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29.緋色学会

「では約束通り緋色学会についてお聞きします」


「はい。何でも聞いてください」


 教室に戻り桜姫さんと栗香さんが信用できると分かったので情報を聞くことにします。


「では緋色学会の本社はどこにあるのでしょうか」


「東京都新宿区ですね。とても大きな建物なのですぐに分かると思います」


「東京ドームかよってくらい大きいよね。今思えばそれだけ悪事を働くのを隠したかったんだろうけど」


 やはり東京ですか。全ての糸がそこへ引っ張られてるようで何だか不気味です。


「ただ国がパニックになった時、東京で大規模なデモ騒動があったんです。世間では緋色学会に熱烈な批判の声があがりました」


 それもそうでしょうね。どんなに隠蔽を図っていたとしてもそれに近しい人物は記憶があるのですから。事実、栗香さんも両親の記憶を奪われるという現実を目の当たりのしたのですからそうした人が声をあげるのは自然です。


「その後ほどなくして緋色学会は解体、閉鎖されました。今では誰もおらず、現地民に好きに使われてるそうです」


 桜姫さんはパソコンをカタカタと動かしながら教えてくれます。そこまでの情報も手に入るのですか。


「政府の方はどうなりましたか?」


「当時首相だった富士総理大臣にも批判が集中しました。彼が緋色学会を発足したので当然ですね。騒動後、富士は首相を辞任しそれからの行方は分からなくなっています」


 桜姫さんがパソコンをこちらに向けてくれて、モニターには灰髪をオールバックにした髭面の男の顔が映っていました。厳格な雰囲気があり、如何にもって感じですけど。


「陛下の方はどうでしょう」


「天皇様、ですか? うーん。元々天皇様は表に姿を見せることもありませんから情報も少ないんですよね。実際これらの騒動に対して声明をあげていませんし、噂では緋水が原因で亡くなったなんて声もあります」


 そのことに若干違和感があります。陛下はあの時私の家に来ました。死んではいないのは確かですが、私としては彼も緋色学会と繋がっていたと思っています。

 実際、今の桜姫さんの情報からしてもあの時の陛下の言葉の殆どが虚実まみれで真実は緋水を飲んだら化物になるという小学生でも分かる情報だけです。


 どうして私に嘘の情報を言いに来たのか。あんな身分の人が戯れで遊びに来るはずもありませんし、私に真実を知られるとまずいと思った? 或いは偽の情報を流して足止めが目的か。


 仮にそうだったとしてもその情報を言いに会いに来るでしょうか。それならまだ何も知らないという段階の方が足踏みしそうな気もします。彼らは緋色学会と敵対している?

 陛下は最後に日本を取り戻すとも言っていた。それと関係があるのでしょうか。


 何も分かりませんね。この件は保留にしておきましょう。

 それに緋色学会が現在閉鎖しているとはいえ、それで連中が大人しくしているとは思えません。やはり別の研究所があると考えるべきでしょうか。


「緋色学会は東京以外に施設があるでしょうか。それか五竜の所在でも構いません」


 尋ねると桜姫さんが指でバッテンを作りました。


「ここから先は別料金です」


 なんと商売上手。彼女は組織運営に向いてそうですね。


「……分かりました。雑用でも何でもやりますよ」


「魔女さんは聞き分けがよくて助かります♪」


 彼女の持つ情報は有益なので暫くここで厄介させてもらいましょう。幸い施設も充実してますし、食料もあります。雪月さんに不便もないですから羽休めには丁度いいです。


「じゃあ時間もいいし、ご飯にでもしない? 料理作ってくるよ」


「わたしも手伝う!」


 栗香さんが袋を片手に雪月さんと教室を出て行きました。


 それからほどなくして、2人が戻ってくると何やら良い匂いがします。大きなトレーには何とカレーが乗っているではないですか。私の予想では缶詰とかそういう非常食を想定していたのに何が起こったんですか。


 栗香さんが机にカレーを置いてくれます。ルーもしっかりしていて、ご飯のつやもいい。でもよく見たらカレーの具材は豆だったり、干し肉みたいのだったりでしっかりと缶詰のようです。


