9. 後悔しようがない時は、ひたすら気を紛らわすしかない話
真っ暗な自分の部屋はびっくりするくらい静かで、タブレットとペンが擦れる音しか聞こえてこない。
私は今日の放課後のことを思いながら、ひたすらペンを走らせている。
正確には放課後のことを考えないために、もうずっとペンを走らせている。
ヨシカが走り去った後、ライミは特に話をするわけでもなく、短い挨拶だけをして別れた。
その後、家についてからずっとどうしたらいいか、考えていた。
同時に、どうしてヨシカが屋上にくる可能性を1ミリも考えられなかったのか、激しく後悔していた。
今日の状況だけ見れば、可能性は低かったかもしれない。でも、ヨシカは明らかに私とライミの微妙な空気を察していた。
ヨシカなら、私やライミが行きそうな場所に行って探し回ることは普通にするかもしれない。そして、どちらかを見つけたら、たまたま出会った風を装って声をかけてくれるに違いない。
だからこそ、ヨシカの話題になった時、何も考えずに会話を続けるべきではなかった。
まぁ、状況的にそれができない雰囲気だったことはわかっているから、ありえない度が高いタラレバの話。
一方で、ライミが言っていた3つの事件は、本当に同時に起こってしまった。
夕方の段階でSNSのトレンドで世界的なスーパースターの引退宣言を知り、晩ご飯を食べていたらニュース速報が流れて日本とも近しい国で軍事クーデターが発生したことが告げられ、そのすぐ後に立て続けで日本と近しい別の国の大統領がスキャンダルで罷免されるというニュースが速報で流れた。
そんなあり得ないレベルの出来事が3つ重なることをカンや偶然でたまたま当てることは確率的に不可能レベルだし、となると未来予知や予言か、本当に未来からやってきたかのどちらかしか考えられなくなる。
仮に、未来予知や予言だったとしても、ここまでリアルに見えているならヨシカが近い将来、戦争のトリガーとなることも信憑性が高くなってくる。
なので、ライミが未来人かどうかはひとまず保留にしたとしても、未来の出来事を知っているという点については信じてもいいレベルであることは間違いない。
ここで、冗談やドッキリでなく、あそこまで真剣に語っていた屋上のライミをほんの少しでも信じてあげていたら状況は変わったのかな……と思うが、あの時点では信じる信じない以前の突拍子のなさだったから、私の反応は間違ってはいなかったと思いたい。
そして、ライミが正しかったことが証明されたことで、ライミだけを悪者にしてヨシカと仲直りするパターンやヨシカのことは諦めてライミとの関係性を続けるパターン、もう2人との関係を修復するのは諦めて3人バラバラになるパターンではない、また3人で仲良く学校生活を送れる可能性が残されていることに気づいた。
ライミは嘘を言ってないし、ヨシカには純粋に夢を叶えて欲しい。
でもヨシカが夢を叶えてしまうと、ライミの使命が果たせなくなる。
ライミが望む未来も、ヨシカが望む未来も、どちらも実現できる方法はないか必死に考える。
テストの問題を解くなんか比べようがないくらい、脳が焼き切れるくらい考えても、どちらの未来も同時に実現する方法は思い浮かばない。
ただひとつ言えることは、私がここで諦めると、その時点でみんなが望む未来がやってくる可能性が潰えてしまう。
だから何としてでも、針の穴を通すような、裏をかきすぎて捻れた状態で表を向くような、超スーパーナイスアイデアを閃かないといけない。
真っ暗な部屋の中で、カーテンを開けっぱなしの窓から星空を見ながらひたすら考え続けた。
30分くらいしか経っていない気もするし、5時間経ったと言われても納得できるような不思議な感覚になるくらい集中しているけど、一向にアイデアは降りきてくれない。
もう諦めて寝てしまおうとも思ったけど、頭が冴えて眠ることはできなさそうなので、とりあえず水を飲もう(さっきからずっと何も飲んでない)と思った瞬間に「絵を描かないと!」と思い立った。
そこからの方がもうどれくらい経ったかわからないレベルで、ずっと絵を描き続けている。
思いついた方法が正しいかどうかわからないけど、ひたすらペンを走らせている。
私たち3人の明るい未来がくるように、ずっとペンを走らせている。