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27.恐怖

 私と栗香さんは街にある食料庫を目指して歩いています。相変わらず私が先頭で彼女は後ろです。時々振り返ると物凄い形相で睨んできます。

 よほど桜姫さんに飲ませた薬が気に入らなかった様子。人の信頼を上げるのは難しく、落とすのは簡単と言いますが地の底まで落ちたようです。いやー恐ろしい。


「このまま君の首でも斬らせた方があの娘もスッキリするのではないか?」


「お前、私の体を子供の玩具か何かと思ってる?」


 確かに死にはしないが痛いのは嫌だ。あの日本刀なら首をスパッと斬れて痛みもないかもしれないけど、生首やるほど私の命は安くはない。


「あの様子じゃと化物と出会っても助けてくれないじゃろうな」


「だろうね。私って可哀想だと思わない?」


 皆を思って善意で行動してるのにこの仕打ちですよ。


「せやから吾輩がやなぁ」


「はいはい。いつもの勧誘ね。うちは無宗教です」


 一番隙を見せてはいけないのはこいつで間違いない。


「さっきから何をぶつぶつ言ってる?」


 後ろから栗香さんの声がします。そういえばこの人にはお狐様が見えないんだった。


「普通の人に見えないものが色々見えるんですよ。私、魔女なんで」


 そしたら侮蔑の形相から哀れみの眼差しへと進化しました。このまま信頼度を地獄の底へと落としてやりましょう。


 それから気まずい空気のまま会話もなく、時々彼女が指示を出すだけという普通の人ならば即座に逃げ出したくなるような雰囲気になりました。私は他者の評価なんてどうでもいいので気にもしません。


 1時間ほど歩いたのでしょうか。工業地帯のような所に来てあちこち大きな建物が並びます。彼女は無断で堂々と工場の中の敷地へと入っていきました。

 敷地内には建物がいくつもあったのですが、彼女は奥にあるシャッターが開きっぱなしの所へと足を運びました。


 その建物の中には棚がいくつも一列に陳列してあり、棚の上のは段ボール箱が無尽蔵に積み上げられてます。


 栗香さんは隠れながら中を覗き込んでいます。


「1……2……。珍しく今日はいる。やっぱり私1人で来るべきだった」


 私を疫病神と言いたげな顔をして睨んできます。それは私ではなくそこの狐です。


 とはいえ緋人がいるのは面倒ですね。見た所、棚と棚の間の通路はすごく長くそんな中で緋人に見つかろうものなら、お察しの展開です。


「今日は帰りますか?」


 私としても無駄なリスクは背負いたくないものです。特に栗香さんに何かあれば桜姫さんに何を言われるか分かったものでもありません。


「いや、行く。このまま手ぶらで帰るなんて嫌」


 そう言って中に入っていきました。反抗期の娘を持つと苦労します。


 後を追って私も中へ入ります。栗香さんは常に周囲を注視して緋人を警戒しています。

 どうやら私と緋人を天秤にかけたら、さすがに緋人の方が脅威に感じてるようですね。

 それで緋人の動きを観察しながらどの通路へ行くか思案してるようです。


 こういうのは悩んでも仕方ないと思いますけどね。パパッと動いてすぐ帰った方がまだマシに思えます。長居すればそれだけ見つかるリスクも増えるのですから。


 私の思考を読んだみたいで彼女はすぐに手前から3つ目の通路へと小走りで入っていきます。私も続きます。


 棚にある段ボール箱を眺めるとどれもが食べ物系のだと分かるような名前ばかりでした。とはいえどれも未開封な上にラップまでしてあるものもありますから開封するのはリスクがありそうです。


 そうは言ってもどれかは開けなくてはならないので早く選んで欲しいものですが。栗香さんは通路の奥へ奥へ進んでいって一向に決めません。それで通路の真ん中あたりに来ると足を止めてポケットから袋を取り出します。目の前には開封積みの箱が置いてあって、中には缶詰やらが沢山入ってます。


