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【第2章完結!】美少女店主はおっさんに戻りたい!~異世界転生の行き先はこちら~  作者: 松川あきら
第1章

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エピローグ


 商業区の片隅にある小さな魔法屋。取り扱う商品は、回復の魔結晶や荷物圧縮の袋、登録した場所に荷物を送れる転移陣、その他もろもろ……つまり魔術師じゃなくても扱える、便利な魔法に関するあれこれを売っている。


「獣除けの魔結晶1つと暖房の魔道具2つですね、いつもお買い上げありがとうございます」

「ありがとう。ベルちゃん、いつも偉いね。そういえば叔父さんが帰ってきたんだって?」

「はい! 今はちょっと……奥の部屋で作業中なんですけど、無事に帰ってきました!」

 何度か店を訪れてくれている行商人の客にそう笑って見せると、うん偉い偉い、と頷きながら店を出ていった。

「はぁ……」

 客は途切れた。

 “帰ってきた叔父”のことを思ってため息をつく。


「きゃーっ! ベルさぁん! 大変! 魔結晶がなんかふくらんで……!?」

 奥の部屋から成人男性の悲鳴が聞こえた。客が途切れていてよかった。

「ワォン!」

 なんだか警戒するような犬の声もする。

 ポフッ、と小さな破裂音がして、それと同時にまた成人男性の悲鳴が聞こえる。

「やだもう! また失敗したー!」

 “帰ってきた叔父”の声だ。


 ちりんちりん、と店の扉に取り付けた鈴が鳴った。

「いらっしゃ……」

 半ば反射的に声を上げてから、あらためて入り口に立つ人物に目を向ける。

「……いらっしゃい。2人とも」

 入ってきたのはセロとアロイだ。


「ひゃ! もう、何これぇ!!」

「ワン! キャウン!」

 奥からの声が途切れない。

「こんにちは。……なんか、作業スペースから変な声が聞こえるね?」

 アロイがちらりと奥のほうを見る。

「ちょうどよかった。アロイ、奥でリナが魔結晶作りに失敗してるから、ちょっと見てあげてくれる? あと、あまり大きな声を出すとお客さんに聞こえて、妙な誤解を受けるからって……」

「いや、でも元のベルナールもあんな悲鳴あげてなかったか」

 リナへの注意事項を言い添える私に、セロが言う。

「まさか!」

「あまり違和感ねぇけど」

「あるよ! 行方知れずだったけど、戻ってきたらベルナールさんはちょっと変わったわね? なんて、近所の奥様たちに噂されてるんだからね!」


 私の主張を聞いているのかいないのか、セロはカウンターの中に入ってきて、素材取引用のテーブルにいくつかの紙袋を置いた。

「なに? 魔獣の素材? 今はクロナガネズミの肝臓があれば嬉しいけど」

「ちげーよ、昼メシだよ。さっき冒険者ギルドでアロイにばったり会ってさ。午後はリナに勉強を教えに行く予定だって言うから、じゃあベルの店ももう少しで昼休憩に入るし、ここで昼メシにしようぜ、って2人で買ってきたんだ」

 わお。いつの間にか昼の予定が決まっていた。でも食事を買ってきてくれたなら、私には何の文句もない。

 実際、もうすぐ昼だ。客も途切れたことだし、少しだけ早いけれど、私は店の扉に『休憩中』の札をかけた。


 セロが買ってきた平パンサンドは、丸くて平たいパンの中央に具材を挟んで、パンを2つに折ったものだ。肉や魚、野菜を挟んであるのが普通だが、今日、セロが買ってきた中には、あまり見たことがないものも混ざっていた。

 人数分のお茶を淹れて、セロがテーブルの上に広げた何種類もの平パンサンドを見る。

「セロ、その茶色いのなに? あと、そっちのオレンジの……」

「これは焼きそばパンだな。オレンジ色のは……」

 オレンジ色の何かが挟まったパンをセロが手に取る。

「あー! ナポリタンパンだ! あたし、それ好き!」

 アロイにつれてこられたリナが嬉しそうな声を上げる。反応は可愛らしいが、声も体もベルナールだ。


 セロの返事とリナの反応を聞いて、私は驚く。

「焼きそば!? ナポリタン!? だって、それは両方とも主食じゃないか。麺類だろう? 麺をパンに挟んだってこと?」

「まぁ、騙されたと思って食ってみろよ。気に入らなきゃ他のもあるから」

 セロが私に焼きそばパンを渡し、リナにはナポリタンパンを渡す。

「ベルさん、ナポリタンのも半分食べてみる?」

「じゃあ、焼きそばパンと半分ずつにしようか」

 ナイフでそれぞれを切り分けて、半分をリナと交換する。リナと一緒に来ていたモモがうらやましそうな顔をするので、肉が挟まったパンをモモの皿に入れてあげた。


 焼きそばもナポリタンも稀人がアレンジしたメニューだ。原料が小麦なので、似たような麺類は以前からあったが、味付けに使うソースとケチャップは稀人が開発した。

 アロイが言うには、料理に関しては専門知識がなくてもなんとかなるものが多いし、最近は物流が飛躍的によくなって原材料が手に入りやすくなったことも含めて、調味料や新メニューを開発する稀人が多いらしい。

 焼きそばやスパゲティは手軽な食事として提供する店が増えたけれど、それをパンに挟んで食べるのは予想外だった。疑いの気持ち半分で、焼きそばパンを口に運んでみる。ソースはもともとほんのり酸味があるけど、何か違う味も……そうか、マヨネーズか!

 焼きそばだけをパンに挟んでいるのかと思いきや、マヨネーズも入っていた。味の濃い焼きそばに、さらに酸味とまろやかさを加えて、これは満足感がある。

「うわ、おいしい……」

 思わず呟いてしまう。

 主食と主食なのに……!


