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30.地下

 私は薬を作り続ける機械になり果ててる。淡々と虚無感でひたすら薬を作ってる。

 保健室というおかげで容器にも困らず今では結構な量が完成した。


「ふわぁ。おはよー、お姉ちゃん」


 どうやら雪月さんが起きてきたようです。掛け時計を見たら朝の6時前でした。もうそんな時間でしたか。


 雪月さんはウトウトしていましたが、私の方を見て「あ」と呟き口を開けて放心します。

 そしてすぐに頭を下げてきました。何事でしょう。


「お姉ちゃん。あのあの、ごめんなさい!」


 状況が全く理解できずに困惑します。


「何かありました?」


「あの。えっと。実は、そのう、お姉ちゃんからもらった薬を失くしちゃって」


 ああ。その程度の話ですか。もっと壮大な事件を想像していたので呆気ないです。

 薬を渡してからドタバタの連続でしたし、その途中で落としてしまったのでしょう。

 こういう抜けてる時があるのが雪月さんの良い所です。年相応だって思いますからね。


「それくらいなら構いませんよ。丁度沢山作ったのでどうぞ」


 薬を1つ取って渡します。彼女はおどおどした様子で受け取ります。

 真面目な彼女だから責任を感じてるのでしょうね。


「薬はいくらでも作れますけど、雪月さんの代わりはいません。これくらい気に病む必要ありませんよ」


「おねえちゃぁぁん!」


 そう言って抱き付いてくる始末。よしよし、朝から至福の時間をありがとう。

 今日も一日頑張れそうです。


「おはよー。朝食持って……何してるの?」


 保健室に入ってきた栗香さんに怪訝な目で睨まれます。

 なんでいつも間が悪いタイミングばっかり重なるんですかね。


「やっぱり影ではそういうことしてたんだ」


「誤解ですが」


「死ね」


 さすがに死ね発言は酷くないですか。彼女はトレーを置いたらピシャリとドアを閉めて出て行きました。やはり年頃の子は難しいです。


 朝食の缶詰を頂いて教室へと向かいました。桜姫さんも起きていて相変わらずパソコンを開いています。栗香さんは窓に座るようにして不機嫌そうな顔をしてます。


「おはようございます」


「おはよう。魔女さん、雪」


 桜姫さんが笑顔を見せてくれましたが栗香さんは腕を組んだまま睨むだけです。好感度が上がったと思ったら落ちる。彼女は一筋縄ではいきませんね。


「今日は研究錬へ行くんでしたね。もう行きますか?」


「準備は大丈夫です?」


「問題ありません。常に万全です」


「それは頼もしいですね」


 無駄な時間を使いたくないのでさっさと目的を果たしましょう。桜姫さんはパソコン閉じて立ち上がりましたが後ろの不良女子は動きません。


「姫。本当に行くの?」


「そういう約束だったでしょ。昨日そう話したよ?」


「私は反対した」


 栗香さんは未だに不服なようで反発しています。


「なら栗香さんは残ってくれて構いませんよ。場所さえ案内して頂ければ私と雪月さんだけで調査します」


「そうもいかないんです。中は自動ロックもかかってパスワードやカードキーが必要なんです」


 面倒なセキュリティのおまけ付きですか。それならば桜姫さんも一緒じゃないと難しいでしょうね。


「姫、やっぱりやめよう。あんな所調べても意味はないと思う」


「こんな機会は二度とないし調査するなら今しかないと思う。栗香も分かってるでしょ?」


 栗香さんは言葉を詰まらせてます。彼女自身緋人と戦いたくないと言う気持ちもあるでしょうが、一番は桜姫さんを危険な所へ行かせたくないのでしょう。


「桜姫さんは私が守ります。あなたはここで大人しく待っていたらどうですか?」


「くっ。魔女なんかに任せられない! 私も行く!」


 存外に煽りに弱いようで。彼女は我先へと教室を出て行きました。


「すみません。昔から人付き合いが苦手な子でしたから」


 そしてなぜか謝る桜姫さん。彼女の親ですか。


 なにはともあれ私達も出発です。研究錬は校舎の裏側に位置する外にあるそうです。

 なのでそこを目指して校舎裏の出口まで歩いていきます。


 廊下を歩く。


 渡り廊下を抜ける。


 なぜか階段を上ってまた廊下を歩く。


 渡り廊下を歩く。


 階段を下りてまた廊下を歩く。


 いや長い! この学園一体どれだけ広いの!?

