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38.思索

 早朝。寝ずの番でずっと外を見張っていましたがあれから相手が動く気配もありませんでした。あまりに暇だったので途中から星を数え出したくらいです。

 椅子から立ち上がってみます。体の調子はよさそうです。相変わらずイカれた体内構造とも言えますが。


 娘達もすでに起きていて朝食の準備をしてくれています。本当なら保護者の私が率先してすべきなのですが私が食料を管理しようものなら、3日で尽きるでしょうね。

 朝食は簡単に済ませるようで缶詰のようです。私の所にはホクホクのご飯が置いてあります。どうやら温める電子機器があったようです。やはり私は料理したら駄目だろうね。


 ともかく朝食の時間です。手を合わせて頂きます。白米なのでそのまま食べてもいいのですが、やはりおむすび教として丸くしたくなるのが性です。今日は自分でこねましょう。


「雪月。ちゃんと栄養考えてる?」


「うん。フルーツ美味しい」


 娘が何やら話してます。


「それは分かるけど、昨日もパンだったしタンパク質やカルシウムも摂らないと駄目だよ」


 栗香さんからのご教授。雪月さんの朝食は果物の缶詰のようです。色んな果物が入ってるようで見るからに美味しそうです。かくいう栗香さんは魚の缶詰。中々対照的な朝食です。


「やだ。わたしはこれがいい」


「とか言って好き嫌いあるんじゃない?」


 栗香さんがスプーンで一口切り身を取ると雪月さんの口へと運びます。彼女は大袈裟に身を引いてました。魚嫌いというよりは、その匂いが嫌だったと思います。離れてる私ですら中々強烈だと思いましたから。


 栗香さんは特に何も言わず自分で食べました。


「そんなんだと大きくなれないよ?」


 普段運動しながら食事も気にする栗香さんの言葉は説得力があります。


「それならお姉ちゃんはどうなるの?」


 と話題を振られます。確かに私はずっとおむすびしか食べてませんけれど、そもそも不老不死なので成長もありません。


「むしろ魔女がいい見本だよ。不摂生してるとこうなるよ、雪月」


 栗香さんが私を凝視していいます。なに? この美少女の肉体にどこか不備があるとでも? 彼女は一点を見つめてるように見えます。まさか胸?


