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10. どれだけもつれた糸でも、切れない限りは元の状態にもどせる(ただし、全く同じ状態に戻せるかどうかは別の)話

寒い。

腕が痺れてる。

おでこもじんわり痛い。

ああ、私はいま起きようとしてるのか。


電源を入れたモニターがすこし沈黙した後、スッと明るくなるような感じで脳が動き出す。


とりあえず顔を上げると、真っ暗なタブレットに自分の顔が映る。

昨日というか今日の朝、納得いくレベルまでイラストを仕上げた後からの記憶がないので、そこで完全に寝落ちしたってことだと思う。


念の為、データの確認をしたらちゃんと保存できているみたいでホッとすると同時に、ぐぅ……とお腹が鳴る。

時計を見ると13時過ぎ、それはお腹も減るよね。

それよりも、急いで学校に行く準備をしないと!

今から行けば最後の授業が終わるまでに着けるから、まだ放課後に2人と話ができる!

とりあえず台所で牛乳を一気飲みすると、熱いシャワーで体と頭をシャキッとさせた。


昼下がりの中途半端な時間帯は、電車も結構空いていて快適で睡魔との壮絶な戦いの末、学校の最寄駅にたどり着く。

最終の6時間目が終わるまであと20分、ちょうど良い時間だ。

チャイムが鳴って先生が出て行った瞬間に教室に飛び込んで、ヨシカとライミを確保する。

その後、どこでもいいけど人の少ない場所でちゃんと話をしよう。


そう意気込みながら教室までの階段を上がり、廊下のすみで息を潜める。

ほどなくして授業の終わりを知らせるチャイムがなり、時間差でいろんな教室からザワザワとした放課後の音が聞こえ出す。

ガラガラッと私の教室のドアも開いて、歴史の先生が出てくる。

一瞬目が合ったけど、気にすることなく教室に入って、

「ヨシカ、昨日はごめん! ライミも一緒に、聞いて欲しい話があるの。お願い、ちょっと屋上にきてくれないかな?」

と大声で2人を呼ぶ。


ヨシカもライミも、欠席だと思ってた私が急に現れたことに一瞬驚いた顔をして、その後ヨシカは険しい顔で、ライミは困惑した顔で頷いた。



少し冷たい風に乗って、旧校舎の方から吹奏楽部の演奏がここまで聴こえてくる。

今日の屋上は、薄曇りの天気のせいで少し肌寒い。


無言で着いてきてくれた2人を見て、私は話を切りだす。

「ヨシカ、昨日は本当にごめん! 心配して来てくれたのに、あんな話を聞かせることになってしまって、本当にごめん!」

「うん。それで?」

「これから、昨日、何があったのかヨシカに説明する。説明したからってわかってもらえるかわかんないけど、まずは話を聞いてくれると嬉しい。それでいいよね、ライミ?」

「そうだね、ヨシカにも聞いてもらうしかないと思う」


そういって昨日の屋上で起こった出来事、ライミは実は未来人で歴史を変えるために転送されてきたこと、ライミが変えようとしている歴史がヨシカに関わるものであること、このままいくと将来ヨシカがどのようなことになってしまうのか……

ヨシカは最初は困惑した表情だったが、徐々に反応に困った感じになり、最後はどんな表情をすればいいかわからない雰囲気になっていた。


「えっと、うちにドッキリを仕掛けてるわけじゃないんだよね?」

「うん、昨日、ライミの話を聞いた時、私も同じようなことを思ったけど、違うよ?」

「タチの悪い冗談にうちを巻き込んでるわけでもないんだよね?」

「うん、冗談ではない」

「まず、ライミちゃんが本当に未来からやってきたとして」

「えっ、ワタシの話、信じてくれるんですかー?」

「いやいや、ライミがそのリアクションをとるのはどうかと思うよ」

「だって、昨日の夜に起こった事件3つとも、ライミちゃんは事前にわかってたってことだよね?」

「うん、未来の世界でも昨日は「大きな出来事が起こった日」だから、調べたらいろんな情報がでてくるよ?」

「だとすると、そこを疑っても仕方ないというか、証明しようがないというか……」

「まあそうなるよね、私も昨日の夜、そんな感じだった」


まず最初にぶつかるだろうって思ってた障害が、意外とすんなりいってくれたのは本当にありがたい。

ここでつまづいたり、ヨシカが怒って帰る可能性もあったから、第一段階クリアって感じだよね。


「でも、まだ心の底から信じてるわけじゃないから、それだけは覚えておいて?」

「うん、私もそんな感じだから、とりあえず話を進めよう?」

「えぇー、信じてもらえなくてワタシはちょっとだけ悲しいよ」

「いやいや、私とヨシカが普通の反応だと思うよ。むしろ優しい反応だよ?」

「そうだね、ライミちゃんはうちらの器の大きさに感謝した方がいいよ? で、本題はここからだよね」

「そう、ヨシカの将来の話」

「まあうちがシンガーとして成功するかどうかは置いておくとして、うちのせいで戦争が起こっちゃうかもしれないって話」

「ライミがいた未来では、そういうことになってるみたい」

「だとすると、うちはシンガーになっちゃダメってことなの?」

「すごく辛いんんだけど、ワタシが暮らしていた世界では、ヨシカの名前は悪い意味で有名だった。ワタシはもう未来の世界に戻ることはないから、今となっては未来の世界がどうなってもいいんだけど」

「えっ、そうなの? 私はてっきりミッションみたいなのが成功したら、未来に戻るって思ったけど」

「そもそも、未来の世界では人口を減らす必要があって……と、この話は今は関係ないね。ヨシカの話をしよう」

「う、うん。そうだね」

「未来からこの時代にやってきて、ヨシカやハヅキと友だちになって本当に楽しかった。だから、私に課せられたミッション自体はどうでもいいんだけど、この先、ヨシカがせっかく夢を叶えたのに、そのせいで傷ついて、悩んで、辛い思いをするのが本当にイヤなの」

