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25.学園

 さて、状況は極めて困難。校舎の2階から女子生徒に狙撃されそうという状況。

 敵意があるのは明らかで、ここで敵対しても私にメリットはない。問題を起こした結果がどうなるかは以前に経験しています。ならば彼女の言う通り引き返すのが無難。


 ただ前回と異なるのは相手と意思疎通が図れるという点。わざわざ威嚇してくるくらいだから、相手としてもこちらを下手に刺激したくないのかもしれない。どうしたものか。


 私としては少しでも情報が欲しいし、生きてる人がいるならば生の情報が手に入る。

 けどあんな敵意むき出しの所に雪月さんを連れて行くのは気が引ける。

 やはりここは大人しく……。


 すると雪月さんが私の服をぎゅっと握ります。


「わたしはお姉ちゃんに従うよ」


「また危険が付き纏うかもしれませんよ?」


「それはどこに行っても同じ、でしょ?」


 雪月さんが私から離れて前に出ます。少しの間で何と頼もしい背中になったのでしょうか。子供の成長とは早くておばあちゃん感涙です。

 彼女がそう言ってくれるなら私も腹を括るとしましょう。


「私達はただの避難民です。化物から逃れて偶然ここに来ただけです」


 相手が武装してるからといって下手に出るのは危険です。自身の優位性を理解して更に強気になる可能性があるからです。だから平然に振る舞うのが正解。


「嘘だ! お前達はそうやって人の心を付け入って騙す! 今回もそうなんでしょ!?」


 不正解だったようです。彼女も相当ご乱心なようでまた矢を構えてきます。


「今度は外さない。警告はしたよ?」


 どうやら本気なようで今にも矢を放ちそうな勢いです。少々危ない賭けですが、ここは1つ試してみましょうか。


「こんな幼い子もいるのに? そう思うなら彼女を撃ち抜けばいい」


 私は敢えて雪月さんの背中を押して女子生徒が狙いやすい位置に立たせます。

 この女子生徒がどれほどの腕前かは知りませんが、果たして人を殺せるでしょうか。

 姿が変わった緋人ならともかく、無抵抗な一般人、しかも子供となれば誰だって抵抗があるはずです。心が腐ってる軍人様ならともかく、一介の女子生徒にそんな精神があるとは思えません。


 事実、彼女は弦を引っ張った状態で狙いを定めてますが一向に矢を放ちません。

 それで何やら後ろに振り返っていました。


「本気? ……分かった。姫が言うなら」


 誰かと話してるような素振りです。彼女は弓を下ろしました。


「今からそこへ行く。絶対、そこを動かないで」


 絶対と強調されて信用の欠片もないようで。どれほど疑い深い人なのやら。

 気持ちは分かりますが。


 暫くすると茶髪ボブの女子生徒が姿を見せました。警戒しているのか、弓を持ったまま距離を保っています。


「そのままこっちに来る。不審な素振りを見せたら撃つ」


 弓を構えます。私も雪月さんも争うつもりは毛頭ないので心配無用です。そこにいる狐は違うかもしれませんが、この様子ですと見えてないでしょう。


 近くに行くと女子生徒は私達から少し離れます。よほど警戒しているようです。

 それに腰に下げてる長い得物はまさか日本刀じゃないですよね。この学園、軍隊でも作り上げてるのでしょうか。だとしても女の子を徴収させるとは、時代ですかね。


「お前達が先に歩く」


「場所も分からないのに?」


「私が先を歩いたら背中を斬られるでしょ。場所は後ろから指示を出す」


 どこまでも徹底しているようで感心します。おかげで悪い事は何もしてないのにまるで罪人のような扱いです。


 でも、彼女どこかで見た覚えがあるんですよね。どこだったでしょうか。うーん、記憶には自信があったつもりですが思い出せません。その程度の人物だったのでしょうけど。


 それから言われた通りにして校内を歩いていきます。連行されてるとはいえ、今の学校を見るのはやはり新鮮です。まず廊下。私の時代は木の板でできた床で至る所に穴が空いてました。おまけに雨漏りも酷かったです。


 でも今のはどうでしょうか。なんですか、このピカピカした廊下は。白いタイルで歩くだけでコツコツと音が鳴るではありませんか。チラッと教室が見えたので覗いたのですが何か机がテーブルみたいに広いじゃないですか。物一杯置けそうで快適そう。


 いかんいかん、こんなことを万が一口に出そうものならまたまた雪月さんにおばあちゃん呼ばわりされてしまう。とはいえ、彼女も学校が珍しいみたいで興味津々のようです。


 階段を上がって2階に行って、廊下を歩いてると後ろから声がします。


「止まって。そこの教室がそう」


 どうやら懲罰房に到着したようです。それで女子生徒が歩いて来てこっちを睨みつけながら教室を開けます。あなた、軍人に向いてそうですね。


 彼女の後に続いて教室へと入ります。すると窓際の方に桃色髪の女子生徒が何やら電子機器らしき物をカタカタと叩いています。私の知らない文明機器のようです。

 彼女はこちらに気付いて顔をあげると驚いたようで椅子から立ち上がりました。


「あなた、魔女さん!?」


 と言われましたが私の記憶ではこんなデコった女子は知らんぞ。日本人らしからぬピンク髪なら会えば間違いなく記憶に残るだろうし。いや待て。そういえばこの声聞いた覚えある。


