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【第十六話】決戦のバレンタイン(仮カレ再び)

 二月。とうとうやってきた。バレンタインまであと二週間。私は迷っていた。一樹にチョコレートを渡しべきなのか。義理チョコと言っても渡せばまひるちゃんになんて言われるんだろう。でもなんと言われようが私には関係ない?

 私は自分の気持ちを整理しようと、まひるちゃんに相談をすることにした。

 

「まひるちゃん。ちょっといい?」

「一樹の部屋に行こうとしていたまひるちゃんを呼び止めて、一樹には女の子同士の話だから、と言って廊下で二人きりになった」

「なんですか?あ、もしかして例の人の話ですか?ほら。この前言ってた気になる人って話です。バレンタイン近いですもんね」

「うん。そのことなんだけど……。ほんっとに悪いんだけど、もう一回だけ一樹、貸してもららえないかしら」

「どうしたんです?なにがあったんです?」

「自信がないの。私。その人すっごい強力なブレーキ持ってて。私なんかが言っても聞いてくれるか分からなくて。まひるちゃんならどうする?そういう人って」

「そうですね……。押し切りますかね。一ノ瀬先輩の時みたいに」

「そう」

「それで、一ノ瀬先輩を借りたいって話なんですけど、明日だけなら良いですよ。また予行練習とかそういうのですよね?」

 まひるちゃんは、いともあっさりと一樹を貸してくれると言ってくれた。

「ほんと?助かるわ。当たって砕けろって言うのはわかってるんだけど、どうしても、ね」

「分かります。そういうの」

 大丈夫。一ノ瀬先輩は私の事だけ見てくれてる。香織さんが何をしても大丈夫。それにこれは一ノ瀬先輩の試練でもあるの。私の事を本当に好きでいてくれるならきっと……。

 

 明日、一日か。私は私の答えを見つけることは出来るのだろうか。

 

「一樹、おはよう」

「ああ。おはよう」

 私たちは朝ご飯を食べる。そして。

「一樹。今日一日付き合ってくれない?」

「え?まひるちゃんになんか言った?言ってないなら聞いておかないと」

「大丈夫。昨日話をしたから。なんなら確認してみて」

 一樹にここで断られたらどうしよう。そんな気持ちでいっぱいだったけども、まひるちゃんに確認をした後に、何の気なしに「いいよ」と言ってくれた。一樹は私の事、どう思ってるんだろう。やっぱりただの仲の良い友達?私にとっての一樹は何なのだろう。同じように仲の良い友達って思ってるのかな。今日はそれを確かめる。

 

「一日付き合うってどこに行くんだ?なんか考えてるんだろ?」

「一樹って博物館とか興味ある?」

 

 私たちは野上のある国立の博物館に来ている。興味ある?と言う質問には、どうだろう?という答えだったのに、実際に来てみたら子供のようにはしゃいでいる。ここ、悠仁も大好きなところだもん。男の人はきっと好き。そう思ってここにした。

 

「一樹はさ。なんで今日付き合ってくれたの?」

「なに?香織が付き合ってくれって言ったから?それよりこれ見ろよ。馬鹿でかい松ぼっくり。こんなのあるんだな」

 特に引っかかる事も無く帰ってくる返事。素直に「私の事どう思ってるの?好きなの?」って聞ければ良いのに。でも一樹のブレーキは多分すごく強い。仮に私の事を気にしていても、まひるちゃんを優先するだろう。って、なにを考えてるんだろ私。一樹が私の事を好きって言ってくれることを期待しているみたい。


「一樹はさ。今日の私を見てどう思う?」

「どうって。いつもと変わらないかな」

 気が付いてくれない、か。今日は化粧もしてきたし、髪型もちょっと変えてきたんだけどな。一樹のとっての私はその程度の存在。なんか安心した。自分の中での一樹の存在が大きくなっていったらどうしようかと思っていたけど、気のせいだったんだ。でも……。

 それからの時間は一樹と一緒に色々なものを見て、レストランで同じものを注文して。最後に池でスワンボートに乗った。


「一樹はさ。私の事、好き?」

「なんだ急に。どういう意味の好き、次第じゃないか?」

 とうとう聞いた。聞いちゃった。

「どういう意味。ねぇ。じゃあさ、それが恋人になりたい、の好きだったらどうする?」

「どうしちゃったんだよ香織。今日の香織なんか変だぞ。それって告白なのか?」

「そう聞こえた?」

「そりゃ、恋人になりたい、の好き、だったらなんて言われたら誰だってそう感じると思うぞ?」

「じゃあ。その答えは?」

「聞きたいか?」

 私は無言でうなずく。ここで断られたらそれでお仕舞い。私の気持ちも白黒付く。仮にいいよって言われたらどうしよう。

「まひるちゃんに悪いかな」

 悪いかな。つまり、誰とも付き合ってなければ、オーケーということなの?

