44.偶然と偶然と偶然
慌ただしく家に戻った私たちと、即席の担架に乗せられたエリノアを見て、リナが悲鳴を上げる。
「エリノアちゃんっ!?」
すぐに駆け寄ろうとして、リナは思いとどまるように足を止めた。大人たちの緊迫した空気を読み取ったのだろう。
「アロイさん、どこに下ろせばいいっスか!?」
ティモの声にアロイが床を示す。さっきまで私の元の体が置かれていた場所だ。毛布が敷かれたままになっている。
「その毛布の上に。ソファよりもそのほうが安定する。骨盤も頭も、大きな出血箇所はもう止血してある。フェデリカ、魂が戻れそうかどうか、様子を見てくれる?」
フェデリカが頷いて、結界の中を探るように手をかざす。
アロイも同じように手をかざすが、すぐに眉根を寄せる。
「……造血の魔結晶も効いているし、回復魔法も応急処置以上のことをしている。けれど、反応が悪い」
アロイの言葉にはフェデリカが応えた。
「おそらく魂が抜けかけているせいよ。魂と肉体は本来なら離れてはいけないものだもの」
――意思は、魂に宿る。魔力もだ。
癒やしの魔法や魔結晶を受けて体が活性化するのは、受け取る側の生きようとする意思や、体内の魔力によるものだとも言われる。
「今のところ、結界に閉じ込めているから魂も完全に離れてはいないけれど……」
そう言いながらフェデリカは姉をちらりと見た。
姉がその視線を受けて、エリノアに走り寄る。床に膝をついてエリノアの手を握りしめた。
「エリノア! 目を覚まして! お願い……離れていかないで!」
私もその横に膝をついて声をかける。
「エリノア、リナと一緒に学校に行くんだろう!? 戻っておいで!」
魂がまだ離れきっていないなら、家族の呼びかけに反応するかもしれない。フェデリカはそう思ったのだろうが、フェデリカは緊張した顔のままだ。
「リナも一緒に呼びかけてやってくれないか。魂が戻ってくれないと、僕としても……」
アロイは途中で言葉を切った。手の打ちようがない、とでも言うつもりだったのだろう。ただ、姉と私を慮ってそれは言わないでいてくれている。
リナはアロイに頷いて、エリノアの近くに行くと、姉が握っているのとは反対側の手を握って名前を呼んでくれる。
「エリノアちゃん! あたし、もうすぐ元の体に戻れるから! そうしたら一緒に学校行こう!」
「その間にセロの処置だ。セロ、ダイニングの椅子に座って」
言いながら、アロイは自分の鞄の中を探って、白い包帯を取り出した。
「痛いには痛いが、俺のは後まわしでも……」
見ると、さっきまで白かったセロの両手はまだらに赤くなっている。
「だめだよ。雷の熱傷は内側から焼ける。表面が軽傷に見えても、筋肉や血管は焼けてるんだ。そのまま時間が経つともっとひどくなって障害が残る。――ほら早く」
アロイに急かされてセロがダイニングの椅子に座る。その両手を軽く持ち上げて、アロイが検分するように角度を変えながら見つめる。
「……手袋なしでとっさにやったにしては、いいコントロールだ。【天の泉の清冽な冷たさ、生命の中の小さき生命、循環と再生と賦活、沁みわたれ、癒やしの水よ】。――手のひらから肘近くまでやられてるんじゃないかと思ったけど、手首の少し上くらいで止まってるね」
「途中でおまえが回復魔法を使ってくれたからな。それに、攻撃に使うような雷と蘇生に使う雷とでは威力が全く違う。それを使い分けられるようにするのが、年に2回の講習の中身だ。……お、痛みはひいてきたな。サンキュー」
そう言ってセロは手を引こうとしたが、アロイはその手を離さない。
「まだだよ、セロ。僕が何のためにこの包帯を出してきたと思ってるんだ」
アロイが手にしている包帯は、ごく普通の白い木綿の包帯に見えた。
