表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

エメラルドグリーンの瞳のアイツ

作者: 柚木

私は、あなたが好きだったのかも知れない――

 私が最初にアイツに出会ったのは、まだ寒い冬だった。

外に出ると寒くて、コートを着ていてもその寒さは身にしみた。


学校帰り、私は初めてあなたに出会った。

あなたはあったかそうな毛皮をまとって、のうのうと歩いていたね。

私が軽く会釈をすると、あなたは、ぷいっ・・・とそっぽを向いて歩いていってしまった。


感じが悪い。でも、それ以上にあなたのエメラルドグリーンの瞳に私は惹かれた。


それでも、何回か顔を会わせるうちに、少ないけれど、挨拶程度の会話を交わすようになったよね。

私はそれがたまらなく嬉しかったよ。


「今日はどこに行くの?」


そう聞いた私にあなたは


「どこでもいいだろ?」


ってそっけなくこたえてどこかに行ってしまった。でも、そのそっけなくこたえる顔のはしに、ちょっぴり照れた顔を見つけて、愛おしく思えた。


いつしか、一緒にいる時間が長くなって、何か話すわけでもなく、一緒に塀に腰かけて、ぼーっとしていることも多くなったっけ。


会話は相変わらず少なかったけど、少しずつ、少しずつあなたのことを知るようになった。


あなたは私よりずっと大人で、今は一人暮らしをしていて、この辺りに友達が住んでいること。


いつしかあなたは慕えるお兄さんになっていた。




ある日・・・・・。


あなたに会いに行くと、あなたの周りには友達がいた。

友達は双子の女性と一人の男性だった。


双子の女の人は、私をだいぶ可愛がってくれた。

悩み事をたくさん聞いてくれた。


「ねぇ。そろそろ将来のコトとか考えてるんでしょ?」


悪戯っぽさの光る瞳が私をじっと見つめた。


「まだまだです。でも・・・出来るかどうか、なれるかどうかわからないですけど、なりたい夢は持っています。」


「ふーん。何?」


目は私から離れない。


「いつか、私が自信を持って言えるようになったら聞いてください。」


自信がなかったから私は逃げた。あきらめなければいけない夢かもしれないから。


「そんなたいそうな夢なんだ。」


あなたは私が持ってきたセンベイをかじりながら聞いてきたね。


「・・・・」


私が応えなかったのは、自信がなくって、あなたの声が届かなかったからだよ。






しーちゃんが車にひかれた。



ひき逃げだった。犯人は見つかっていない。

しーちゃんは、双子のお姉さんだ。


皆落ち込んでいた。

もちろん私も。


私はブロック塀に腰掛けていたあなたの隣に座って言ったよね。

ちゃんと・・・届いたかな?