 昨日雪月さん学園を案内してもらったって言うけどまさかこれ全部回ったのでしょうか。


「そこの階段を下りたらもうすぐです」


 開始から20分近くはかかった気がしますがさすがに本校の生徒は慣れたものですね。

 ガラス扉を押して外に出たら広々とした駐車場があります。その奥に平たい白色施設が見えました。


「あそこが研究錬です」


 そのまま近くまで来ましたがガラスドアが開く気配があります。押しても引いても横にも動きません。


「入るにはカードキーが必要なんです」


 桜姫さんが制服のポケットから四角い手形みたいのを出すとそれを扉前の機械に照合させてます。ピ、という電子音と共に扉が開きました。何重にもなってたらしくどんどん開いていきます。こういうのを見るたびに自分が古代人だなって思い知らされます。


「入りましょう」


 中に入ると後ろのドアが勝手に閉まります。もう戻れないぞ、と言われたみたいで少し不気味ですね。


 中は薄暗いですが見えないほどではありませんでした。広々とした空間でソファなどが点在しています。ロビー、でしょうか。奥へ進む狭い廊下がいくつもあるのが見受けられます。


「向こうが地下へ続く道です」


 桜姫さんが大通りの廊下の先を指さします。先頭を栗香さんが歩いて、その次を私、その後ろを雪月さん、最後尾を桜姫さんと続きます。

 廊下の奥は螺旋階段となっていまして、地下へと行けるようです。


 コツコツと靴の音が響くのが妙に耳障りです。まるで敵に居場所を教えてるみたいで。

 長い螺旋階段を下りるとその先に大きな鉄の扉がありました。試しに押してみますが案の定ビクともしません。金庫か何かと見間違うほど厳重な作りです。


「パスがないと入れないんです。今ロックを解除します」


 桜姫さんは扉近くにあるボタンを叩いていきます。すると電子音と共に赤く光っていたランプが緑に変わって、カチッと音がしました。桜姫さんがこっちを見て頷くのでもう一度押してみます。あんなに重かったのに今度は羽のように軽い。見事な設計ですね。


 更に中へと入ります。そこは実験室のようでビーカーやフラスコ、試験管や見知らぬ機器が沢山置いてありました。棚には見知らぬ薬品がいくつも置いてあって独特の異臭が漂っています。


 作業台には実験途中だろう物が乱雑しており、そこに放置されたノートに目が入ります。

 当たり前ですがそのどれもは緋水とは関係がない内容です。


「姫。もうよくない? ここには何もないよ」


 栗香さんがスマホと呼ばれる機械を光らせて机や棚を調べてます。確かに見た所何の変哲もない実験室です。


「あっち、道がある」


 雪月さんが指を差した方角には扉がありました。私はそこへ歩いてドアノブを回します。どうやらここは鍵がかかってないようです。


 ドアの奥はこれまた狭い廊下で人が1人辛うじて通れるくらいの狭さです。廊下の奥にはいくつも扉があって、扉前に見知らぬ名前が書かれてあったので恐らくここを利用してる研究者の名前でしょう。


 そのまま廊下を歩いて行くとまたしても階段です。まだ地下へと続くのですか。

 ここまで来たのですから最後まで調査していこうと思います。


 階段に足を一歩踏み込みました。


 コツーン


 やはり靴の音が響きます。しかもさっきよりも反響してるような。

 もう一歩踏み込みます。


 コツンコツーン


 今度は更に反響しました。いやおかしい。私は一歩しか進んでないのに。

 後ろを見たら雪月さんは廊下の方で立ったままです。


 コツーン


 コツーン


 ああ違う。多分これ下から来てるんだ。複数の反響音、かなり数が多いぞ。やばいな。

 私は雪月さんに目配せします。状況を察した彼女は急いで回れ右をしました。


 さて、私はどうする? 動くしかないよね。でも階段踏んだら絶対音鳴るじゃん。


 コツーンコツーンコツーン


 ああもう、知らん! 考えても仕方ない。とにかく走るしかない!