「スリムな方がセクシーだと思いません?」


「とか言っておにぎりばっか食べてたんでしょ?」


 ず、図星です。ここに探偵がいたなんて。生前は食べやすいおむすびが私の友でした。


「いいもん! わたしはお姉ちゃんみたいになる!」


 雪月さんはいい子ですね~。お姉ちゃんは嬉しいですよ~。


「栄養不足は疲れやすくなったり、病気にもなりやすくなる。好きなの食べるなって言わないけどもう少し考えないと」


 何か私にも言われてるような気が。それに何だかお母さん身を感じます。栗香ママですか。


「おねえちゃぁぁん! 栗姉がいじめる!」


 私のそばに寄ってきます。頭なでなで~。


「ま、まぁまぁ。雪月さんは幼いですし少しくらい大目にみても……」


「魔女、昨日言ったよね? 少しでも生きる可能性を高める努力が必要って。だったら食事もその可能性に繋がるよね?」


 う。栗香さんから黒い笑みが……。これは反論できません。


「で、ですが食料も限りがありますし栄養まで考えて食べるのは少々難しいのでは?」


 なんて恐る恐る言ってみますが栗香ママには通用しませんでした。彼女はバックパックから缶詰やらを色々出します。そこには大量の魚の缶詰やら豆の缶詰やらが出されます。


「私はちゃんと考えて食べ物選んでたのに、あなた達はどうしてこんなのばっかり選んだの?」


 机に並べられる白米やら果物の缶詰やら。見事に炭水化物です、はい。


「大体こんなにカップうどん入れたの誰? お湯ないと作れないのに馬鹿なの?」


 それはそこの狐です。睨んでやったら何か視線外して机の下へ消えた。おい逃げるな。


 栗香ママは溜息を吐きました。


「仕方ないからこれからは私が食事を管理する。心配で仕方ない」


「それは困ります!」


 これには猛抗議しなければ。


「確かに栗香さんの作るおむすびは大変美味です。けれど私は雪月さんが作るおむすびも大好きなんです。雪月さんが作るおむすびが食べられなくなるのは死活問題です!」


「お姉ちゃん……!」


 雪月さんは私に抱き付いてきます。はいはい良い子ですね~。


「異議あり。魔女は今死活問題って言ったけど不老不死なんでしょ? つまり今までも雪月のおにぎりなしで生活してたはず。だったら何も問題ない」


 くっ、強い。この娘は将来探偵になる素質があるかもしれない。


「あの味を知って元の生活に戻れと言うんですか!? あれを食べなかったら私は禁断症状が出て暴れます!」


「昨日病気にもならないって言ってたじゃん」


 ぐぬぬ。昨日の発言が全部裏目に。


「これは恋なんです。私は雪月さんのおむすびに恋してるんです。恋は病気でもないのでノーカウントです!」


「お姉ちゃん、好き!」


 私も好きですよ~、なでなで~。


「はぁ。なんか頭痛くなってきた。分かった、もういいよ。私の負け」


 栗香ママが降参してくれました。これで雪月さんのおむすびが食べられる~。

 雪月さんと仲良くハイタッチ。


「でも栗香さんの言い分も分かりますのでここは折り合いをつけて、料理担当はローテーションにするというのはどうでしょうか」


「それなら、まぁ異議はないかな」


 反抗期の娘も納得してくれた所で丸く収まりました。


「でもカップ麺は別にいいよね。こんなの塩分も多いし体に毒だし」


「どうぞどうぞ、好きにしてください」


「なぬっ! 待つんじゃ!」


 狐が必死に抗議してるけど栗香さんには見えてない。論戦中に逃げたのだから肩を持つ義理もないね。そもそも持つ気もないけど。


 結局正体不明の怪異に怯えて栗香さんが折れる始末になってたけど。


 ※


 朝から色々ありましたが旅の再開です。タイヤ痕を追って道路を進んで行きます。

 何時間も歩き続けると街並みが段々と変わっていき、住宅と田畑が混在する田舎のような風景に変わってきます。


 けれどタイヤ痕は残ったまま。このまま道なりに進んでいきます。すると大きな川が見えてきました。幅は100m以上はありそうで、対岸へ行くための橋梁が見えます。

 見た所他に橋はないのでそこを通るしかなさそうです。


「ちょっと待った。なにかおかしい」


 双眼鏡を覗いてる栗香さんが言いました。


「何か見えましたか?」


「見た方が早いと思う」


 双眼鏡を受け取って見ます。遠目では分からなかったのですがどうにも橋の中央付近が派手にぶっ壊れて陥没してます。車はおろか人が渡れるかも怪しいですね。

 対岸の方も見ます。川岸には大量の緋人がたむろしていました。


 いや、なにあの数。うーん、ざっと見ただけで軽く20、30はいます。目が悪くなったのでしょうか。


「確かにおかしいですね」


「でしょ?」


 戦車を投入するほどですからあれだけの緋人がいれば納得です。橋が陥没しているのも緋人の侵入を阻止するためでしょう。見た所、川を泳いでくる様子はなさそうです。


「これは面倒ですね。雪月さん、ここ以外に橋はありますか?」


「北の方に行けばあるよ」


「行ってみましょう」


 それから半時間ほど歩いて別の橋梁を発見します。

 が、こちらも先程と同じように破壊されてありました。ある意味予想通りとも言えます。


「これでは向こう側へ行けませんね」


「泳いで渡る?」


「それは一番危険ですね」


 栗香さんは何故という感じで首を傾げてます。


「溺れちゃう!」


 雪月さんが答えてくれました。さすがは山育ちです。


「そう? 別に深そうに見えないけど」


「一見深そうに見えなくても見た目以上に水深があるかもしれませんし、何より水の力というのは想像以上に強いです。一度自由を奪われたら待つのは溺死でしょう」


 何もない状態でそれですから荷物を持っていれば無謀すぎる挑戦になります。おまけに対岸に渡れたとしてもそこを緋人に狙われるのも危険です。水気を吸った服というのは非常に重く動きが鈍ります。


「やっぱり自衛隊に助けてもらうべきじゃない?」


 何らかの策が必要なのは間違いありません。


 少し考えていると遠くから『ドドドドド』という音がこちらに近付いてきてるのが聞こえました。咄嗟に2人を連れて民家に身を隠します。様子を伺っていると迷彩色の戦車が公道を堂々と走ってきます。


 戦車はゆっくりと走りながら私達が隠れてる民家の前を通り過ぎていきました。緋人を警戒しているのでしょうか。


「魔女。せっかくのチャンスを棒に振ってどうするの?」


 栗香さんは少々先入観が強いのかもしれませんね。こういう時こそ前提を疑わないといけません。


 それに橋の崩壊と緋人の群れ。おかげで私の中の疑問が更に増えました。

 これはいよいよ面倒になるかもしれません。


「これから私はある仮説を話します。もし真実だった場合、2人に頼みがあります」


 おそらく、地獄の始まりでしょう。

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