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33.奮戦

 廊下で耳を澄ませる。さっきまで威勢のあった緋人の叫びが聞こえない。不気味なほどの静寂。


 緋人が3階に来るには、両端と中央にある3つの階段のどれかを上がる必要があります。

 現在私達がいるのは端よりの所で中央と奥の階段からは離れています。


 この近くの階段はもっとも警戒しなくてはなりません。不意の奇襲で一気に窮地に陥るでしょう。


 雪月さんは窓の鍵を外して1つ、また1つ開けています。そうか、形代の為に風が必要だった。

 私もならって近くの窓を開けます。暴雨とも言える雨が廊下に入って、全身を濡らしてくる。風も激しくカタカタと戸を揺らしてます。


「雪月さん、鞄をこちらに」


 彼女は言われたまま私に渡してくれます。それを廊下に置いて中にある薬を全てポケットに突っ込みました。今朝作っておいてよかった。


 あとは敵が来るのを待つだけ。


 じりじりと時間が過ぎる。


 1秒がやけに長く感じる。


「ぐおおっ!」


 すると中央階段の方から雄叫びが。


 幸いにも緋人は一体。馬鹿正直に突進してきます。


「ゆき……」


 私が指示するよりも早く彼女は形代を飛ばした。雨が入ってくるとはいえ室内。暴風の影響で彼女の形代もいつもより早く飛びます。


 形代は緋人の顔に何枚も張り付き、おまけに廊下は水浸し。

 走る緋人は盛大に転びました。


「廊下は走らない。いいですね?」


 転んだ緋人が立ち上がる前に薬を口にぶち込みます。するとダウン。

 まずは一体。このまま各個撃破できたらいいのですが。


 そう願ったら中央と奥から緋人が2体来てくれました。

 私の予想はいつも外れる。


 複数は面倒だ。薬を飲ませる時間はないかもしれない。


 なら。


「雪月さん、足を狙ってください」


「分かった!」


 手前の緋人の足に形代が絡まる。バランスを崩して今にも倒れそうだ。


 今!


 緋人にタックルかまして窓の方へ倒します。

 窓を突き破って顔を外へと出しました。


「ゴミはさっさとどこかへ行け」


 尻を蹴ってやったら見事に落ちて行きます。ドスンという鈍い音がしましたが恐らく生きてるでしょう。ただ時間稼ぎにもなる。


 奥の奴も同じように形代に絡まって滑って窓へと転びました。

 今の見てなかったのか? 本当馬鹿だな。


 こいつも外へと蹴り飛ばして落下させる。


 一時休戦。


 よし。こうなったらもっと来い。大量に来い。私の予想は外れるからね。


「「「があぁぁっ!!!」」」


 すると中央、奥、今度は後ろまで。

 こういう予想はよく当たる。


 とにかく近くの階段の奴を何とかしないと。


 雪月さんが狙われてる、急げ!


 何とか彼女の前に立ったけど緋人に左腕が噛まれた。いったい!


 ナイフで腹部を刺したら一瞬怯んだからそのまま腹を蹴ったら運よく開いた窓に仰け反ってそのまま落ちてくれた。さすが私。


 でも今ので左手に力が入らない。廊下の向こうからは緋人がわらわらと。

 倒しても倒してもキリがない。


「魔女よ」


「黙ってろ。今は忙しい」


 契約は絶対しない。私は善良な人間だ。


 緋人の数が多いのか、雪月さんの形代の効果も薄まってきてる。まずいな。


 すると急に後ろの扉が開いた。


「魔女、雪月! こっち!」


 栗香さんが出て来て叫んだ。


 考えるよりも早く動く。廊下の鞄を回収して情報室へと入った。


「あそこまで走って!」


 栗香さんが指さす方は非常口と書かれていて扉が開いたままだ。

 とにかく走る。


「お姉ちゃん。それ持つ」


 私の左手が使えないのを察して雪月さんが鞄を持ってくれます。助かります。

 放置してもよかったのですが蓬莱草が入ってるので無視できなかった。


 非常口を抜けると外に出て鉄の階段に行き当たります。上と下に行けますが栗香さんは上を選んだ。その先は屋上でした。


 轟轟と風と雨が吹き荒れ髪が乱れる。構ってる暇もなく、ただ栗香さんに付いて行く。


「屋上だと逃げ場がありませんよ」


「あそこに入って」


 彼女が指さした先に四角柱の青い袋が地上へと垂れていました。なるほど、非常用の脱出シューターですか。どうやら彼女はただ隠れていたのではなく、これを準備してくれていたようです。


 彼女は私が思っている以上に強かった。


「雪月さん行ってください」


「うん」


 彼女は迷いなく飛び込みます。私も行こうとしたのですが栗香さんは日本刀を抜いてました。後ろから緋人が迫っていたのです。


「ここは私が何とかする。魔女も行って」


 格好つけて言ってますが足が震えてるのがバレバレです。


「それ、貸してくれますか。こういうのは大人の役目です」


 左手は使えないけど右手は動く。


「私の命はどうなってもいい! だから早く!」


「ここで行ったらあなたを裏切ったことになる。私は桜姫とは違う」


 その言葉に一瞬怯んだみたいで日本刀を奪い取ります。それで彼女を押して脱出口へと入れました。


「「「ぐああぁぁぁっ!!!」」」


 いつもいつも何で化物にモテるんですかね。


 どうでもいいか。全部斬る。


 なんて無理に決まってますけど。


 私が馬鹿正直に戦うわけないじゃないですか。ではさようなら。


 でもお前達は来なくていい。これで袋を切る!


 青い袋に刃を入れたら見事に一刀両断という感じ。日本刀をこんな風に使って後で絶対栗香さんに怒られるな。しかも袋も千切れてきてバランスが悪くなってきてる。最高ですね。


 外に放り投げられないように何とか態勢を保ちつつ、何とか地面へと着地!

 足いった! 変に袋を切ったから重心が逃げてなかったかー。

 気にしても仕方ない。袋が頭に被さってきたので刀で切ってでます。


 外には雪月さんと栗香さんが待っててくれました。緋人はまだいない。

 お馬鹿なあいつらはきっと皆屋上へと行ったのでしょう。


「今の内に逃げましょう!」


 2人は黙って頷いて駆け出します。


 嵐の死闘を制したのはどうやら私達の方でしたね。

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