6.ワイバーンの行方
「ところで、もう1人の……モンテだっけ? 彼の具合はどうなの?」
とりあえず話題を変えようと思って、私はアロイにそう聞いた。
アロイが頷いて答える。
「ああ、一昨日――運び込まれた日の夜遅くに意識を取り戻したよ。魔結晶で増やした分の血が体に馴染むのを待って、昨日の午後には足の骨折と肩の脱臼も治療した。今日1日様子を見て、何もなければ明日には退院できそうだ」
「え、俺の退院は?」
セロの問いにアロイは肩をすくめる。
「セロはまだ治療が残ってる。早くて3日後ってところかな」
「なんで瀕死だったモンテより俺のほうが時間かかるんだよ」
「内臓にダメージを負うということはそういうことだよ」
アロイの返事に、はぁ?と不機嫌そうな声を上げるセロを見て、コイランが小さく微笑んだ。
「骨とか血管というのは魔力を通せばわかりやすいデスからネ。繋がりさえすれば機能しマスし……怪我の具合によっては、周辺の筋肉組織への損傷のほうが治しにくいくらいデス」
内臓は言うまでもないデスね、と言うコイランにアロイは頷いた。
「でも最近、医術院でいいものが開発されたんだよ」
「いいもの? 興味ありマスね」
「テーピング……粘着力のある包帯のようなものなんだけれど、それに組織修復の魔法を込めてあってね、骨折した時の周辺筋肉の損傷とか、捻挫や肉離れ、ひどい打ち身なんかに、皮膚の上から貼り付けると効果がある。内臓にどこまで効果があるかはまだ実験中だけどね」
「あ、今朝、べたべた貼られてたのそれか」
気づいたようにセロが言う。アロイが頷いた。
「悪い作用がないことは確認済みだから実用段階に入ってるけど、何か改善点がありそうなら後で教えてくれ。先輩が作ったものなんだ」
「動きづらい」
即答したセロに、アロイも同じように即答する。
「それは不具合じゃない。仕様だ。そもそも動かさないように作ったものだからね」
「すみませぇーん。狩人組合ですけど」
談話室の入り口から、様子を窺うような若い女性の声が聞こえた。組合で会ったヘンリエッタだ。
しまった。私はまだサンドイッチを食べ終えていなかったし、カップにはスープも残っている。部外者なのに帰りそびれてしまった。
ヘンリエッタの後ろにはグエンの姿もあった。アロイが立ち上がって2人を出迎える。
「どうぞこちらへ。今、モンテ氏も呼びますよ」
「……呼ぶ? もう歩けるのか」
少しばかり驚いたようにグエンが口を開いた。
「ええ。少なくともセロよりは治療が順調に進んでます」
そう言って笑うと、アロイはポケットから通信具を取りだし、どこかに通信を入れ始めた。
「すみません、35号室の……ええ、狩人組合の方がいらしたので、モンテさんを談話室に連れてきていただけますか」
帰りそびれた部外者としては、とりあえず役割を作って片隅で目立たなくしていよう。私は追加のカップを借りてきて、テーブルの上のポットから茶を注いだ。
その茶をヘンリエッタとグエンに差し出しながら言い訳をする。
「すみません……ちょうどセロに頼まれて昼食の差し入れに来ていたんです。お邪魔でしたらササッと片付けてすぐに帰りますが……」
「いや……そういえば嬢ちゃんもあの日、あそこにいたな。別に秘密の会合ってわけでもねぇ。セロの知り合いでもあるようだし、いてくれてかまわねぇよ」
グエンの言葉にヘンリエッタも頷いて、こちらに微笑みかけてくれる。
「お茶をありがとう。狩人組合のヘンリエッタよ。狩人でもあるけど、組合の書類関係も担当してるの」
ヘンリエッタに続いて、グエンもぶっきらぼうではあるが自分の名前を言った。
ヘンリエッタはともかく、グエンとは初対面ではないけれど、今の体で会うのは初めてだ。
「えっと……セロの友人のベルです」
「……ベル? なんだ、セロの知り合いにはその名前が多いな」
グエンが少しだけ不思議そうにそう言った。リナの姿だった頃の私を覚えているのか。ベルナールの体だった頃に会ったことはなかったけれど、ひょっとしたらセロの口からベルナールの名前も聞いていたのかもしれない。
「よくある名前ですからね」
はは、と私は笑った。中身は全部同一人物だけどね!
