4. 今どき朝バッタリ出会った女の子が転校生で同じクラスなんてこと、意外とあったりする話
少し肌寒い朝のターミナル駅は、足早に乗り換えを急ぐサラリーマンや友だちと出会って並んで歩く高校生で賑わっていた。
ここは東海道線と私鉄の小野急、さらに江戸島電鉄というローカル線が交わる、このエリアの要所となっていて、私が通う高校は江戸島電鉄に揺られて15分ちょっとのところにある。
今日もいつものように乗り換えに間に合うように少し急いで改札をタッチしようとしたんだけど、ふと2個隣の改札でエラーのせいで通れなくて困っている女の子に目がとまった。
たぶん私と同い年くらいの雰囲気なのに、まるで自動改札になれてない感じで何度も何度もタッチしては通せんぼされるのを繰り返している。
そこそこ混み合った状態でそれをやっているので、周りの人たちの彼女を見る目が少し痛々しい。
スルーしても良かったんだけど、その日は何だか妙に気になってしまって思わず
「大丈夫? そこの窓口で駅員さんに一度見てもらった方が良いかも」
と近づいて声をかけてしまった。
その子は最初は急に声をかけられたせいでビクってなったものの、「なるほどです! ありがとうございます!」と元気にお礼を言ってくれた。
その後「マニュアルにあった2024年の電車の乗り方のはずなのに、何かおかしいんですよねー」とよくわからないことを言った後、「あ、しまった! とにかく駅員さんに聞いてみますね」といって小走りにさっていった。
その後、私は改札から一番遠い4号車に乗り込み、その女の子が電車に間に合ったかどうか知らないまま電車は出発してしまった。
その時はアジア圏から来た留学生の子とか、もしかしたら帰国子女の子かも知れないなって思ってたけど(制服が同じだったので)、1時間後、私のクラスにやってきた転校生として紹介された時は「そんなことあるんだなー」って現実感があまりないフワフワとした気持ちを味わえた。
先生から転校生として紹介されて、本人の緊張がこちらまで伝わってくるような自己紹介を聞いた後、その子は後ろの席にいる私を見つけて「あ、今朝はありがとうございました!」って大きな声で言うもんだから、私も勢いに押されて「いえいえ、間に合ってよかったですね!」って返答。
その様子をみて、先生は「なんだ、もう友だちができたのか。だったら今日は深沢に学校のことをいろいろ教えてもらうといい。ちょうど席も隣だし」って。先生、誰かに押し付けようと思ってたことが既に決まっててラッキーって感じ、すごく丸出しですからね。
でも、こんなアニメやマンガでしか見ないようなシチュエーションをリアルに体験できて、何というかそういうアトラクションとか、ロールプレイのゲームをやっているような一日を過ごすことができた。
急な転校生シチュお約束の「まだ教科書が届いてないから、隣の人と一緒に見る」から始まり、体育館や理科室。トイレや保健室などの主要な施設を一緒にまわったり、お昼はヨシカも一緒に3人でご飯を食べたりしていると、あっという間に放課後。
今日1日ですっかり仲良くなった私たちは「よし、この後3人でライミちゃんの歓迎会を開催したいと思います!」という流れになって、ターミナル駅のカラオケにきていた。
帰り道、電車の中で何をする? 何が好き? みたいな話になって、ライミちゃんは「わたし、歌が好きなのでカラオケに行ってみたいです!」って言うもんだからヨシカとすっかり意気投合。
私は私で、昨日のヨシカとの一件があったから、若干どころかだいぶ気まずいなと思いつつも、昨日のことがあったからこそカラオケに行くべきでしょ! って自分を奮い立たせて参戦している(でもそんなことは顔には出さないけど)
相変わらずいい歌声で歌うヨシカは気持ちよさそうだし、ライミちゃんも元気いっぱいって感じで楽しそうに歌ってる。私も私でアニソン系を中心に好きな曲を歌ってたら、時間が経つのはあっという間でそろそろ帰ろっかって時間になって「改めてこれからよろしくねー!」ってお開きになった。
やっぱり昨日のことがあったから、自分だけもう少し気まずい感じだったり、モヤるかんじになるのかなって思ってたけどヨシカの歌声を聞いていたら全然そんなことにならなくて。
やっぱりヨシカの独特の雰囲気がある伸びやかな歌声は、彼女の進路希望に対してすごい説得力を発揮していた。
最終的に「私もヨシカの夢を応援したい!」って素直に思えて、昨日の夜にあんなにいろいろ考えてたのが信じられないくらいスッキリ快調な感じになってた。
逆にライミちゃんが曲を探しながら時々「あれ、この世界線にはこの曲はないのか…」みたいなことを呟いてたのが妙に違和感があって気になったけど、途中から楽しすぎて結局は特に気にならないというか、気にしなくなったんだけど、あれはどういうことだったんだろう。