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24.情報

 早朝。ばあやの家に泊まらせてもらい、朝食にばあやが手料理も振る舞ってくれた。腰は曲がっているけどまだまだ元気なようです。それに宿代も以前の薬代がまだだったからと言い、そこから天引きで実質無料にまでしてくれました。なんとお優しい。


 家を出るとばあやが見送りに来てくれました。


「行くのかい?」


「はい。まだ使命が残っていますから」


「……あの子も、あなたくらい何かに情熱があったら結果も違ったのでしょうか」


 それは私にも分からない。でもばあやは勘違いしてる。私は使命に情熱を燃やしてなどいない。ただ、私を利用した連中が許せないだけなんだ。


 少しだけ気まずい空気が流れます。ばあやも疲れているのか覇気はありません。

 きっと、まだお孫さんが生きてると思って今日まで生きていたのでしょう。その希望が私の発言によって全て失われてしまった。私達が行ったら、ばあやはきっと。

 だから、私は言わなければならない。


「あの薬、よろしければおばあさんが飲んでくれても構いませんよ」


「私が、ですか」


「はい。別に誰が飲むべきという決まりもありませんので」


「こんな老いぼれに気を使ってくれなくて結構さ。これ以上長生きしたってどうしろって言うんだい?」


「またここに来たいと思ったから。それでは理由になりませんか?」


 これは私のわがままだ。この人に勝手に生きて欲しいと願う。ただそれだけ。

 ばあやの心中がどれほど悲しみにくれていたとしても、私はただ生きて欲しい。


「……考えておくよ。あなたも、無理はするんじゃないよ」


「はい。行ってきます」


「おばあちゃん、ばいばい」


 手を振ってばあやと別れを告げました。きっとこれでいいんだと思う。

 この後どうするかはあの人次第。今度ここに来た時に出迎えてくれたらいいなってそう願います。


 ※


 それから優雅な旅をしていましたが、遠くに街が見えてきました。

 長い道のりでしたが終わってみれば案外何ともなかったですね。


 さて、街に到着したのでまずは寄らなければいけない所があります。

 公道を走っていればその内見つかるでしょう。ああ、ありました。


 青と白が特徴のコンビニです。他県に来たので前の県の地図は不要になるので新しいのが必要なんですよね。自転車を停めて降りました。そしてまず最初にしなくてはならないことがあります。


「おっ、お姉ちゃん!?」


 雪月さんが心底驚いた声を出します。まぁ無理もないでしょう。コンビニの前に置いてあったゴミ箱を急に漁り始めたのですから。


「ついに魔女も下賤の輩に堕ちてしまったか」


「うぅ。わたしがもっとお姉ちゃんに美味しい物食べさせてたら……」


 後ろからすごい冷ややかな視線を感じますけど、気にするほど繊細でもありません。

 それに私は食べ物が欲しくて漁っていたわけではありません。あれは、ないかな。

 底の方にあった。捨てられた新聞です。


「雪月さん、中にも新聞があると思うので日付が違うものは全て持ってきてください」


 昨日ばあやから緋色学会について話を聞いた。けれど私はその組織について何も知らない。だからこそ情報が少しでも欲しい。


 店内に入って物資の補給。と言いたかったのですが食料類はさすがにありませんでした。

 唯一残ってたのは変なキャラクターのイラストが描かれた炭酸飲料のみ。フレッシュレモン味って美味しいのでしょうか。まぁ一応頂きましょう。


 雑誌コーナーでは雪月さんが物色をしています。私も近くに行って手伝います。おっと、地図発見。これは助かります。


「これで全部かな」


 雪月さんが両手一杯の新聞を見せてくれます。それを受け取ってさっきのと合わせて中身を確認します。


『救世主爆誕! 緋色学会の実態に迫る』

『緋色学会、謎多きそのトップの経歴とは』

『その命、救います。―緋色学会―』

『あなたの生活に緋水を』

『新たな政策。そのカギを握るのは緋色学会!?』


 見出しのどれもが一々大袈裟に書かれていて私の興味を引くに値しませんでした。

 記事も少し読みましたが驚くくらい緋色学会をよいしょする内容で吐き気がします。

 なにより。


『被災地復旧の目処、未だ立たず』


 同じ時期にあの地震の記事も書かれているのですから、この新聞は相当古い物でしょう。

 私が知りたいのはこいつらの悪事が世間に露呈してから、なんですがさすがに最近のはありませんでした。仮にあったとしても、この様子ですと記者も買収されてる可能性がありそうですけど。


 読んでいてウンザリしたので新聞を投げ捨てました。


「もういいの?」


「ええ。犯罪組織は証拠隠蔽がお得意のようです」


 元々期待などしていなかったが、それだけ大きな組織だというのも分かる。

 ただ疑問もあります。パンデミックが起こってから、この救世主様は世間でどのような扱いを受けていたのでしょうか。普通であれば恐ろしいまでの非難が飛び交うでしょうし、そうなれば解体も余儀なくされるでしょう。