「なんだよ、回復魔法のあとに包帯なんて聞いたことねえぞ。そもそも傷なんてねぇだろ」
不満をもらすセロを無視して、アロイはセロの手に白い包帯を巻き付けていく。指1本ずつ、先端から丁寧に巻いて手首の少し先まで。
「これは再生の術が込められた包帯だ。さっきも言ったけど、普通の熱傷と違って雷は内側から焼ける。今の詠唱と合わせて、これでゆっくりと中からきれいに治す。――指先に後遺症なんて残ったら仕事に影響するだろう?」
そう言われたらセロも反論はできないらしく、おとなしくもう片方の手も包帯を巻かれていた。
「痛くはねぇけど……なんかむずむずするな、この包帯」
「皮膚の下でじわじわと細胞が再生していってるからね。――よし、巻き終わった。【遂行、そして防水】」
アロイの最後の言葉と共に、包帯の境目が薄くなったように思う。ざらついた木綿のように見えていた質感も、少しだけつやが出る。
「これで一応、それを付けたまま手を洗ったり風呂に入ったりしてもいい。頃合いを見て僕が外すけど、4日か5日くらいはそのままで、なるべく指先には力を入れないように」
「……え、それ難しくね?」
「というか、そもそもしばらく指先に力が入らないと思うよ。――フェデリカ、そっちはどう?」
自分の両手を見たまま、「えぇ……」と不満げに呟くセロをそのまま放置して、アロイはエリノアと、彼女を囲む私たちの元へ戻ってくる。
ティモはエリノアを下ろしたあとは所在なさげに立っていたが、セロに手招きされて、ダイニングの空いている椅子に腰を下ろした。
「……だめね。怖がってるのかもしれない」
近くにきたアロイに、フェデリカが小声でささやくように言う。何が、とは言わないし、決定的なことを言っているわけではないけれど、私の背筋に冷たいものが走る。
フェデリカが言うのはつまり……エリノアの魂が体に戻れない、と……そういうことだろう。
私の隣で、姉が力なく、けれどすがるように呟く。
「エリノア……」
姉の声はまるで祈るようだった。
「で、でも、心臓も動いて、呼吸も戻って、大きな傷は止血したってさっきアロイが……」
回復魔法は万能じゃない、と以前アロイは言っていた。あの時は、治せない病気だってあるというような流れだったけれど、外傷も本当はそうなのだろう。手を尽くしても、こぼれ落ちていく命がある。自分の身内だけは例外だなんて……そんなはずはない。
今はフェデリカの結界で、エリノアの魂は肉体の近くにいる。けれど、私やリナのように魔法で輪郭を定めていない魂は、完全に離れてしまえば霧散してしまう可能性が高い。
「……魂が無意識に体に戻るのを怖れているというのなら、理由はわからなくもない。まだ年若い女の子が大怪我をして瓦礫の下の暗闇に閉じ込められて、大量の出血と……障害が残るほどではないと思うけど、おそらく軽い脳挫傷がある。頭蓋骨には一部ヒビも入っている。ひどい頭痛と吐き気、下半身の激痛と薄れゆく意識。死ぬかもしれない、と思ってしまったんだろう。自分はもう駄目かもしれない、そんな恐怖は肉体と魂の結びつきを弱めるよ。体に戻っても痛くて苦しいだけなら……と、そう思ってしまうんだ」
アロイは医術院でそういう例をいくつも見てきたのだろう。フェデリカのように、魂を可視化できる魔道具がなくとも、癒やしへの反応で、魂が離れかけていることに気づくのかもしれない。
「……魂が、入っていればいいの?」
私はアロイにそう尋ねた。
「え? そうだね。魂が入ってさえいれば癒やしへの反応がある。造血の魔結晶への反応もよくなる。改良したあれは本当によく効くんだ」
アロイの返答を聞いて、私は頷いた。
「わかった。私が入るよ」
「……は? いや……ひょっとして……可能なのか?」