「ライミちゃん……」

「だからヨシカ、シンガーになる夢は諦めて、普通の人として歌を楽しむ人生を歩んで欲しい!」

「えっ、それはちょっと困るというか、どうしよう……」


ハッキリと夢を諦めて欲しいと親友から言われる。ちょっと特殊だけどその理由も説明される。

仮に頭ではわかっていたとしても、そう簡単に諦められるようなものじゃないよね。

だからこそ、私がこれからする話を聞いて欲しいと思う。

正直、上手くいくかどうかわかんないけど、昨日、必死に考えて閃いた抜け道みたいなアイデア。


「ねぇ、ちょっと見て欲しいものがあるんだ」

といって、リュックからタブレットを取り出す。

「まだ詳細なラフって感じの段階なんだけど、これ……」

今日の朝までかかって描いたオリジナルのキャラクター。

「ヨシカが歌ってる姿をイメージしてデザインした、ヨシカのためのキャラクター」

「何これ? かわいい! 確かになんとなくうちっぽい雰囲気があるかも」

「……っ」


ライミは何故か無言だけど、ひとまずヨシカの反応は良かったので話を続ける

「実はね、ヨシカはこのキャラクターで、バーチャルシンガーとして活動して欲しいなって思って」

「バーチャルシンガー?」

「そう、VTuberみたいに、キャラクターとして歌ったり、配信したり、ホールとかでリアルのライブもできて」

「ああ知ってる! うちもたまに聴くし、好きなアーティストも何人かいる!」

「ヨシカが、ヨシカじゃない形でシンガーとして活動したら、ライミが言ってるようなことにならないんじゃないかなって思って!」

「……」

「たしかに、それならうちだけど、うちじゃないもんね。それに、バーチャルのキャラクターが言った言葉は、超有名なリアルのアーティストが言う言葉より軽いよね?」

「っ! たしかにそうかも! バーチャルシンガーという道があったのは盲点でしたー! これなら私が心配してたこともクリアできるかもしれない!」

「よかった! 昨日、徹夜で描いたかいがあったよ! おかげでその後、寝過ごしちゃったけど」

「だから、今日は学校に来たのが放課後だったんだね!』


とひとりきり3人で私の描いたイラストを見ながらワイワイしてると、ヨシカが急に改まって

「バーチャルシンガーとして活動することはわかって、やってみたいとも思うけど、うちはこれから何をすればいいのかな?」

「そうだよね、それは気になるよね。まずは私がイラストを仕上げて、その後で知り合いのLive2Dができる人に動きをつけてもらうね。その時点でVTuber的な配信とか歌ってみたの動画は作れると思うから、まずはそこかな」

「はい! ワタシはYooTubeの設定まわりできます! この時代に転送されるための研修メニューに、その辺りのPCとかソフトの使い方もあったから多分大丈夫なはず!」

「おお、それは心強い! さすが未来人だね!」

「じゃあ、うちが表に出て活動して、ハヅキちゃんとライミちゃんがうちをプロデュースしてくれるって感じになるんだね!」

「そうなると、オリジナルの曲も作りたいよね。もしかしてライミは作曲系のソフトとかも使えたりする?」

「もちろんです! それに、ヨシカに歌って欲しいヨシカのオリジナル曲があって、1曲だけならすぐ作れると思うよ?」

「えっ、ライミちゃんはそれもすでにわかってるってこと?」

「ううん、違うんだ。未来にいた頃、この時代の文化を学ぶ研修があって音楽もいろいろ聴いてたんだ。その中にすごく好きな曲があって、その曲はバーチャルシンガーの人が歌ってたんだよね」

「ってことは、誰かの曲のカバーってこと、ライミちゃん?」

「それが、この時代に来ていろいろ探したんだけど、その曲はまだ世の中にないみたいで、何ならそれを歌っていたバーチャルシンガーも見つけられなくて」

「それって……」

「はい、ワタシが未来で1番好きだったバーチャルシンガーの曲は、これからヨシカが歌うことになる、ヨシカのオリジナル曲です!」

「ええ、そういうこと! ……って、どういうこと?」

「つまり、ライミが聴いたのは、この後バーチャルシンガーとしてヨシカが歌うオリジナル曲ってこと?」

「ええ、なぜかそのバーチャルシンガーは1曲しか曲を発表しなかったんだけど、おそらくヨシカは最初にバーチャルシンガーとして活動した後、生身での活動に切り替えたってことかな」

「その後、ヨシカは生身の方の活動で世界的に有名になったってこと?」

「多分、そういうことだと思うよ。だから、バーチャルシンガーとしての活動を続けた先にある未来は、きっと誰も知らない未来のはず」

「そっか、まだうちの確定してない未来もあるってことなのか!」

「良かったー! どうしよって思ってたけど、なんか上手くいきそうだね?」

「そうと決まれば早くバーチャルシンガーとして活動してみたいから、イラストと楽曲、よろしくね?」

「そうだねー!今日も徹夜しよっかなー」

「だったらワタシも付き合うよ?」

「いやいや、まずは期末試験の勉強でしょ? その後、冬休みも含めて時間あるから、そこでいろいろやろうよ?」


すっかり日が傾いて、夕焼けのオレンジが今にも夜に吸い込まれそうな屋上で、未定だった私たち12月の予定がビッシリと埋まっていく感じがした。

とりあえず今日は帰ったら早めに寝て、勉強は明日からほどほどにがんばろう。


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