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7. 信じられないことが重なると、さらに信じられない状況に陥る話

ヨシカのオーディションが終わって数日後の昼休み。

私たちはいつものように3人でお弁当を食べていた。


もうすぐしたら期末試験のテスト前期間が始まって、12月の最初に期末試験がある。試験が終わると基本的に午前授業で終わるから、帰宅部の私たちは12月をどう過ごすか、予定をあれこれ考えたり、妄想したり、現実に戻って計画するのに忙しかった。


そうこうしている間に良い時間になって、ヨシカがお手洗いに行っている間、ライミと私が2人きりになった時にちょっとしたイベントが発生。

ライミがいつになく真剣な顔で私の顔を見るから

「あれ? 私の顔に何か付いてる? それとも歯にノリが付いてる系?」

って聞いたら、それをきっかけで急に意を決した顔をして

「今日の放課後、1人で屋上に来て欲しいんだ。実はハヅキに伝えたいことがある、的な?」

で、何もしてないのに急にカウンターパンチを食らったみたいな気持ちになって、私は思わずチャカす感じで

「あれれー、急に激重テンションでどうしたの? 何か相談があるんだったら今ここで聞くよー?」

って言ったら、ライミは顔を真っ赤にしながら

「ち、違うのっ……! その、ずっと前からハヅキに言おうと思ってた大事な話があって……」

って、下を向いちゃうから、あヤバい、これマジメなやつだった、どうしようってキョロキョロしてる間にヨシカが戻ってきて、

「あれ、二人とも、何かあった?」

空気をあえて読まない感じで聞いてきたから、私もそのテンションに合わせる感じで

「えっ、そんな風に見えた? 全然違うよね、ライミ?」

「そ、そうだよー! クリスマスはどうするって話をしてただけ……だよ?」

「そっか、そうなんだ。3人とも彼氏いないから、彼氏持ちの子のクリスマス前の浮かれた感じはけっこうダメージくらうよね」

みたいな感じの、少しぎこちないやりとりをしてる間に予鈴のチャイムがなって、お互いが「助かった」って感じで次の授業の準備を始めた。


普段ならお腹がいっぱいで眠気と戦いながら午後の授業を聞いてるんだけど、今は頭が超スッキリ冴えてて、でも先生が話す内容は何も頭に入ってこなかった。


あのライミの雰囲気は、私がすごく失礼なことを言ってすごく傷ついたり怒ったりしてるか、それとも実はライミは私のことが好きで居ても立ってもいられないくらいになっちゃって、仲良し3人組の関係が壊れてもいいからって覚悟で告白する決心をしたか、それ以外に考えられるとしたら……

うん、ないよね。ないない。何なら私に対して怒ってるとかもなさそう。だって、心当たり何もないもん。

あの空気感は、もう告白しかないでしょ。

え、だとしたら、私はどうしたらいいの? ライミに「ずっと親友だと思ってたけど、いつの間にか好きになっちゃって……もうどうしようもないくらい好きなの!」とかって言われちゃうの?

うーん、ライミのことはすごく大好きだし、何度も冗談で「彼女にしちゃいたいぜ、コノコノ!」みたい言ったり言われたりしたこともあったけど、それってあくまで「友だちとして」好きって感じだったよね。

まあ今の時代、女の子同士で付き合っちゃっても、そんなに何も言われないんだとしても、私がそうなるってリアルに想像したことなかったから、いざその時が来るとどうしていいかわかんないというか、何というか…