アロイの質問は私へのものではない。視線はフェデリカに向いていた。
「可能ね。――むしろ、今の状況を打破するなら唯一の方法かもしれないわ」
フェデリカの声を聞いて、それまでエリノアの手を握りしめて祈り続けていた姉が顔を上げた。
「……なに? エリノアが助かる方法があるの? 何でもいいわ、お金だっていくらかかったっていい、助けて……娘を助けて……っ!」
私はそっと姉の手を握った。
「姉さん。これから行われることは秘術の類なんだ。姉さんは高等院で魔術専門ではなかったからあまり聞いたことはないかもしれないけれど、魔術師の間では禁忌と呼ばれることが行われる。それでもいい?」
その問いに、姉は間髪を入れず頷いた。
「いいわ。それでエリーが助かるのね?」
「絶対とは言えない。でも、今一番可能性が高いものだと思う。――そしてここからが大事なんだけれど、この秘術がうまく行けば、エリノアは人形の体に入ることになる。もちろん仮にだ。しばらくしてエリノアの肉体が回復したら元に戻すよ。そして、それまでの間、エリノアの体には私の魂が入る」
姉の手を握りしめる手に、私は力を込めた。姉が冷たい手で握り返してくる。私の手を両手で包み込むようにして。
「……待って。じゃあエリノアの体が回復するまでの間、あなたが身代わりになるっていうことなの?」
ふるふると、姉は小さく首を振る。身代わり、と自分が発した言葉におびえているようにも見える。
「そういうことだね。年頃の姪の体に入るのは少し気が引けるけれど……幸い、私は女の子の体に入るのは経験がある」
最後は冗談めかして言ってみたけれど、姉は手を離してはくれなかった。
「待って……待ちなさい、ベルナール。だめよ、そんな……わたしが代わるわ。そうよ、身代わりが必要だというのなら、わたしがその身代わりになる! その秘術を行うのはフェデリカさんね? フェデリカさん、魂が必要ならわたしの魂を使ってちょうだい!」
私の手を握ったまま、姉はフェデリカを見上げる。
フェデリカはゆっくりと首を振った。
「アンネリースさん、駄目なんです。ベルナールの魂は、リナちゃんとの入れ替わりのために下準備をしていました。肉体から離れても存在を保てるように、3日かけて魔法を馴染ませてあるんです。――ベルナール、本当にいいのね?」
「いいよ。今の私の心配は、エリノアの魂が、私の魔力で染めた人形に入れるかどうかっていうことだけだ」
本来は自分の魔力で染めた人形に入る。さっきリナの魂を移動させた時に、フェデリカは呪文の中で「自らの魔力を依り代として」と言っていた。
「それは心配ないと思うわ。あなたたちは血族だから。血が近いと魔力の系統が似るのよ。今ある結界を広げて人形を中に入れれば、肉体から離れて霧散する前に人形に入れると思う」
「君の魔力は足りる?」
私の質問にフェデリカは微笑んだ。
「アロイさんの魔力回復薬が効いているわ。何もかも、偶然が味方したわね」
ソファに置いてあった人形をティモがエリノアの隣に運んでくれた。フェデリカがエリノアにかけてある結界の魔法を広げて、人形を結界内に取り込む。
「……最悪の場合でも、人形に魂が入り込めればエリノアちゃんの魂を救うことだけはできるわ」
そう言いながらフェデリカはちらりと私を見る。だから無理してエリノアの肉体に入ることはないと言いたいのかもしれない。
「わかってる。でも、今ここにはアロイがいるんだ。エリノアが事故に巻き込まれたことは不幸だったけれど……君の言葉を借りるなら、何もかも偶然が味方している。優秀な回復術師がいて、雷撃蘇生ができる妖精使いがいて、瓦礫を持ち上げられる怪力の戦士がいて……そして魂を扱える君がいて、私の魂は下準備が済んでいる。魔力で染め終わった人形が既にあるのも幸いだね」