「あ、雪が降ってきたね」

 窓の外を見て、アロイが呟く。つられて、私も窓のほうを見た。ちらほらと白いものが舞っているのが、ガラス越しにも確認できる。ここ数日、冷え込んできていたからそろそろだろうと思っていたけれど、オスロンも冬か……。

 もう12月に入っている。

 つまり、あの日から1ヶ月だ。


 あの日、私とリナの魂の入れ替えは失敗した。モモにじゃれつかれたリナの魂が、ふよふよと漂って、ベルナールの体に近づいてしまったのだ。それに気づいた私がリナを引っ張ろうとしたのだが、間に合わなかった。

 ベルナールの体にリナの魂が吸い込まれ、それを見てがっくりしたことで、私の魂の力も弱まったのか、リナの体に吸い込まれてしまった。



 ――1ヶ月前。

「やだーーーっ! おじさんの体ーっ! うわーん!」

 目を開けて、開口一番、リナはそう叫んだ。

 気持ちはわかる。申し訳ない、私がおじさんであったばかりに……いや、そこを謝るのもおかしいな。

「もう! モモったらぁ! ステイって言ったでしょ!?」

 クゥン、とモモがしょげたような声を出す。

 泣きながら怒るおじさんに当惑したように、モモがちらりと私のほうを見る。だが私は助けてあげられない。モモがじゃれついたから、というのは揺るぎない事実だ。


「まぁ……惜しかったわね」

 フェデリカがそうつぶやきながら、結界を解除した。

「実際、魂が離れることはできたわけだから、もう1度チャレンジするってことは可能?」

 アロイが尋ねるが、フェデリカは首を振った。

「ベルナールの動きを見た限り、もう少し術式を改良したほうが良さそう。ベルナールは運良く離れられたけど、今度はリナちゃんも人間の体に入ってしまってるもの。さっきも言ったけど、人間の魂が人間の体から離れる時が、一番、抵抗が強いのよ。年齢的に考えても、リナちゃんの魂のほうが少し弱いと思うから、次は慎重にいきたいわ」


「でもほら……なんつーか、犬の体よりはおっさんの体のほうが……?」

 セロが珍しく気を遣うように、リナのほうをちらりと見る。

 私も同じ気持ちで、リナを見た。

 フェデリカとアロイも、「そうね……」とか「まぁ……」とか言いながら、リナをちらちらと見ている。

「うぐっ! そ、それは……それはぁ、そうだけどぉ……でもぉ……!」

 泣きじゃくる成人男性を、大人2人と少年少女が総出で慰めるという、尋常ではない光景が繰り広げられた。

 クゥン、と黒い犬が服従と反省の“伏せ”をしていた。



 新しい術式が完成したら、絶対にリナちゃんを助けてあげるからねと言って、フェデリカは首都に帰っていった。リナにそう約束していたが、私には何の約束もなかった。ただ、リナを助けるということは私もついでに助けてくれるのだろうから、それについては何も言うまい。

 異性の体に入ってしまった魂同士ということで、リナにはセロがいろいろと教えていた。曰く、もとが私の体だからといっても、年端もいかない少女に私があれこれ教えることは“セクハラ”というやつに当たるそうだ。

 アロイは、リナが落ち込んでいる間に、季節外れだけど入手できたからと言って、リナが気に入っていたサイベリーを持ってきてくれた。


 それから10日ほどでリナは立ち直って、魔結晶の作り方を教えてほしいと言い出した。

「だってしょうがないじゃん。犬よりはいい、って本当だもん。それに、人間の体なら魔法が使えるんでしょ?」

 リナはそう言った。

 本人が開き直るなら……少なくとも、開き直っているように見せるなら、周りであれこれ言うのも鬱陶しいかもしれない。


 私はまず魔力の扱い方や簡単な魔法をいくつか教え、ここ数日は魔結晶の作り方を教えていた。まだ時々、今日のように失敗しているが、リナは覚えがいい。ひょっとしたら、私の体のほうからなんらかのコツを引き出しているのかもしれない。

「ね、アロイさん、午後からは別の魔結晶作ってみたい!」

「リナはまず、さっきのを成功させたほうがいいんじゃない?」

 アロイがそう言って笑う。


「そうだ、練習用の欠け魔結晶も持ってきたぜ。狩人仲間に言ったらみんな集めてくれたんだ」

 片手に白身魚のサンドを持ちながら、もう片方の手でセロが荷物を探る。ややあって、小さな袋をテーブルの上に出した。

 採取する時に欠けてしまったり、もともとのサイズが小さいものは、あまり良い値がつかないので、狩人や解体業者は捨ててしまうことが多い。それで魔結晶を作っても売り物にはできないが、作成の練習には問題ない。

「わ、ありがとう、セロさん!」


 少しばかり普通と違うところはあるが、穏やかな新しい日々が始まっている。

「ねぇ、ベルさぁん。新しい魔法覚えたいー!」

「なぁ、ベル。やっぱ通信の魔道具を改良してほしいんだけどよ」

「ベル、今度、解毒の魔結晶も作ってみようかと思うんだけど、毒のサンプル用意してくれない?」

 ……穏やかに! 過ごさせてくれ!!



<第1章・完>



これにて第1章は完結です。読んでいただいてありがとうございました!

第2章や番外編などをこちらに続けて書いていく予定なので、よろしくお願いいたします。

現在構想中&執筆中なので、投稿はしばらく先になりますが、その時にはぜひ!

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― 新着の感想 ―
稀人という設定を深く作っているから物語がドシッとしてて良いですね。 かなり面白かったです!
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