長生きするメリットって今から考えることでしょうか。


 だから別の視点で考えました。五竜がレベル4で満足できなかったのは彼にも目的があったから。そしてノッポが話してた死の超越という言葉。


 おそらく、五竜自身にも生き返らせたい人間がいるのではないでしょうか。

 だから今も研究を続けている。それが誰かは知る由もないですし、あんな奴に大切な人がいるとも考えられません。けどそうでなければ説明がつかない。


 だからそれを確かめる。もし大事な人なら私なら常にそばに置いておく。

 つまり最初研究所で五竜と会った部屋、あのホルマリン漬けにされた人の中が怪しい。


 五竜はコツコツと歩いて奥の部屋に入っていきます。同時に扉も閉まってランプが赤くなりました。近づきましたがどうやら開く様子はありません。当然パスワードも分からないので困りましたね。


 そんな時、背後から何かが接近してくる足音がします。思わず銃を構えて振り返るとそこには我が愛しき救世主が舞い降りたのでした。


「お姉ちゃん!」


「魔女!」


 2人は脇目もくれずに一目散に私の胸に飛び込んできます。

 敵地でこの不注意は本当に困ります。それに軍が出払ってるとはいえ研究所に侵入するなんてこの子達の親はどんな教育してるんですか。


 でもよくやってくれました。お姉ちゃんは今、とても嬉しいです。

 軽く頭を撫でてあげて落ち着かせます。これで役者もそろったことですし反撃開始と行きましょうか。

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