私の覚悟を感じたのか、フェデリカは小さく頷いて例の立体魔法陣を手にすると、呪文の詠唱を始めた。
「【解かれた結び目、かすかな糸で繋がり、揺蕩う魂。人型の魔力を標として、自らに連なる血族の魔力を依り代として、来たれ、現世の魂よ……】」
エリノアの魂は可視化されていないので、移動したかどうかは私たちに見えない。
けれど、フェデリカが小さく息をついた瞬間、のっぺりとした巻き毛の人形に色がついた。
髪は濃い金色になり、肌も血色のよい薄いピンクに変わる。
「エリ……エリノア……?」
震える声で呟きながら、姉は人形に手を伸ばした。
さっきまで白い石像のようだった人形は、今では幼い頃のエリノアだ。私もあの年頃のエリノアに見覚えがある。
「……っ」
エリノアは目を閉じたまま一度、ほんの少しだけ顎を上げた。その後は、すぅっと穏やかな寝息に変わる。リナは意識を保ったまま移動したので、人形の体ですぐに声も出せたし体も動いたけれど、エリノアは意識がない状態で移動した。その違いかもしれない。
「アンネリースさん、大丈夫。今、エリノアちゃんの魂はその中にあります。魔力が馴染めば……おそらく1日か2日程度で目覚めるかと。これは言ってみれば、人の形の使い魔に人の魂を入れるものなので、元に戻るまではあまり人目に触れさせないほうがいいんですが……ご家族への説明はまかせます」
「あ……ああ、ありがとう……ありがとう、フェデリカさん!」
姉は涙ながらに人形を抱きしめた。
「さて、ベル。君の番だけど……」
安堵にあふれた姉の泣き声が響く中、アロイは冷静な声でそう言って私を見つめた。
「うん」
「……さっきも説明したからわかってると思うけれど、この肉体はかなり傷んでいる。そして今すぐに全てを治療してしまうわけにはいかないんだ。大きな回復魔法には反動があるって話をしたのを覚えてる?」
アロイの問いに私は頷いた。
「もちろん。そしてさっきアロイは、一番出血の多かった傷は止血したって言ってたよね。それだけでもそれなりの反動はありそうだ」
「チェックした限りでは、骨盤の骨折とそれに伴って周囲の動脈と神経が傷ついている。あとは頭蓋骨のヒビと軽い脳挫傷、背中に打撲もあるけれど、幸い、内臓はほとんど傷ついていない。そして蘇生と命を繋ぐことを最優先にしたので、骨折と頭の傷はまだ治していない。だからエリノア嬢の魂は耐えられなかった」
そこまで言って、アロイはエリノアの体にそっと手を触れる。もう魂が抜けてしまった私の姪の体に。
エリノアの腕を優しく撫でて、アロイが続ける。
「ただ――僕を信じて欲しい。とんでもなく痛くて苦しいかもしれないけれど、君は死なない。僕が必ず助ける。君の魂がこの体に入ったことを確認したらすぐに、強力な痛み止めの魔法を入れる。その魔法が効くまで数秒、絶対に『死ぬかも』なんて思わないでくれ」
「君を信じるだけでいいなんて、とても楽な役回りだ」
格好をつけたわけではない。私は本当にそう思っている。
これから移る体には、とてつもない痛みが待っていると言われれば、それは確かに少し怖い。いや、少しどころじゃなく怖い。けれど、アロイが死なないというのなら、どんなに痛くても苦しくても死なないのだ。私はそれを信じられる。アロイの言葉は、私にとって一番心強い命綱だ。
「ベルさん……」
リナが複雑な表情で近づいてきた。私の手をそっと握る。
「気をつけて……ううん、違うね、がんばって……? こういう時はなんて言えばいいの?」
「それは私にもわからないや。でもリナ、少なくとも君は本来の体に戻れるよ」
私がそう言って微笑むと、リナは少し怒ったような声を上げた。
「今そんなことどうでもいいの! ベルさんが……無事でいてくれるなら」