このやりとりに多少動揺しているのは私だけだろう。グエンは“よくある名前”と聞いて納得していたし、同じように名乗りあっているコイランやヘンリエッタは、そもそも私とグエンに、別の形での面識があることを知らない。アロイはまだ通信で何か話しているし、セロはまだ本調子じゃないのか、心ここにあらずという風情でぼんやりと頬杖を突いている。
ややあって、モンテが談話室に顔を出した。左足が若干不自由そうで杖を突いているが、それ以外は顔色もいいし、挨拶をする声にも張りがあった。
「グエンさん! ヘンリエッタさんも! わざわざすみません!」
2人を見つけるなり、そう言ったモンテに、グエンが立ち上がった。
「馬鹿野郎! てめぇがまず謝って礼を尽くすのは、こちらのコイ……コイラン?……さんとセロだ! てめぇが今生きていられるのはこの2人のおかげだろうが! 2人に礼は言ったのか!?」
グエンの怒鳴り声は、日頃から大声を出し慣れている人間の声だ。狩人という仕事柄もあるだろうけれど、新人の教育係も任されているとセロに聞いたことがあるので、そのせいもあるだろう。
「ひゃっ!」
グエンの声に、モンテがびくりと肩をすくめる。
「そ、そそ、そうです、すみません! セロさんにも昨日は面会できなかったんで……セロさん! すみませんでした! そしてありがとうございましたっ!! あ、あと……そちらは……」
モンテが恐る恐る、コイランとグエンを見比べる。
今のコイランはフードをかぶっていない。室内の柔らかい光にきらきらと輝く銀の髪も、そこから覗く尖った耳先も、魔石のように輝く猫の瞳も、見慣れない者にとっては畏怖の対象になるのかもしれない。
「コイランプトゥキ……どうぞ、コイランとお呼びクダサイ。あなたは意識がなかったので初めましてデスネ。ちょうどあなたとセロさんが落ちてきた時に居合わせたので、治療の手伝いをさせてもらいマシタ」
声変わり前の少年のような、柔らかい声でコイランが言う。
うわぁ!とモンテは目に見えて慌てた。
「エ、エスリールの方ですね! うわ、初めて見ました! じゃねえや、助けてくれたんですね! ありがとうございます!!」
ぺこぺこと頭を下げるモンテに、ヘンリエッタが近くの椅子を引いた。
「じゃあまず、書類を作るから事情を聞かせてもらうわね。当事者のモンテから……」
鞄から紙とペンを取り出して聴取を始めるヘンリエッタをちらりと見て、それまで黙っていたセロが、立ったままだったグエンにも視線を向ける。
「グエン、聞きたいことがある」
「なんだ。あの日の組合での続きを今やろうってんじゃねえだろうな」
片眉を上げてセロを睨み付けながら、グエンは椅子に腰を下ろした。
「ちげぇよ。――最近、ワイバーンの目撃情報ってオスロンの近くであったか?」
その言葉に反応したのはグエンよりもコイランのほうが先だった。
「ワイバーン! そうデス、一昨日の個体はオスロンの手前で西に……内海のほうに進路を変えマシタ」
「そう、さっきコイランはそれが3頭目のワイバーンだと言ってたよな。それまでに2頭、オスロン方面に飛んで行くのを見て、その調査のためにオスロンに向かってる途中だったって。あんなでかいのが3頭も飛んでりゃ目撃情報のひとつやふたつ、ありそうなもんだろ」
さっきまでセロがおとなしかったのは、本調子じゃなかったというより、そのことを考えていたのか。
――でもそうだ。さっきのコイランの説明からすると、これまでに3頭のワイバーンがオスロンの近くに飛来していたことになる。
ワイバーンのような強力な魔獣が街の近くを飛ぶのはとても脅威だ。なんらかの情報が冒険者ギルドか狩人組合に届いていておかしくない。
「もともとワイバーンみたいなデカブツは狩人の範疇じゃねえが……とりあえず見慣れない魔獣と見りゃ狩人組合に連絡してくるやつは多いな。ただ、最近どころか、ここ数年、ワイバーンの目撃情報なんてのは聞いたことがねぇ」
グエンがそう答える。