 どうやら定期的にここで仕入れていたんですね。でもそれなら入口近くの方にすればよかったのでは? だってこんな所で呑気にしてたら……。


「ぐおぉぉぉっ!」


 言わずもがな見つかりました。通路の端から緋人が血眼になって追いかけてきます。

 見つかった以上は戦うしかないでしょう。鞄は雪月さんに預けてあるので薬は1つしかないですが、何とかなると願いましょう。


 食べ物を詰め終わった栗香さんでしたがすぐに私の手を引っ張ります。


「こっち!」


 彼女は向かいの棚の下へ潜り込んで行きました。段ボール箱を置いてあって気づきませんでしたが棚の奥へ行けば反対の通路へと行けるようです。彼女にならって棚を潜って抜けました。


 後ろで緋人が棚をガタガタ揺らしてますが荷物が多いのでさすがのこいつでも動かすのは無理なようです。それにまだ安心はできません。


「離れて!」


 悪い予感は当たるんです。というか緋人が叫んだから当然他の奴も釣られるのが道理ですね。せっかく反対側へ来たのに別の緋人が走ってきました。


 彼女は日本刀を抜き取って構えます。綺麗な所作から武道の心得があるのでしょう。

 これは安心できそうです。


「落ち着け、私。落ち着け。私はできる。私はやれる」


 自己暗示のようにぶつぶつ言ってます。それに手も小刻みに震えてるような。

 これは安心できない。


 私が前に出てサバイバルナイフを取り出します。


 特攻してやりましたがリーチの差かな。

 案の定緋人に腕を掴まれて捕まりました。


 でもそれでいい。足止めできたらお前はただの銅像だ。

 でも栗香さんは震えたまま動きません。


「さっさとやれ馬鹿! 足を斬るんだよ!」


 喝を入れたらようやく動いてくれました。それで目を瞑って日本刀を振ってきます。


 うっわ、危ない。でも何とか緋人の左足を切り裂いて肉が崩れました。

 切れ味すごいな。さすが。


 バランスを崩した緋人はその場に倒れたので、その隙を見て薬を投げた。

 痛みに悶えていたおかげで見事口の中へと入りました。そうすれば私の勝ち。

 本物の銅像の完成。


 今度こそ安心。ではなかった。ずっと棚を揺らしてた緋人がついに棚を押し倒してきたようです。しかも棚の前には栗香さんが。


 逃げてくれたらよかったのですが彼女は走馬灯を眺めてるように動きません。

 だったら私が動くしかないじゃん!


 彼女を押し倒してその上に覆いかぶさります。


 同時に、全身に痛みが。


 頭も痛い。腕も痛い。あちこち痛い。


 でもあの重そうな箱は当たらなくてよかった。棚が傾いた時に全部落ちたみたいで散らばってる。


 栗香さんは驚いた様子で私を見てたけど、そんな趣味はないと後で弁明します。


 そんな時、栗香さんがすーっと棚の外へと消えていきます。


 やばい、不味い。


 どうやら緋人に足を掴まれたようで引きずり出されてしまったようです。

 そのまま戦闘続行してくれたらよかったのですが、無理ですか。


「うっ、あ……」


 栗香さんの呻き声と日本刀が床に落ちる音がしました。


 これ、本気で不味い奴だ。


 隣では悪霊狐が私の方をジッと見てる。そんなの見えない。


 動け、私の体。


 今動かなくていつ動くんだよ!


 這いつくばって何とか棚から脱出しましたが、緋人に首を掴まれて栗香さんの顔色が今にも死にそうです。


 すぐに日本刀を取って振った。


 まるで真空を切ったみたいだった。そこには何もなかったよう。


 でも空中には緋人の腕が飛んでる。これが日本刀か。


 地面に落ちた栗香さんは何度もせき込んでます。どうやら息があったようで一先ず安心。


「おおぉぉぉぉっ!」


 緋人が怒り狂ってますが怒りたいのはこっちです。


「うっさい黙れ! お前は寝てろ!」


 そのまま足も斬ってやりました。


 次に首。


 最後に胴体。


 おかげで緋人の体はバラバラになりました。いくら不死とはいえこれなら再生に時間がかかるはず。


 日本刀を鞘に戻して栗香さんの肩を支えて起こします。食料の袋はどこいった?

 と思ったら狐様が尻尾で持っていた。そういうのでいいんです。


「すぐに離れます。歩けますか?」


「だい、じょぶ。けほけほ」


 顔色が悪そうでしたがここで休んでる暇はありません。急いで倉庫を後にしました。

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