「私ね。あんた達を助けるため、医者になるよ。年取ったり、事故に遭ったりしたら、私が診る。絶対。」


これがあなたに言った最初の宣言。

今でも覚えてくれてたら、嬉しい。

しーちゃんに言えなかった宣言だから。

あなただけでもちゃんと覚えてて。


でも、夢は遠くって。


私は珍しく落ち込んでて、外は涼しくて。

あなたと会ってもうすぐ1年になる。


「ダメかもしれない。」


私はつぶやいた。

あなたの隣で。


「あんた達のための医者。無理かも。」


言い方こそそっけなかったが、目からは涙が流れ出ている。


「どうしてさ。」


あなたはまっすぐな目で見つめてきた。

真剣な話の時は、いつでも逃げないでこっちを見てくれたね。

その、エメラルドグリーンの瞳に吸い込まれそうになる。


あなたは、私が応えるまでゆっくり待ってくれた。


「バカだもん。今日も先生に言われた。『お前じゃ無理。』って。」


鼻をすする。


「あきらめるのかよ。」


「ごめん。」


苛々しているのが伝わってくる。


「ごめんね。」


私はたまらなくなって逃げ出した。

走って走って。

家まで帰ろうとした。


あなたは追ってきた。

でも、現役高校生の方が早い。

いくら、日本人より優れた脚力を持っていても、私だって足の速いほう。


あなたの指が、爪が・・・私を捉えそうになる。

髪の毛に触る。


でも、私は振り切った。


そして・・・しばらくあなたと会わなかった。


顔をあわせずらかった。

あんなこと言ったから当然だよね。


 春がやってきた。

家の周りには桜の木がある。

桜が綺麗に舞っている。


そんな中、私は高校最後の生活を送ることになった。


姿が見えた。

チラッと。

見違いかもしれない。

でも、私は追いかけずにはいられなかった。


「ねぇ!」


声をかけた。


やっぱりあなただ。


あなたはすこし照れた笑顔で迎えてくれた。


「俺の子だ。」


そこにいたのは可愛らしい赤ちゃん。


「え?!」


聞いてない。初耳。

結婚したんだ。


ショックかな?

好きだったから?

でも・・・


「おめでとう。」


ちゃんと伝えた。


「ありがとな。こっちのヤツなんか俺にそっくりだろ?」


双子だった。もしかして、相手は・・・


「で、こっちは、ゆき似。」


ゆきちゃんだ。双子の妹、しーちゃんの妹。


「ほんとだ。」


ふふっ・・・。

っとあたたかい笑顔になる。


「しーちゃんにも似てる。」


懐かしい日々が思い出される。


「当然だろ。双子なんだし。」


あなたの笑顔は、今までになく輝いていた。

私はその子にそっと触れた。

やわらかい。

かわいい。


「知ってる?双子って遺伝らしいよ。双子のきょうだいって双子を産みやすいらしいよ。」


ついこの前学校で習ったうんちくを披露してみる。


「へー。物知りだな。俺はもっと産まれてほしかったけど。」


あなたは子供を見る。

目つきが優しい。

石垣に二人で座りなおした。


こつん・・・


あなたが、ぴとっ・・・と私にくっつく。


「俺・・・・良い父親になれるかな?」


心配そうに空を見上げた。


「当たり前じゃん!あんたの子供でしょ。それに、ゆきちゃんだって。」


私がムキになって応えるとあなたは、私のひざに乗ってきた。


「ちょっと!重たいし!」


でも、私はあなたを無理にどけようとせず、そのままでいた。

この近さでいられるのが嬉しかった。


「浮気者!って怒られるよ?」


私が冗談半分に言うと、


「ばぁーか。お前みたいなガキには興味ないよ。」


っていわれた。

わかってたけど、ショック・・・かな?


「子供には強くなって貰わなきゃだな。自分でメシくらい用意できるようにして貰わないと・・・」


そしてあなたは笑った。

私も笑った。


ずっと、しばらく笑って、涙が出るほど笑って、落ち着いた頃に私は言った。


「・・・・。やっぱりね、私、諦めないから。ちゃんと・・・ちゃんと・・・夢を追ってやる!無理でも、負けるもんか!!!」


空に向かって拳を突き上げた。


「うん。頑張れ!待ってるから。御得意さんになってやるよ。」


あなたは私を見つめた。


「ダメじゃん。私、医者だよ?いつも来られたら・・・さすがに困る。」


でも、嬉しくって、私はあなたに抱きついた。


「期待してて。すぐになってやるから。」


しっかりと前を見据える。


私の漆黒の瞳と、あなたのエメラルドグリーンの瞳には、同じものが映る。


私は立ち上がって、背伸びをした。

                  

「さてと、勉強でもしますか!なんせ、獣医師だもん。道のりは長いよ!」


私があなたに向かって最高の笑顔で言った。


「にゃーぁ」


あなたも応えてくれた。


「うん!」


私は走り出す。


いつか、あなたの声が届く日まで。
















この話はフィクションだったり、ノーフィクションだったり。・・・。


エメラルドグリーンのアイツにはお世話になりました。

ゆきちゃんとお幸せに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