 振り返って全力で走った。同時にガタンという音が反響して、その音は階下まで響き渡ったようで。


「「「があぁぁぁぁぁっ!!!」」」


 どうやらここは動物園だったようですね。


 後ろから階段を駆け上がってくる緋人の群れの音。急いで廊下を抜けて実験室に戻ります。

 扉を閉めて適当に椅子やら机やらで簡単に開かないようにしますがきっと無駄でしょう。


「なっ、なにごと!?」


 栗香さんが驚いた顔をしてます。


「化物、沢山、逃げる!」


 雪月さんが言葉を聞いて2人も慌てて元来た道を戻っていきます。私も急いで帰りましょう。全力ダッシュしたと同時に後ろで扉がぶっ壊される音がします。

 本当に何の役にも立ってないじゃないですかー。これなら封鎖なんかせず逃げた方がマシでした。


 すでに他の皆さんは鉄の大扉の前にいます。あれさえ閉じればこいつらも出られまい。


「魔女さん急いで!」


 桜姫さんに急かされます。いや、分かってるんですよ。すっごい遅く見えるかもしれませんがこれで全力なんです、はい。


 後ろをチラッと見たら緋人の群れが私の背後をワラワラと。私って本当モテるな。

 でもこのままじゃ捕まる。どうしよう。


 すると真後ろにいた緋人が急にダウンしました。どうやら栗香さんの矢が緋人の足を狙撃したようです。本人は震えてますが、その勇気に盛大の感謝を。


 あとは鉄の扉を閉めるだけ。


 閉めるだけ。


 閉め……。


 なにこれ、おもっ! 開ける時あんなに軽かったのに!


 まずい、緋人が迫ってる。これ間に合わない。


「急いで上って!」


 全員を急かして階段を駆け上がらせます。


「これでもくらっとけ!」


 薬を思い切りぶん投げた。

 緋人の顔面に直撃して液体が飛散する。


 少し飲み込んだらしくそいつは床に転げ回った。

 おかげで隊列が乱れる。


 よし、今なら!


 階段を駆け上る。でももう後ろから別の連中が来てます。

 はやすぎでしょう。


「魔女、これを使え!」


 上から栗香さんが日本刀を落としてきます。すかさず鞘をキャッチして抜き取ります。


 すぐに一閃!


 緋人の首が飛んだ。本当これすごいな。緋人の首が飛んだおかげでそいつが後ろに倒れてドミノ倒しになる。


 その隙に私も上る。


「魔女、急げ!」


 栗香さんの怒号がします。本当に急いでるんだってば。

 それに日本刀って結構重いのよ。おばあちゃんにこれはキツイって。


「「「ぐおぉぉぉっ!」」」


 もう立て直したんかい。勘弁してよ。


 ふぅ、何とか螺旋階段は上りきった。


 皆はもう外で待機してます。急ごう。


 なんだけど直線的な走りって明らかに私不利だよね。


 実際もう後ろまで来てる。


 でも緋人は倒れた。それに形代がたくさん。

 そうか、外からなら風が来るから形代が使えるんだ。

 さすが我が相棒。あとで一杯撫でる!


 今だ!


 外に出たら桜姫さんがボタンを連打して扉が閉まっていきます。

 直後に緋人もやってきてガラスを叩いてましたがビクともしてません。すごい防弾性能だ。


「一旦、学園に戻りましょう」


 私の一言に皆が賛成をしました。

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