みたいなことをぐるぐるぐるぐる考えてたら、いつの間にかチャイムが鳴って、答えどころか心の準備も何もないまま放課後に突入。


ショートホームルームが終わった瞬間、ライミはリュックを背負って

「ワタシ、ちょっと寄るところがあるから先に帰るねー」

ってパッと教室を飛び出す感じで出て行くし、ヨシカはヨシカで空気を読んでくれて

「うち今日は一人で帰る感じでもいいけど、どうする?」

「え、ちょっと待ってね、えーっと、どうしよう……」

ほんとはライミとの話が終わるまで待っていてもらいたい気持ちでいっぱいだった。

でも、頭の中の冷静な自分が、ライミとの話が終わった後、自分もライミもどんな風になってるかわかんないから、先に帰ってもらった方がいいんじゃない?って言ってくる。

「うん、そうだ、今日は私もちょっと寄るところがあるから、その一人で帰るね、ありがとう!」

と大丈夫感を出しながら言ったつもりだけど、

「うん、わかった! またいつでもいいから何があったか教えてよね?」

やっぱりヨシカに伝わっちゃうよね。

「違う違う、そういうのじゃないから!」

って、何がどういうのかよくわかんないけど焦って答えたら

「悩み事だったら、いつでも相談していいからね』

って。本当は今すぐ相談したい気持ちでいっぱいだったけど、話が話なのとライミがライミで待ってるだろうから、とりあえず

「ありがとう! 後ですごく頼りにするかもだけど、そうならないようにできたらいいなぁ……」

「何かよくわかんないけど、とりあえずがんばってね?」

「うん、じゃあまた明日ね!」


教室を出て行くヨシカの背中を見ながら、屋上に行ってライミに会うのが少し怖くて、その場で髪の毛をクルクルしてみる。

当たり前だけど状況は何もかわらなくて、でもいつまでもライミを屋上で待たせるわけにはいかないし、こういうモヤモヤしたのは早く済ませちゃった方が良いことの方が多いから、とりあえず私もリュックを背負って教室を出てみる。


少し早足であるいて、その後、緊張して少しゆっくり歩いて、屋上がある校舎棟について、階段を登る。

一段上がるごとにドキドキが増しているような気がして、実際に息も苦しくなって、でも止まると二度と次の一歩を踏み出せない気がしたから一気に屋上までの階段を登り切る。

屋上に着く頃には息が切れてハアハアしだして、このままではまともの話ができないからドアの前で深呼吸。

なんど息を深く吸って吐いても、ドキドキは全然おさまらない。


とりあえず、ハアハアしてるのは落ち着いたから、意を決してできるだけ元気な感じでドアを開けてみた。

そしたらライカはまだいなくて、その時点で私が密かに思っていた「実はその場の雰囲気と勢いで何とかなるじゃない?」というシチュエーションは実現されないことが確定した。


仕方なく、秋風に吹かれながら放課後の学校の音を聞いてた。

ドキドキしたままの心臓のせいで、放課後の学校の音が実際よりも遠くに感じる。


少し経った後、階段を登る足音が聞こえた気がしてドアの方を見ると、ライミが膝に手をつきながらハアハアしてて、その後、何回も深呼吸をするシルエットが透けている。

外からだと何してるかがこんな丸わかりだったなんて、心底ライミよりも早く着いて良かったなって思った。


息を整えた後、何事もなかったかのようにサラッと元気な感じで「ごめん、待たせたよね?」って来るんだろうな(私がそうしようと思って実際にそうした)って少し構えてたら、案の定、何事もなかったかのうようにサラッと元気な感じで「ごめん、待たせちゃったよね?」ってライミが空元気で登場。


そんなちょっと冷静になれる時間があったおかげか、近づいてくるライミを見ても意外と冷静で、これならライミの話を聞いた後に自分が感じたことをちゃんと伝えよう! 実は作戦通りにいけそうじゃん! って、その時は思ってた。うん、その時は確かにそう思ってた。


私とライミとの距離がどんどん小さくなっていって、ライミが実はガチガチに緊張してるのが伝わってきて、私が思ってた位置よりも半歩近いところで立ち止まると

「…………」

何も言わずに(言えずに)こっちを見つめたまま、

「…………っ」

必死に言葉を口から出そうとしているライミがいて、

「……あのね……ワタシ、実は……み」

ついにライミが伝えたかった想いを口にしようとした瞬間

「ごめんなさい! いろいろ考えたけど、やっぱり私とライミは親友の関係がいい!」

「えっ!? どういうこと?」


おい、数分前の私! 何が「ライミの話を聞いた後に自分が感じたことをちゃんと伝えよう!」だよ!