「もしや惚れ薬を買いに来た生徒さんですか?」


「覚えててくれたんですね。嬉しい!」


 当たっていたようで喜んでくれます。いやー、前に来た時は日本女子って感じでしたが随分と垢が抜けたようで。この短い間で何があったのやら。それともこれが今の時代の流れなのでしょうか。もうミスブラックとは呼べませんね。


 ただ、おかげでこの茶髪女子についても思い出せました。あの時写真で見せてくれた時に映っていた女子生徒でしょう。写真で見た時はもっと気のよさそうな感じに見えましたけど分からないものですね。


「お姉ちゃんの知り合い?」


「いつもの薬屋の客です。知り合いというほどでもないですよ」


 ただこれは私にとって幸運でした。何せ牢獄送りだったのですからこれでこの茶髪女子さんも納得して……ないようです。めちゃくちゃ睨んでます。


「姫、この人を知ってるの?」


「前に話した魔女さん。悪い人じゃないよ」


「ふーん。そう」


 反応からして絶対納得してなさそう。武器も下ろしてくれませんし、まだ釈明が足りませんか。


「まさかここで魔女さんと会えるとは思いもしませんでした」


「色々と事情がありましてね。あなたも無事で何よりです」


「この学園は安全なのでゆっくりしていってください。私は桜姫です。こっちは栗香です」


 ご丁寧に自己紹介までしてくれました。とはいえ栗香さんの方は怪訝そうな顔で私を睨んだままですが。


「これはご丁寧に。では私の方も。私は通りすがりの魔女です。こちらは旅の道中で出会った雪月さんです」


 私が紹介すると雪月さんがペコリとお辞儀をします。向こうの相方と違ってうちの子は礼儀正しいんです。


「魔女、ね。自分の名も明かせないなんて何か後ろめたいことでもしてるの?」


「やめてよ、栗香。こんな所で言い争いしないで」


「姫。私はこの人が信用できる気がしない。今からでも追い返した方がいいと思う」


 私の前で堂々と言いますか。でも案外彼女は見る目があるかもしれませんね。事実、私は人に言えないような研究をしていたのですから。

 それに私も雪月さんも髪が黒ではないですし、怪しむのは当然かもしれません。


「一晩泊めて頂ければすぐに出て行きますよ」


「そう言って寝込みを襲う気でしょ?」


「なら外から鍵をかけてくれて構いません」


「窓を割って出てくるかもしれない」


「窓のない部屋に入れたらいいでしょう」


「ピッキングの技術を持ってるかもしれない」


 この人どれだけ私を疑ってるんですか。ここまで来ると疑心暗鬼通り越して病気ですよ。

 大体桜姫さんの知り合いだって言ってるんですから敵意がないのは分かるはずですよ。


「仮に私があなた達を襲って何のメリットがあるんですか」


「理由? 寧ろそれはこっちが聞きたい。あなた達は理由もなく人を陥れるじゃない」


 いやぁ、敵意があるのは分かってましたけどここまで話が通じないとは思ってませんでしたね。


「分かりました。なら泊めてくれとは言いません。その代わりとは言いませんが、2、3質問をさせて頂けないでしょうか」


「なんですか?」


 桜姫さんが聞いてくれます。彼女は話が通じるようで助かります。


「緋色学会について」


 そしたら栗香さんの目の色が突如変わって腰の得物を抜き取るではないですか。

 刃こぼれ1つない長身の刃物。私の持つナイフとは比べ物にならないほどに研ぎ澄まされた刃。やはり日本刀でしたか。


「やっぱりあなたもあそこの根回しだったのね! ここで殺してやる!」


 栗香さんが私に飛びかかろうと走ってきます。けれど彼女の足はすぐに止まりました。彼女の前に雪月さんが立ったからです。彼女は手を広げて私を庇うように立っています。


「退いて。そうでないならあなたも斬る」


「魔女のお姉ちゃんは悪い人じゃない。わたしのパパとママも、死んだ、から」


 雪月さんの訴えに栗香さんは若干怯んだようです。


「でも、魔女のお姉ちゃんがわたしを助けてくれた。お願い、やめて」


 すると栗香さんは日本刀を鞘に戻して私に頭を下げてくれました。どうやら雪月さんの言葉は届いたようです。持つべきは幼女ですか。


「ご無礼をすみません。少し、血が上って」


「ご理解頂けて何よりです。補足しますと私も緋色学会を追っていまして、あの組織に少々因縁があるものですから」


「そう、だったんだ」


 栗香さんは反省してくれたみたいでシュンとしました。強情な大人と違って思春期の子供は助かります。


「緋色学会なら私達も調べていますから、それなりの情報を持っていますよ」


「本当ですか?」


 これは無理して来たかいがありました。ですが桜姫さんは人差し指を立てて「ただ」と続けます。


「私は魔女さんを信じてますし、悪意はないと思ってます。でも緋色学会と繋がりがないとも言い切れないですよね?」


 彼女は私の方を見て話します。それは確かにそうでしょうね。素性も明かせない魔女と名乗る人がいれば、私でも疑いますよ。


「何が望みですか?」


「話が早くて助かります。実は色々と協力して欲しいんですよね。見ての通り、この学園には私と栗香しかいません。ですからあの怪物の相手をしたり、食料を調達するのも結構大変なんです」


 つまり身の回りの手伝いをすれば情報をくれるという感じですか。変な要求をされると思いましたが全然普通だったので寧ろ助かります。


「分かりました。では暫くの間よろしくお願いします」


 とりあえず誤解が解けたようで何よりです。このまま有益な情報が手に入ればいいのですが。

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