「貴重な水を使っていいんですか」


 カレーを作るにも米を炊くにも多くの水が必要です。それをたかだか一食の為に使うのは些か軽率にも見えますが。


「缶詰の汁も使ってるから実際はそんなに水は使ってないよ。ご飯に関しては温めるだけで食べれる奴だし」


 何ですと。ご飯なんてすぐに傷むのに今はそんな手軽に食べれる物があるんですか。

 つまり毎日おむすび生活だって可能。なんと羨ましい。


 それで全員で手を合わせて仲良く食事となりました。

 では早速一口。ふむ、悪くない味です。カレーなんて滅多に食べたことありませんでしたが、存外にいけますね。私としてはご飯とルーは別々にしてくれた方が嬉しかったですが贅沢ですね。


「魔女よ、吾輩も食べたいぞ」


 貪食の妖怪がやってきた。目を輝かせて今にも食いつきそうな勢い。栗香さんも桜姫さんもこいつが見えないから当然こいつの分はない。私としてもこんな奴に飯を恵む義理はないのですが、ここで私が拒めばこいつは絶対雪月さんの所へ行きます。優しい彼女ならこいつにご飯を与えるでしょう。成長期の彼女にそんなひもじい思いはさせられません。

 背に腹は代えられませんがここは我慢します。


「一口だけです」


「うむ!」


 ご飯は上げたくないからルーの部分をスプーンですくってこいつにやる。パクッと一口で食べてしまった。そしてもう1一口とねだる始末。はぁ、めんどくさ。


 それからはわりと静かな食事が続きます。ある程度打ち解けたとはいえまだ会って日も浅い。それに私は時代錯誤のおばあちゃんですから今の若い子の話題も知りません。

 うーむ、中々気まずい。


「あ。そういえば魔女にあの時のお礼言ってないよね。その、助けてくれてありがとう」


 栗香さんが思い出したように頭を下げてくれます。半分くらいは打算でしたが感謝されるのは悪い気がしません。そんな彼女を見て桜姫さんが目を細めます。


「栗香、魔女さんと何かあった?」


「え? 何もないよ」


「だって帰ってから態度違うもん。行く時はあんなに怒ってたのに」


 これは倉庫で押し倒して重なり合ってたなんて言ったらとんでもない誤解を招くでしょうね。栗香さんは首を横に振って弁明してますが、桜姫さんは納得していない様子です。


「お2人は知り合って長いんですか?」


 何となく聞いてみます。


「長いですね。この学園は小中高って一貫なんですけど、栗香とは入学してからずっと一緒です」


 つまり10年以上の付き合いですか。聞いたか、狐? 腐れ縁っていうのはこういうのを指すんですよ。欠伸してるし聞いてないな。


「魔女さんは雪月さんと出会って長いです?」


「まだ会って1週間にも満たないですね」


「嘘! すごく仲良いから長いと思ってました」


 なぜか雪月さんが誇らしげにしています。


「魔女のお姉ちゃんはとっても良い人!」


「魔女。この子に変な薬飲ませてないよね?」


 栗香さんに睨まれます。だからそんな趣味はないって何度言えばいいんですか。

 どうにも私は誰からも怪しまれやすいようです。ここは素直に話題を変えましょう。


「桜姫さん。次のお仕事は何をする予定ですか?」


「まだ考えてる途中なんですよね。魔女さんも雪もビジュがいいから配信手伝ってもらうのもありかなーって思うし、地下室を調べてもらうのありだし」


「姫。さすがに地下はダメでしょ」


 色々考えてくれてるみたいでこれは情報提供してもらうのも骨が折れそうです。


「この学園には地下室があるんですか?」


「はい。この校舎とは別に先生がよく使う研究錬があるんですけど、そこに地下室もあるんです。研究錬自体は何度か調査したんですけど地下にはまだ行ってないんです」


 そんな施設もあるなんて最近の学校はとんでもないですね。


「別に行かなくてもよくない? あんな所に食べ物があるわけでもないし、必要なものなんてないよね」


「私もそう思ったんだけどこの前研究錬に行ったら地下の方から物音がしたんですよ。もしかしたら生き残りがいるかもしれません」


「いやいや! それ絶対あの化物でしょ!」


 そんな所で人が生活できるとは思えませんし十中八九そうなのでしょう。


「そうかもしれない。でも栗香から聞きましたけど魔女さんは随分お強いようですね」


 お手洗いに行ってる間に話したのでしょうか。


「もし魔女さんが調査をしてくれたら助かるのです」


「私は反対。もし化物が脱走して姫に危害が出たら嫌だ」


 栗香さんが断固拒否の姿勢を見せてます。彼女の本音としては桜姫さんの前で緋人と戦いたくないという気持ちもあるでしょう。きっと前から2人の間で調べる気はあったのでしょうが栗香さんの心情を考えればそれも難しかったのでしょう。