「ここ数年ってことは……一番新しいのは?」
セロの問いに、グエンがむぅ、と低い声を出す。
「5年前か6年前か……ああ、ちょうどセロが稀人になった時期か。ならおまえは知らねぇかもな。北の方から1頭、オスロンの近くを通って首都方面に向かったのがいた。結局首都も通り過ぎて、イリニア山に向かったらしいが」
グエンが話した目撃情報は確か6年前だ。私がまだ冒険者として精力的に活動していた時期で、冒険者ギルドではワイバーンの目撃情報が出たと大騒ぎになった。それはたまたま首都からオスロンに来る行商人が、道中で見かけたのをギルドに報告したもので、周辺の牧場主からも報告は上がってきた。ただ、どの報告も「すごい早さで北から南へと飛んで行った」というだけで、被害はなかった。
その目撃情報の、大きさと形状、飛ぶ速さ、行商人が感じたという魔力の圧から、おそらくワイバーンだろうと結論づけられたのだ。ちなみに牧場主のほうからは、強い魔力を感じたという報告はなかったはずだ。ワイバーンほどの魔力であっても、遠目に見るだけではそれを感じられないという人間はたまにいる。多分、目の前にいるモンテのように。
「狩人組合に情報がいってないのなら、冒険者ギルドにいってるかもしれませんね」
私がそう呟くと、コイランがそれに反応した。
「そう! 冒険者ギルドがあると聞いてイマス! あとで行きたいデス!」
「じゃあここの話し合いが終わったら案内するよ。現時点であまり騒ぎになっていないってことは、今回も被害がなくて目撃情報だけっていうことだとは思うけど」
言ってから気づく。被害はあったのだ。目の前のモンテとセロに。
ワイバーンは、こういう言い方もどうかと思うが“理性的な”魔獣だ。山間部にいる大型の魔獣やグレートベアのように、人間を見かけたらそれだけで襲ってくるというようなことはない。
だから冒険者ギルドでもワイバーンを積極的に狩ることはしない。もちろん、狩ろうとすればこちらの被害もかなり出るからという理由もあるけれど。
例外的に、人里近くに巣を作ってしまったり、ワイバーンのほうで牧場を餌場と決めてしまったような時には、上級冒険者たちを集めてワイバーン狩りが始まる。数年に1度くらいの頻度だ。
ワイバーンの肉は魔力が多すぎて食用には適さないが、皮革や翼膜、爪、血液など利用価値は高い。何よりも、ワイバーンから取れる魔結晶は、外洋を運航する船の心臓部に使われるのでかなり高額で取引される。
もちろんその魔結晶は、普段私たちが気軽に使うようなものとは違って、消耗品ではない。非常に強い風属性を持つワイバーンの魔結晶に、外から魔力を継ぎ足しながら航行のためのエネルギー源とするのだ。
「さっきコイランも言ってたが、一昨日のもオスロンの上は飛ばなかったな。モンテを掴む前にワイバーンが向かう先をちらりと見ただけだったが……多分、ヴィダスのほうに向かったと思う。その前の2頭も同じかどうかはわかんねぇけどな」
セロがそう言った。
ヴィダスというのは、オスロンから内海沿いに南下したところにある、あまり大きくない街だ。一応、行政上の区分けとしてはオスロン州に属する。オスロンがオスロン州の州都であるのに対して、地方都市という位置づけではあるが、活気のある漁港と良質な鉱山があるので、規模のわりには栄えている街だ。オスロンから馬車でなら丸1日、船や天馬で行けばもう少し早く着くか、というくらいの距離感だ。
セロの言葉を聞いて、グエンが「むぅ」と低い声を出す。
「ヴィダスなら、あっちはあっちで冒険者ギルドの支部があるからな。こっちに情報は来てねぇかもしれん」
「けど、オスロンに比べて上級冒険者は少ない。もし退治する必要が出てきたら、結局こっちのギルドに要請が来るんじゃねえかな」
セロが答える。
とはいえ、現時点では要請は来ていないのかもしれない。少なくとも一昨日の時点では。