 仮に裏でお国様と繋がっていたとしても、その責任は首相に集中するはず。或いは緋水が原因だと国民に教えず医者を買収したとか? 政府ならお金なんていくらでもあるだろうし、可能だろうけど全国の医者を懐柔させるなんて果たしてできるのだろうか。ここまで崩壊すれば今となってはそれらは些細な問題なんだろうけど。


「先に行きましょうか」


「はい」


 ここで考えても仕方ありませんね。全ての答えは東京へ行けば分かるでしょう。


 街の方は平和そのもので緋人がいる気配もありません。おかげで公道を独占しながらのんびりとした旅を楽しめてます。


 何となく周りを見ます。何度も見た牛丼店、洒落た看板が目印の洋服店、無駄に広い駐車場のある大型スーパー、今にも潰れそうな雰囲気のある老舗和菓子屋。

 そのどれもが明かりもなく真っ暗で閉店状態。人がいないというだけでこうも寂しくなるとは。きっと、少し前までは活気で溢れてただろうに。


「分かってはいましたが生き残りは本当に少ないんですね」


 ここに来るまで相当な距離を進んでますが、出会った人を合計しても1学年の1クラスにも満たない人数です。おまけに数少ない生き残り同士で争いも起こりますし、このままでは日本という国は本当に滅んでしまうでしょう。


「お姉ちゃん、悲しい?」


 悲しい、か。確かにこの惨状を見て悲観的には思いますが心から悲しいという気持ちにはなっていない。そもそも今の私に泣くことができるかすら怪しいですが。

 或いはこういう悲劇を一度見たせいでもう慣れてしまったのでしょうか。


「そういう気持ちは全てが終わってからでいいでしょう。今は前に進む方が大事です」


「うん」


 機械のように淡々と物事を進める。その方が却って気が楽になる。


 ※


 どれくらい時間が経ったでしょうか。長い長い道のりをひたすらと自転車を漕いでいます。

 空はまだお日様が照らして明るいですが。この私が根を上げずにここまで頑張ってるのは我ながらにえらいと思います。運動音痴とはいえこの連日のドタバタで徐々に体が慣れてきたのもあるでしょうけど。


「お姉ちゃん。もうすぐ住宅地に入りそうだよ」


 後ろで座ってる雪月さんが地図を片手に教えてくれます。

 住宅地に入るとなったら今日の寝床の確保も遅くなりそうですね。早めに手を打った方がいいでしょう。それにずっと休んでませんから、雪月さんもお腹を空かせてるかもしれません。


「近くでどこか休めそうな所はありますか?」


「んー。家が沢山並んでるけど……あ! 近くに学校があるよ!」


 学校なら別に休んでも文句は言われないでしょう。震災の時も避難所にしてましたし、もしかすれば人がいるかもしれません。


「ここからどう向かいます?」


「ん-っとね。3つ目の信号を右に曲がって、その先の十字の道を左に行って、そのまま真っすぐ行ったら見えると思うよ」


 優秀なナビがいてくれて本当に助かります。ではそこを目指しましょうか。


 着くのに長く時間はかかりませんでした。目の前に大きな施設が建っていて、グラウンドだけでも無駄に広々としています。校門の前に来るとそこに『国立緋空学園』と書かれていました。それを見てちょっとだけ嫌な気分になりましたが。


 ここ最近、緋水だの緋人だの緋色学会だので『緋』という文字にすごい嫌悪感があるんです。

 この学園に罪はありませんし大丈夫でしょう。

 自転車から降りて校門を抜けます。


 校庭と思われる並木通りのある道を歩いていきます。整った緑の芝生の道で、建物の奥行もすごい。小屋みたいな所で学びを終えた私とは大違い。


「止まれ!」


 呑気に考え事をしてたらどこからか女性と思われる大きな声がしました。

 キョロキョロ見渡しましたが見つかりません。


「合言葉を言え」


 二言目を発してくれたおかげで相手が地上ではなく、学園の2階にいると理解します。

 窓の奥に制服姿の茶髪の女子が弓を構えてこちらを狙っているようです。

 どうやら私が来たのは避難所ではなく、武装組織でしたか。


「雪月さん知ってる?」


 彼女は首を振ります。当然私も合言葉なんて知らない。今の学園って入るのにそういうルールがあるのですかね。


 そしたら茶髪の女子が矢を放ち、足元の芝生に見事命中させてきます。かなり離れてるように見えますが、なんという精度でしょうか。すぐに雪月さんを私の後ろに隠します。


「今のは警告。このまま去るなら追わない。賊はこのままお帰りどうぞ」


 恐ろしいまでの敵意。どうやら私はどこまでも面倒に巻き込まれる体質なようです。

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