「私は構いませんよ。それに優秀な助手もいるので問題はないかと」


 雪月さんがコクリと頷きます。それには2人も意外そうな顔をしました。まさか彼女が戦えるとは思ってもなかったのでしょう。幼女は強いんですよ。


「ならお願いしようかな。明日、研究錬の調査をお願いします」


「分かりました」


 栗香さんは心底嫌そうな顔をしてましたけど、どちらにせよ調査は必須でしょう。万が一緋人がいたなら、ここで生活する彼女達も安全とはいえなくなります。被害が出ていない内に対策は必要でしょう。


 そうこうして食事も終わり、時間も遅くなってきました。

 私と雪月さんは栗香さんに案内されて保健室に来ます。誰もおらず白いベッドがいくつも並んでいます。


「ここなら寝るのも不自由はないと思う」


「こんな好待遇していいんですか? 脱走するかもしれませんよ」


「夜の校舎は足音が響くんだよ。無理無理」


「盗みを働くかもしれません」


「大事なものは部屋に置いてる。姫も管理にうるさいから」


 これでは当初と真逆ですね。私が馬鹿に見えてきました。


「なら好意に感謝します」


「いいえ。お休みなさい」


 栗香さんが扉を閉めて出て行きました。鍵をかけた様子もなく本気で信頼してるようです。

 彼女も彼女で不用心な気もしますね。


「雪月さんは先に休んでくれて結構です。私は少しすることがあるので」


 保健室にあった机を借りて鞄から蓬莱草を取り出します。連戦続きでいい加減薬を作らないと貯蓄がなくなりそうです。おまけに明日も緋人と出会う可能性を考慮すれば徹夜しなければ間に合いません。


 すると雪月さんは私の向かい側に座りました。


「わたしも形代作る」


「良い子は早く寝ないと体に悪いですよ」


「なら悪い子になる。お姉ちゃんとお話したい」


 聞き分け悪いですね。仕方ありません。彼女の好きにさせましょう。


 それから雪月さんと他愛のない話をしながら時間を過ごしました。彼女は段々と睡魔に抗えなくなってきたのに寝落ちしてしまいます。こうなるとは思っていましたけど。

 抱きかかえてベッドに移動させて布団をかぶせてあげます。お休み、良い夢を。


「こんな所で道草をくってよいのか、魔女よ?」


 お前とは雑談する気はないんだけど。


「桜姫さんの持つ情報は有益だよ。闇雲に探すよりは効率がいい」


「あやつの言う情報が真である保証もあるまい。吾輩にはどうも解せん」


 お前はいっつも人を疑ってるじゃないか。


「どうせこのまま東京に行っても向こうで情報集めないといけない。それなら少しでも知った状態で行った方がお得だと思う」


「今更廃れた都に行った所で成果が出るとは思えんがな。精々君が死ぬリスクが増えるくらいじゃ」


「なに? だったらお前は行く当てがあるの?」


 どうせ答えられないだろうと思ったけどこいつは口を開いた。


「長野。あそこに我が古い友がいる。あいつなら何か情報を知っているだろう」


 なんだ? こいつは急に何を言い出してるんだ?


「古い友ってどうせ妖怪でしょ?」


「うむ」


「妖怪が人間様に手を貸す可能性は?」


「極めて低い」


 駄目じゃん。やっぱり妖怪の言うのは当てにならない。


 言うだけ言ってこいつは椅子の上で丸くなる。結局何がしたかったんだろう。

 今はどうでもいいか。妖怪の話を鵜呑みにしていたらキリがない。

 今は薬制作に集中しよう。

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