「私は絶対に死なないから、もしものための遺言なんてしないよ、リナ。でも、多分エリノアの体に移ったら、しばらくは治療のために入院が必要になると思う」
そうだよね、とアロイに視線を向けると、アロイは黙って頷いた。
だから、と私はリナに向けて続ける。
「その間、店のことはリナに頼みたい。もちろん閉めたままでもかまわないけど、せっかく新商品も揃ってきたところだからね、できれば店頭に出してる分を売るぐらいはしてほしいかな、なんて思ってるよ」
「わ、わかった! そうだよね、湯沸かしカップは今が売り時だもんね! あたし、がんばるから!」
ぐ、とリナは握った手に力を込めた。
「ベルナール!」
そう声を上げたのは姉だった。眠り込んで、ふにゃりと柔らかくなっているエリノアの顔をした人形を片手で抱きしめながら、もう片方の手で涙をぬぐって続ける。
「わたしもお店を手伝うわ。あなたのお店の経理も全部見直すし、仕入れの計算も全部やるわ。魔道具や魔結晶は作れないけれど、仕入れて売るだけならわたしにもできる。それぐらい……やらせて。ベルナール……ごめんなさい、本当に……本当にありがとう……」
せっかくぬぐったのに、姉の頬には新しい涙が流れてくる。
「姉さんが店を見てくれるなら私も安心だ。……さ、店の心配は無くなった。フェデリカ、アロイ、頼むよ」
フェデリカがまた結界を広げ、私をその中に入れる。フェデリカの結界に包まれると、なんだか涼しい風が吹くような心地がする。
魂が抜けた後に体が倒れてはリナの体に傷をつけてしまう。私はエリノアの体の隣にそっと横たわった。ほんのりと温かみが残るエリノアの手をそっと握る。
横たわって、少しだけ頭を巡らせると、カーテンを開けたままの窓が目に入った。もう夕暮れだ。
がたり、とダイニングで音がした。そちらのほうへ頭を巡らせると、ティモが立ち上がっていた。
「あ……ベルさん、あの……」
「ティモ、ありがとう、エリノアの体を助けてくれて。あんな大きな石が持ち上がるなんて思わなかったよ。その後、担架を作ってくれたのもとても助かった」
私の言葉に、ティモはなんだか少しもじもじしたように頭に手をやり、そして小さく頷いた。
「ウッス……」
ティモは何かを言いたかったのかもしれない。でも結局何も言わず、また椅子に座り直した。
ティモの向かい側にはセロが座っている。
「セロもありがとう。君の雷撃蘇生がなければ、こうやって私がエリノアの体を救う機会すらなかったかもしれない」
そう言うと、セロは包帯を巻いた手をひらひらと振った。
「遺言じゃねえんだろ、さっさとやってもらえ。入院したら見舞いには行ってやる」
「それもそうか。お礼なんて後でいくらだって言えるね」
「そうね、大げさにすることでもないわ。感傷に浸るのはあとにしてちょうだい、ベルナール。――いくわよ。【解かれる結び目、巻き戻される糸車……】」
フェデリカの詠唱が始まる。もぞり、と体が浮き上がるような感覚があった。
――いや、違う、これは体じゃなくて魂が浮き上がっているのか。さっきまでエリノアの手を握っていたはずなのに、その感覚がなくなっている。
「さっきのベルの……なんかフラグみたいじゃなかったか?」
「しっ! セロさん、ダメっスよ、そういうこと口に出したら!」
セロとティモの会話が耳に入る。
フラグって、確かニホンで使われる言葉で……って、違うからね! フラグとかじゃないからね!!?
「【……自らに連なる血族の魔力を標として、自らが望む依り代へと、来たれ、現世の魂よ】」
フェデリカの詠唱が終わると同時に、手に感覚が戻ってくる。
それは、握っている感覚ではなく、“握られている”感覚だった。




