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6. 実力でねじ伏せるのが一番手っ取り早かったりする話

そろそろ登校時にマフラーが欲しくなるって感じで、すごく冷たい風が吹いてる。

海のすぐ近くって、穏やかな日はすごくいいんだけど、風が強い日はマジでつらいんだよね。

そもそもさえぎるものがない中で海風がビュービュー吹き荒ぶし、乾燥している日は砂や波しぶきの塩が飛んでくるから目が痛くなったり、自転車がすぐ錆びたりする。


で、スカートを押さえながら何とか学校にたどり着くと、ヨシカは先に到着していて、私のすぐ後にライミもやってきたから3人で昨日の夜の話とかをしてお互いの調子を確認しながらテンション感を合わせていく。


ライミはいつも通りマイペースな感じで最近オススメの動画を教えてくれるし、ヨシカはちょっとまだ眠そうな感じはするけど、それよりかいつもより落ち着きがないような気がする。

そんなヨシカが改まった感じで

「ねぇねぇ、明後日の日曜って空いてたりする?」

と切り出した。

「ワタシは空いてるよー!」

ってライミは即答で、私も予定は特にないから

「私も大丈夫。何かあるの?」

と、すぐに3人の予定が合う。

「よかったー! 実は2人に東京まで着いてきてもらいたいんだけど、大丈夫かなぁ?」

「東京? 久しぶりに行ってみますかー!」

「私も特に問題ないけど?」

「ありがとう! 実は明後日、オーディションを受けることになってさ」

「何のオーディションですかー?」

「音楽系の芸能プロダクションがシンガーを募集してて。で、書類と歌のデータを送ったら一次審査に受かったみたいで、二次審査の連絡が届いたんだ!」

「おお、それはすごいですねー! おめでとう!」

「いやいや、ほんとの審査はこれからだからさ」

「でも、そのプロダクション?は大丈夫なとこなんですかー? よく聞く悪いところじゃないですよね?」


と、私がすごく気になっていたことを、ズバリとライミが聞いてくれた!

ちょっと前に、水を挿すようなことを言ってしまってから、ヨシカのこの手の話はどうしてもちょっと反応が鈍くなりがちな私がいるんだよな。


「結構メジャーなアーティストも所属してるみたいだし、そこは大丈夫だと思うよ!

 それよりも緊張せずにちゃんと歌えるかの方が心配なんだよね」

「そういうことなら心配無用ですよー! ヨシカの歌声ならワタシが保障します!」

「うん、私もヨシカなら心配しなくても大丈夫だと思うよ!」

「ありがとう! ちょっとだけ安心できた」

「じゃあ、今日は練習のためにカラオケ行きますかー?

 あ、でも、喉を休めた方がいいのかなー?」

「たしかに、どっちも意味ありそうだし難しいよね。ヨシカ的にはどうするのが良さげ?」

「うーん、どうしようかな? 放課後のノドの感じと気持ち的な部分で決めてもいい?」

「もちろんですよー!」

「うん、大丈夫。ヨシカがやりたい方に合わせるから気にしないで?」

「助かる。うーん、どうしよっかなー」

なんてやりとりをしてる間に先生がやってきて、ホームルームが始まった。


結局、その日はカラオケには行かずにまっすぐ帰宅することになって、土曜はお母さんと一緒にショッピングセンターに行ったり、3人でLANEしたりしてたらあっという間に終わって、日曜の昼下がり。

青山にあるビルの貸し会議室みたいな大きめの部屋に私たち3人は緊張しながら座っていた。


ヨシカが受けるオーディションは高校生以下が対象のもので、小学生低学年の子もちらほら見かける。

控室には付き添いの保護者とかが入ってもよいとのことで、一緒に来た私とライミも中で待たせてもらっている。

さっき呼ばれた子の番号が15番だったので、16番のヨシカは次が出番だ。


青山の駅に着いた時には、隣にいてわかるくらい緊張してソワソワしてたけど、いざオーディションが始まって出番が近づく度にどんどん覚悟が決まっていったのか、今ではすごく頼もしいオーラを感じる。

そうこうしてるうちに14番の子が帰ってきて、「16番、七里ヨシカさん、スタンバイお願いしまーす」とコールがかかった。


私とライミはいざ出陣するヨシカをハイタッチで送りだし、無事に実力を発揮していい感じで歌えることを祈った。

たぶんヨシカのいつもの歌声なら何となくここにいる子たちに勝ってるんじゃないかな。

だって、出番を待つ間に発声練習をしていたライバルたちの歌声を聴いて、これならいけるって思えたんだよね。

とはいえ、落ち着かないでソワソワしながら待っていると、すごくやり切った雰囲気のヨシカが帰ってきて、それを見ただけでも無事に歌い切ったんだなって思えるくらいの表情だった。

たぶん、審査員を納得させられるくらいの出来だったんだと思う。


結果は後日お知らせします、とのことだったので帰りに表参道でドーナツを食べて、原宿にも少し寄ってから東京を後にした。

ヨシカが無事に合格できますように……電車の中、窓の外にある大きな神社の森を見ながら、神様にお祈りをしておいた。


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