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1. プロローグ

気持ちのいい秋風に乗って、旧校舎の方から吹奏楽部の演奏が聴こえてくる。

放課後の屋上から見上げた空の青は、いつもより少し濃いような、少し薄いような、あれ、いつもの空の色ってどんな色だっけ? と思わず我に返ってしまうような……

グラウンドの方から聞こえてくる野球部の掛け声のおかげで少し冷静になれたけど、とにかく私の頭の中は緊張してよくわからないことになっていた。


あれは今日の昼休み。

いつもみたいに仲良しの2人、ヨシカとライミと一緒にお弁当を食べた後、ヨシカがお手洗いに行って2人きりになった。その時、ライミがいつになく真剣な顔で私の顔を見てきたから「あれ? 私の顔に何か付いてる? それとも歯にノリが付いてる系?」って聞いたら、それをきっかけで急に意を決した顔で、

「今日の放課後、1人で屋上に来て欲しいんだ。実はハヅキに伝えたいことがある、的な?」

おお、何もしてないのに急にカウンターパンチを食らったみたいな気持ちになったぞ。だから私はちょっとチャカす感じで、

「あれれー、急に激重テンションでどうしたの? 何か相談があるんだったら今ここで聞くよー?」

って言ったら、ライミは顔を真っ赤にしながら

「ち、違うのっ……! その、ずっと前からハヅキに言おうと思ってた大事な話があって……」

って、下を向いちゃうから、あヤバい、これマジメなやつだった、どうしようってキョロキョロしてるうちにヨシカが戻ってきて、ついでにチャイムも鳴って、昼休みの終わりと共にハイひとまずお終いって感じになったけど、その後の授業は何も頭に入ってこなかった。


あのライミの雰囲気は、私がすごく失礼なことを言ってすごく傷ついたり怒ったりしてるか、それとも実はライミは私のことが好きで居ても立ってもいられないくらいになっちゃって、仲良し3人組の関係が壊れてもいいからって覚悟で告白する決心をしたか、それ以外に考えられるとしたら……

うん、ないよね。ないない。何なら私に対して怒ってるとかもなさそう。だって、心当たり何もないもん。

あの空気感は、もう告白しかないでしょ。

え、だとしたら、私はどうしたらいいの? ライミに「ずっと親友だと思ってたけど、いつの間にか好きになっちゃって……もうどうしようもないくらい好きなの!」とかって言われちゃうの?

うーん、ライミのことはすごく大好きだし、何度も冗談で「彼女にしちゃいたいぜ、コノコノ!」みたい言ったり言われたりしたこともあったけど、それってあくまで「友だちとして」好きって感じだったよね。

まあ今の時代、女の子同士で付き合っちゃっても、そんなに何も言われないんだとしても、私がそうなるってリアルに想像したことなかったから、いざその時が来るとどうしていいかわかんないというか、何というか…


みたいなことをぐるぐるぐるぐる考えてたら、いつの間にかチャイムが鳴って、答えどころか心の準備も何もないまま放課後に突入。


ライミはライミで「今日はちょっと用事があるから先に帰るね」ってぴゅーっていなくなっちゃうし、アレどうしようどうしようってソワソワしてたら、ヨシカも何かを察してくれたのか「うち今日は一人で帰る感じでもいいけど、どうする?」って言ってくれた。

心細くて終わるまで待ってて欲しい気持ちもあったけど、実際、どんなことになって、どんなテンションでヨシカと会えばいいかもわかんないから「え、ちょっと待ってね、えーっと、どうしよう……うん、そうだ、今日は私もちょっと寄るところがあるから、その一人で帰るね、ありがとう!」って言ったら、「うん、わかった! またいつでもいいから何があったか教えてよね?」ってヨシカが言ってきて「違う違う、そういうのじゃないから!」って、何がどういうのかよくわかんないけど焦って答えたら「悩み事だったら、いつでも相談していいからね』って。


今すぐ相談したい気持ちでいっぱいなところを、話が話なのとライミがライミで待ってるだろうから、とりあえず「ありがとう! 後ですごく頼りにするかもだけど、そうならないようにできたらいいなぁ……」って超弱気モード。

でも、いつまでもライミを屋上で待たせるわけにはいかないし、こういうモヤモヤしたのは早く済ませちゃった方が良いことの方が多いから「じゃあまた明日ね!」って感じでヨシカとバイバイしたのが10分くらい前の話。


その後、ドキドキしながら急いで階段を登ったから屋上に着く頃には息が切れてハアハアしてたけど、ドアの前で深呼吸をしまくって、何とか息を整えてできるだけ元気な感じでドアを開けて屋上に出てみた。

そしたらライカはまだいなくて、その時点で私が密かに立てていた「実はその場の雰囲気と勢いで何とかなるじゃない?作戦」は見事に失敗。仕方なく秋風に吹かれながら放課後の学校の音を聞いてた。


ドキドキしたまま少し経った後、階段を登る足音が聞こえてきた。足音が止まったからドアを見ると、ライミが膝に手をつきながらハアハアしてて、その後、何回も深呼吸をするシルエットが透けてるのが丸わかりだったから心底ライミよりも早く着いて良かったなって思った。

息を整えた後、何事もなかったかのようにサラッと元気な感じで「ごめん、待たせたよね?」って来るんだろうな(私がそうしようと思って実際にそうした)って少し構えてたら、案の定、何事もなかったかのようにサラッと元気な感じで「ごめん、待たせちゃったよね?」ってライミが登場。



そんなちょっと冷静になれる時間があったおかげか、近づいてくるライミを見ても意外と冷静で、これならライミの話を聞いた後に自分が感じたことをちゃんと伝えよう! 実は作戦通りにいけそうじゃん! って、その時は思ってた。うん、その時は確かにそう思ってたよ?


私とライミとの距離がどんどん小さくなっていって、ライミが実はガチガチに緊張してるのが伝わってきて、さらに私が思ってた位置よりも半歩近いところで立ち止まると

「…………」

何も言わずに(言えずに)こっちを見つめたまま、

「…………っ」

必死に言葉を口から出そうとしているライミがいて、

「……あのね……ワタシ、実は……み」

ついにライミが伝えたかった想いを口にしようとした瞬間

「ごめんなさい! いろいろ考えたけど、やっぱり私とライミは親友の関係がいい!」

「えっ!? どういうこと?」


おい、数分前の私! 何が「ライミの話を聞いた後に自分が感じたことをちゃんと伝えよう!」だよ!

何が「実は作戦通りにいけそうじゃん!」だよ!

ライミが「あれ、あなた何かすごく盛大な勘違いをしてるよね?」って目でこっちを見てるじゃん!


「あのさ、ハヅキ、よく聞いて欲しいんだ。ワタシは実は……」

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