「そうね。悪かったわ。意地悪な質問して」

「まひるちゃんに言われたの?僕を試してきてって」

「バレちゃったか。まぁ、そんなところ」

「だよなぁ。じゃなかったら香織があんなこと言わないよな。正直、びっくりしたよ」

「じゃあ、こういうことされても大丈夫ね?」

 そういって私は自分の気持ちを確かめるように一樹の腕に自分の腕を絡ませていった。

「っと。それはちょっと反則かな。なんか当たってるし」

「そういうことは直接言わないの。ラッキーとか思ってなさい」

 なんかこうしても一樹は私の方を向いてくれない気がして安心したような落胆したような、複雑な気持ちになった。

 帰りの電車ではドア際に立っていたけども、一樹は車窓を眺めていて私を見ることはなかった。

 

「ただいま」

 二人でそういって一樹の家に上がる。出掛けると言ったら、今日の夕飯はおばさまが作ってくれるとのことだったので、そのまま頂くことにした。事情を知ってか知らないかは分からないけども、おばさまもなにも聞いてこない。私は黙々と夕飯を頂いて一樹と一緒に部屋に入った。

「今日一日だから、もうちょっと時間、あるわね」

 時刻は二十時半。今までは二十二時くらいまで居たことが多かったから、そのくらいの時間までは借りてても大丈夫。

「まだ何かあるのか?」

「少し。ね」

 一樹に背を向けてドアを閉めながら答える。そして向き直って言葉に出たのは「さて、なんでしょう?」という逃げの言葉。

 

 分かってしまった。私は一樹のことが好き。

 

 一樹は「何だろうな?」と言って首をかしげている。ここで押し切ったらどうなるんだろう。一樹は今日一日どう思ってくれてたのだろう。そんな思いがこみ上げてくる。

「この万年筆。こんなところに置いてあっても大丈夫なの?私が誰かに渡すために買ったって事になってたんじゃないの?まひるちゃんに見つかったら大変じゃない?」

 

「もう見つかってる」

「この前にさ。まひるちゃんが僕の机に座ったときにさ。何気なく引き出しを開けたらしくて。そのときに」

「一樹はなんて言ったの」

「香織がその人に断られて、持ってても仕方が無いから貰ってって言われた、ってことにした」

「言い訳としては上出来ね。じゃあ、改めて。これ、誕生日プレゼント。貰ってくれる?」

「はは。断った男の役か。いいよ。貰ってあげる」

「ダメじゃない。私、断られたんでしょ?」

「でもこれは、僕にとって大事なものだから。仮に断ったら香織、持って帰っちゃうでしょ?」

「かもね」

 私は机の上に万年筆を置いて一息ついてから、一樹の方に向き直ってこう言った。

 

「私、本庄香織は一ノ瀬一樹のことを愛しています」

 

「何、急に。それもまひるちゃんからの以来事項なの?ちょっとびっくりした」

「今のは私の言葉。頼まれた事じゃない」

「それって……」

「そう。私、一樹のこと好きになっちゃったみたい。でも迷惑よね?忘れて。ごめんなさい」

 私は逃げるように一樹の部屋を出て玄関の外に出て壁にもたれかかって、大きく深呼吸をした。一樹は私の事を追いかけてきてくれるのだろうか。一瞬そんなことも思ったけど、一樹は来てくれなかった。

 

「一ノ瀬先輩、香織さんとのデート終わりましたか?」

 まひるちゃんからのメッセージの着信音で目が覚めたようにスマホを手に取った。

「今終わった」

「ずいぶん遅くまでデートしてたんですね」

「すまんな」

「で、何のためのデートだったんですか?」

 ここでまひるちゃんに本当のことを伝えるべきか、僕は迷った。言って断ったと伝えれば、まひるちゃんとの関係は安泰。隠せばまた僕は泥沼にはまる。返信内容を入力しては消し、を繰り返してからこう返信した。

「香織はなんて言ったの?今日一日僕を貸して欲しい理由」

 そうするとメッセージではなく音声着信が入った。

「一ノ瀬先輩。香織先輩になにか言われたんですか?」

「なんで?」

「だってそんなこと聞いてくるなんて。女の子同士の話って言ったじゃないですか」

「気になったんだよ」

「気になるようなこと、香織先輩から言われたんですか?」

 ここで隠しても仕方ない、というよりも嘘をつき通す事ができないと思った僕は素直に香織から告白を受けたことを、まひるちゃんに伝えた。

「先輩は……。一ノ瀬先輩はなんて返事したんですか?もちろん断ったんですよね?」

 僕は間を開ければ開けるほど本当のことが言えなくなると思って、「何も答える事が出来なかった」、と口にした。

「今からそっちに行っても良いですか」

「今から?こんな時間から?僕がそっちに行くよ」

「じゃあ、待ってます」

 僕は上着を羽織って玄関を出た。

「香織?」

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