一昨日、私もアロイも冒険者ギルドに顔を出している。その時に何の話もなかった。私は今の体がエリノアのものだから、何かあっても要請されることはほとんどないと思うけれど、アロイが回復術師として声をかけられていないなら、一昨日の時点では何もなかったのだ。
過去に2頭飛来してきていて、オスロンに要請が来ていないならヴィダスにも被害は出ていないのだろう。
「ベル、あとで冒険者ギルドに顔を出すなら、ヴィダスの支部に問い合わせるように言ってみてくれ」
セロの言葉に私は頷いた。
「ヴィダスの上空を抜けて大陸側に渡っていっただけならいいんだけどね」
私がそう言うと、コイランが小さく首を傾げた。
「大陸……という可能性は低いように思いマス。何故ならワイバーンが低く飛んでいたからデス」
ん?と私とセロがコイランに目を向ける。
「ワイバーンは、遠くへ飛ぶ時には高いところを飛びマス。一昨日のワイバーンも高く思ったかもしれマセンが、もっと高くデス。多分、他の魔鳥なんかと出会わないようにだと思いマスが、雲の下ぎりぎりを飛ぶんデス。でも、目的地が近い時は低く飛びマス。一昨日の高度は、目的地がすぐ近くのような高度デシタ」
なるほど。ドラゴンとワイバーンを研究しているというコイランがそう言うのならそうなんだろう。
「じゃあ、少なくともヴィダス近郊ではある……のかな?」
私は首を傾げながらそう呟いたが、漁港と鉱山の街にワイバーンというのも、なんだかそぐわないなと思った。
ヘンリエッタからモンテへの聴取が終わり、次はセロの番だった。モンテの話と時系列を合わせながら、ヘンリエッタが聞き取りをしていく。モンテが意識を失ってからの話はセロしか知らないので、モンテも初耳なのだろう。時折、「うひゃ」とか「ひえ、すんません……」とか、小さな声で呟いていた。
私もそのあたりはあまり詳しく聞いていなかったので、セロの説明で初めて知ったこともある。風の妖精を使ったことはコイランから聞いたけれど……。
(風の妖精か……私ならどうしただろう。落ちてくるモンテの体にがっつり障壁を張るくらいしかできないような気がする)
魔法の障壁は、壁のように立てる他にも、体に鎧をまとわせるようなイメージで作ることができる。それは斬撃や直接的な攻撃を防いでくれるけれど、衝撃は吸収しない。だから魔獣の爪や牙、刃物の武器や魔法攻撃そのものは防いでも、“殴られた勢い”は打ち消せないのだ。だとしたら、深く考えるまでもなく、私の魔法障壁ではモンテを守れない。
柔らかい障壁を作ってみたらどうだろうか。……いや、本来の障壁の用途から考えれば、柔らかい障壁というものは用をなさない。自分でイメージできないものは魔法で再現できない。
「……で、回復用の魔結晶も取り出せないし、こりゃもういよいよモンテを諦めるかと思ったところへ、彼女が駆けつけてくれたわけだ」
ひととおりの説明を終えたセロが、コイランに視線を投げる。
その視線を受けてコイランは頷いたけれど、口を開く前に少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
「ただ……ボクが見た限り、えぇと……モンテさんの状態はとても悪くて、セロさんにお願いされても、そちらはもう無理なのでセロさんのほうを先にと言ってしまいマシタ」
失血量だけが問題ならそれは増やせるから、とセロに重ねて言われて、モンテの治療を始めたらしい。
コイランからの説明も聞き終え、ヘンリエッタとグエンは少しだけ視線を合わせて、2人とも同時に頷いた。そして、椅子から立ち上がってコイランのほうへ向き直り、2人揃って頭を下げた。
「コイランさん、ありがとうございました。あなたが通りかかってくださらなかったら、組合員を1人……ひょっとしたら2人、失うところでした。些少ではありますが、こちらがお礼です。お納めください」
ヘンリエッタがそう言って、持ってきていた鞄の中から小さな袋を取りだした。
チャリ、と音がする。こういった場合の相場なんてよくわからないけれど、金貨か白金貨か……まぁそういったものがいくらか入っているのだろう。