何が「実は作戦通りにいけそうじゃん!」だよ!

テンパってパニクって、何かすごく盛大な勘違いをしてるよねって目で今ライミがこっちを見てるじゃん!


「あのさ、ハヅキ、よく聞いて欲しいんだ。ワタシは実は……」

「う、うん。実はライミは……」

「ワタシね、未来から来た、正確には2109年から転送されてきた未来の人間、なんだ……」

「ん? えっと、どういうことなのかな?」

「今言った通り、ワタシは未来の人間なの。未来を変えるために過去の世界、つまり現在にやってきた未来人」

「っていうドッキリ……?」

「ドッキリなんかじゃない」

「うーん、そういう中二病的な設定? 実はライミはそういう系だったって告白なのかな?」

「違う! ……そうじゃなくて本当の話なの」

ライミの雰囲気から、ドッキリや冗談じゃなくて真剣な話をしていることは伝わる。

「でも……本当って言われても、そんな非現実的な話、信じられないよ……」

「そうだよね、この時代のテクノロジーの水準だと、まだSFとかアニメの世界の話だよね……それはこの時代のことを勉強したからわかる」

「仮に、ライミが未来からやってきたとして、それを私が信じられるような証拠とかってあるのかな?」

「証拠……やっぱりそうなるよね」

「私も友だちが真剣にしている話を、そんな冗談言わないでって一蹴したくはないよ? でも、信じて欲しいって言われても、信じる信じないのレベルをちょっと超えてるというか、非現実的すぎて信じる信じないの話じゃなく感じるというか……」

「うん、ハヅキに話をして、そういう流れになるだろうなって思ってた。だから、今からする話を聞いて欲しいの。それで明日になったら、きっとワタシが未来からやってきたかもしれない、くらいには思えるようになると思うから、その後、本当かどうかハヅキが決めていいから」

「……正直、明日になったからって信じられないような気がするけど、どんな話なの?」


「じゃあ……」といって、ライミが教えてくれたのは今日の夜に起こる3つの大きな事件だった。

ある国の大統領がスキャンダルで失脚したり、ある国でクーデターが起こったり、世界的なスーパースターが急に引退を発表したり……そんな大きな出来事が一晩で起こるとはとても思えないけど、未来から見ると今日は歴史のターニングポイントになるレベルで重要な日ということらしい。


「わかった、ひとまずは明日の朝のニュースを見て、起こるとは思わないけど今言ってくれた3つの事件が起こってたら「ライミは未来から来て歴史を知ってるから、今から起こることを正確に知ってた」ってことになるんだよね?」

「うん、そういうこと。信じてもらえて嬉しいよー」

「いや、まだ信じてはいないけど、これ以上は追求しても仕方がないだけというか……」

「まぁ、そうだよねー」

「それで、そんな未来人のライミが、私に秘密を打ち明けてくれたのは何か理由があるんでしょ?」

「……うん。実は少し手伝って欲しいことがあって……」

「手伝う?」

「そう。私が未来を変えるために今ここにいることはさっき伝えた通りだけど、その未来を変える方法が「ヨシカがシンガーになることを阻止すること」なんだよね……」

「えっ、そんな……」

「ヨシカはこの後、シンガーとしてデビューして、世界的な評価を受けるようになる。これは色んなパラレルワールドでほぼ確実に起こる確定事項なの」

「う、うん……」

未来人の言うことは何でもアリな気がしてきたけど、ヨシカの歌声だし、オーディションを受け続けていればいつかデビューできるかもしれない。それで、たまたま世界的にバズる曲をリリースする可能性もゼロではない。