「ボクは魔法をひとつふたつ使って、あとは門まで運ぶのを少し手伝っただけデス。命を救ったというのなら、モンテさんを受け止めたセロさんデス」
コイランは慌てて顔の前で何度も手を振り、ついでに首まで横に振っている。
その姿を可愛らしいと思ったかどうかはわからないが、ヘンリエッタがくすりと表情を緩めた。
「もちろん、セロにも同じだけ支払われます。狩人組合の規定なんですよ。なのでご遠慮なさらずに受け取っていただければ、こちらも助かります」
「ほんとに些少だから、つまらない遠慮なんてしないでおけよ。オスロンでの滞在費にでも充ててくれ」
セロがそう言い添える。……ということはセロは金額を知っているのか。組合員だから、それはそうか。
「はぁ……それなら……。あまり遠慮を重ねるのも失礼かと思いマスので、ありがたくいただきマス」
そう言ったコイランにヘンリエッタが微笑んで小袋を手渡した。
「セロの分は医術院への支払いに充てるのでいい? もともと5割はこちらで持つから、余分が出るね。退院したら精算するから、組合に顔出してよね」
ヘンリエッタがそう言いながら、持っていた書類に何かを書き付けている。
「え、じゃあおれの治療費も5割……」
「馬鹿野郎!」
言いかけたモンテの頭にげんこつが落ちた。もちろんグエンだ。
「セロは巻き込まれたから5割だが、てめぇは自業自得だから2割だ。それとは別に、恩人への謝礼金ってのは組合から払うが、その財源は救われた本人の上納金だ。てめぇは退院したら馬車馬のように働くんだよ!」
「ひぇ!? そんな仕組みだったんですね!?」
殴られた脳天をさすりつつ、モンテが情けない声を出した。
魔術師にも一応、組合というかギルドのようなものはあるが、こういった扶助はない。素材や新しい術式の情報が回ってきたり、加盟している店からは少し安く買い物ができたりする程度だ。狩人は獣や魔獣を相手にすることが多いので、当然、怪我も多い。そのための救済措置なのだろう。
モンテの情けない声を聞いて、コイランが持っていた小袋に目を落としている。申し訳なさそうに眉を下げたが、コイランが何か行動を起こす前にセロが声をかけた。
「コイラン、そこで変な遠慮すんなよ。あいつは本当に自業自得なんだから、それはさっさとしまえ。ここで甘い対応するとあいつのためにならねぇ」
「はぁ……そういうものなんデスね。わかりマシタ」
コイランが小袋を鞄にしまうのを見届けて、セロはモンテに視線を向けた。
「おい、モンテ」
「はい! すみませんでした、セロさん!」
「今回のを教訓として……天馬を必要以上に高く飛ばすな。あと、どんな低い高度でも命綱は付けろ」
セロの声は大きくはない(というより、まだ大声が出ないのかもしれない)。ただ、よく通った。
グエンとヘンリエッタも大きく頷いているし、モンテは何度も何度も頷いていた。
「あと、離れた位置でも魔力を感じ取れる訓練を……ん、訓練? これって訓練でどうにかなんのか?」
自分がそれをした記憶がないのだろう。セロは後半を私に向けて問いかけた。
「ああ、魔力感知の訓練はあるよ。もともと大半の人にはそれなりに備わってる能力だけど個人差があってね。冒険者ギルドと提携してる魔法系の私塾に行けば、冒険者向けの手頃な集中講座を受けられる」
私の返事を聞いて、セロは一度頷くとそのままモンテへと視線を投げる。
「だとよ。俺たちは魔獣だって相手にするんだ。魔力感知くらいできるようになっておけ」
「は、はい! わかりました!」
「出費が増えるな、モンテ?」
グエンがハハ、と笑い、モンテは「うぇ」とか「あふぅ」とか、声にならない溜息のようなものを漏らしていた。
魔力感知は本当に個人差がある。……つまり、訓練をしてもさほど伸びない人間もいる。とはいえ、訓練で劇的に伸びる人間がいることも確かだ。
モンテがどちらかはわからないので、とりあえず私は口をつぐんでおいた。