「世界的な評価を受けるようになって、世界の人々に与える影響力も絶大なものになるの」

「そうだね、仮にそのレベルの有名人になったら、影響力も大きくなるよね……」

「でね、ある時からヨシカは特定の政治思想の影響を受けはじめて、それをメッセージとして世界の人に伝えるようになる」

「……ま、まあ、アメリカだと有名なミュージシャンがどっちの大統領候補を応援してるって言ったりするよね?」

「それで、ヨシカのメッセージがきっかけとなって、政治的な対立が深まるの。その後は、思想と思想のぶつかり合いが国と国のぶつかり合いに発展して、大規模な戦争が起こる……」

「ちょっと待って! 仮にヨシカがシンガーとして世界的に有名になったからって、ヨシカのせいで戦争が起こるっていうのは、ちょっと乱暴すぎない?」

「ううん、違うよ? 歴史的に見ると、ヨシカの発言が戦争の引き金を引くことになるんだ。これは未来の歴史の教科書にも載るレベルの出来事なの」

「ここでやっぱり未来の話が出てくるんだよね…… ライミが未来人だって証明されない限り、微妙すぎて判断できない系の話になっちゃう」

「そうだね。そうなっちゃうよねー」

「うん、こればかっかりは、いくらライミが親友でも無条件に信じられない……」

「そうだ! ここは賭けをしてみない?」

「賭け?」

「そう、さっきワタシが言った3つの事件が今晩起これば、ハヅキはワタシのことを信じてくれて、ワタシと一緒にライミがシンガーになる夢を諦めてもらう手伝いをする。もし事件が起こらなければ、ワタシはただの中二病で、恥ずかしい設定の話をハヅキに打ち明けただけ」

「そんな一方的なことを言われても「その賭け、乗った!」とはならないけど、でもそうしない限り、私たちの微妙な感じは解消されないから、乗るしかないんだよね?」

「うん、そういうこと」

「わかった、ライミが未来人かどうかは置いといて、今晩3つの事件が起こったら私の負けで、その時はライミのやりたいことを手伝ってあげるよ。ヨシカには悪いけど、そうじゃないとライミが私にここまでのことを言うメリットも理由もわからないしね……」

「ありがとう! ハヅキが手伝ってくれると、すごく心強いですー!」


その時だった。「バタン」と大きな音がして、屋上のドアが開いた。

思わず2人してドアの方を見ると、ヨシカが涙を流しながら立っている。

「ねえ、どういうこと? 2人はうちが夢を追いかけるのが、そんなに気に食わないの? この間のオーディションについて来てくれたのも、落ちた時に2人で嘲笑うために来たってこと?」

「ヨシカ……」

ただただ驚いて、ヨシカの名前を呼ぶことしかできないでいると

「うち、2人のこと心配してたんだよ! 一人で帰ったけど、心配だから学校に戻って来たら屋上にいる2人を見つけて急いで来たら、2人してうちの夢を壊す相談? ほんといい加減にして欲しいんだけど!」

と、すごい勢いでまくし立てるヨシカ。その勢いにびっくりしてしまって、2人して何も言えない。少しだけ流れる無言の時間が、永遠のように長く感じられるけど、頭の中は「どうしよう」という言葉しか出てこない。

そして突然に静寂は破られて「もう知らない!」と涙声で叫ぶと、ヨシカは走り去ってしまった。


慌てて追いかけようとするが、追いついたとして何を言うんだろう。

実はライミが未来人で、ヨシカはこの後、世界を巻き込む戦争のきっかけになるから、それを止めに来たんだ、って言うことに意味はあるんだろうか?

そして、それを言うと、今度はライミを傷つけることにならないのか?


すっかり日が傾いて肌寒くなった屋上に、秋の終わりの冷たい風が吹いた。

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